第77話「先生なら、どうしてました?」
感想戦は、あくまで部員たちが主導で行っている。
自分たちで、良かったところ、悪かったところを出し合い、顧問が発言することはない。
刀真も刀真で、感想戦で気づいた事があれば、後日に課題として遣らせてみるといった感じで、気づかれないようにカバーはしていた。
勿論、問い掛けられれば答える訳で――。
カイロでの感想戦の後、どうしても気になって、顧問に尋ねた。
「先生なら、どうしてました?」
レーダーが使えないカイロでの変則ルールを知らない状態で、もし、その戦場に立っていたなら、どうしていたのか?
そんな
「お前と余り変わらないが、どちらかと言えば、上海でのお前の作戦に近いな」
「上海と同じですか?」
「あぁ、そうだ。四方に気を配り、盾を構えながら移動していた
「でも、あの状況では……」
「そうだ、そこなんだ。レーダーが使えないことから、視界の悪い霧の中を歩かされているような気分になっていたんじゃないか?」
「はい……」
「しかし、それはお前たちだけでなく、他のプレイヤーにしても同様だ」
「違うじゃないですか! オペレーターがマーキングして、ドライバーに教えてるんですよね?」
「ボケーッと突っ立った障害物なのか、お前らは? オペレーターが教えているのは、攻撃目標のためのポイントではなく、行動予測のためのポイントだ」
「先生、それは知っているからこそ言える答えで、質問の意図と違います!」
「違わないさ。仮に、お前たち以外がレーダーを使えたとしても、同じ作戦を取る」
「え?」
「変則ルールに引っ張られて、本質を見失っている。東儀、よく考えろ。レーダーが使えようが使えまいが、状況は変わらない筈だ。現にヨハンのようなレーダー外から狙撃できる者が居ると知ってるが、今までカイロと同じような行動をしてきたか?」
「それは、ヨハンレベルのスナイパーが多く居るとは思えないからで……」
「本当にそうか? 考えても居なかったんじゃないのか? じゃぁ聞くが、初心者の南城や安西に、GTX1800を薦めた理由は何だ?」
「扱い易く、動きが速いから……」
「そうだ、その利点を殺してどうする? 隠れて狙撃する奴は、一撃で仕留めなければ、自分の居場所を知られてしまうんだ。そんな奴が狙うのは、どんな奴だ?」
「動きの遅い……」
「そうだ。さらに言えば、固まって移動する集団だ」
「厳しいな、刀真。褒めた俺の立場が無くなる」
そう言って、ラルフは笑う。
「茶化すなよ。でもまぁ、言い過ぎたな、すまんな東儀。南城と安西は、今日が初めてだったんだ。初心者に合わせて行動をするのも……」
「いいえ、アタシが間違ってました」
あっさりと認め、深々と頭を下げる雅。
「ん? どうした?」
「上海が終わった後でのミーティングで、移動速度を上げようって言ってたんです……先生の言う通りです。レーダーが使えないと知って、動揺し、深く考えていませんでした」
重く沈んだ空気を一瞬で変える者が、突如として200インチのモニタに現れる。
「おいおいおいおい! 一機も墜ちちゃいないのに、反省かよ! 意識たけぇなぁ~」
「シナン……」
いつの間にやら、会議室に在るモニタに電源が入れられており、そこにはシナン・ムスタファーが映っていた。
「カイロで散々やられた俺には、どんな説教が待ってるんだ? 刀真先生よぉ」
「勘弁してくれよ」
「さてさて、この前居なかった……そこでパフェを
名を呼ばれた飛鳥は、手にしたチョコレートパフェを抱えながら、姉の背へと隠れる。
「アンタって子はもぅ、いい加減にしなさいよ」
そう言って、シナンに見えるように自分の椅子を少し引いたのだが、飛鳥はそれに合わせて椅子をズラす。
勿論、手にしたチョコレートパフェは離さない。
「サバイバルゲームに負けはしたが、あともうチョイでシリアルキラーを狩れて、タイガーに自慢が出来たんだがなぁ」
「そうだな、今の所コイツを墜としたのは、ヨハンだけだからな」と、ラルフが付け加える。
「あのまま続けても、墜とされませんでしたぁ~。それと、もうヨハンには墜とされません~」
姉の背から首だけ出し言い返すも、口の周りについたチョコレートが説得力を欠かせた。
ヨハンに墜とされないと言ったことに引っ掛かり、刀真はその攻略とやらを尋ねてみる。
「どうやって、ヨハンに勝つんだ? 640位以内に入れば、ログインし直しは使えんぞ。仮に出来たとしても、ログインし直してる時点で、既に墜とされてるんだがな」
「ひ、秘密ですぅー!」
あ、絶対、コイツ考えてねーな。
「ところでラルフ、サバイバルゲームの世界大会、なんでU-18なんだよ」
「いや、正確にはハイスクール限定で行こうと思ってる」
「なぜだ?」
「プロトタイプの生産が追いつかない。だが、学校へのレンタルなら用意が出来る。流石に全ての学校が手を挙げるとは、思えないしな。まぁ、それでも、全世界だから厳しい数になると思うがな」
「オーバーエイジ枠は、無いのか?」
「諦めが悪いなシナン、そんなの設けたら、資金力の在る学校がプロを雇いかねない。勿論だが、学生でも18以上ならダメだ。純粋なハイスクールだけなら、まだ部活という範囲内で受け入れられるだろ? それにな、参加できない者たちには、別の物を用意するつもりだ」
「なんだ?」
「秘密ですぅー!」
「コラァ! 馬鹿ラルフ! 真似するなぁ~!」
「悪口の時だけ『フ』つけてんじゃねーよ! それから、あんま喰い過ぎんなよ、アイドルになるんだからな」
そう言って、ケラケラと厭らしく笑うラルフ。
「それは、遣らない約束でしょうがぁぁぁぁーーーッ!」
「そんな約束した覚えねーな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます