第76話「広告塔」

「カイロでの戦い、あれだけ不利な状況でよくやったな。特に最後の、飛鳥をおとりに使って、シナンの死角を突いた作戦は、なかなかだ」


 ラルフの褒め言葉に、雅は謙遜けんそんする。


「カイロでしか、通用しませんけどね」


「その通りだ、その通りだが……君たちのお陰で、面白いアイディアが一つ浮かんだよ」


「え? なにするの?」


「な・に・を・す・る・ん・で・す・か、な!」と飛鳥を指差した後、振り返って刀真を指差し「お前んとこの教育は、どうなってるんだ!」


「面目ない」と言いながらも、笑う刀真。


「もぅ、ラルさん細かい男は、モテないよぉ~」


「俺には、マリアが居るからモテる必要はねーよ」


「で、なにすんの?」


「キーッ! 5人1組くらいでやる、サバイバルゲームの世界大会だ」


「わぁーお!」と、目を輝かせる飛鳥。


「殲滅戦か、大将戦か、フラッグ戦か……迷うところだな」


「大将戦も、殲滅戦も、不味くないか?」と言って、刀真は飛鳥を指差す。


 何を言ってる、一番ヤバイのは、お前の方だ!

 いや、もっとヤバイのは飛鳥とお前が組むことだが、お前らの性格上、それは無さそうだ。


「参加するかは判らんが、ルイスだって居るし、チーム戦で言えば、タイガーも居る」


「おい! タイガーは禁止じゃないのか?」


「3億突破したんだ、そろそろ解禁しても良い頃だと思ってる……サーベルタイガーもな」


 そう言って、自分の顔を見て笑うラルフを、刀真は睨んだ。


「と、言いたいところなんだが、今のままだと、プレイヤー側にも俺たちにも、問題がある」


「問題?」


「チームを組む時間、練習する時間、時差の問題がプレイヤー側に、そして、俺たちの問題としては、筐体をそんなに早く生産出来ないことだ」


「えぇ~! やろーよぉ、世界大会!」


「やるさ、しかし、今年中となると、やるとしたら……U-18《アンダーエイティーン》だな」


「おいおい、それだと間違いなく、こいつらの優勝になるだろ?」


「それで構わない。いやむしろ、そうあって欲しいくらいだ」


「どういう意味だ?」


 ラルフは、雅の方に振り返り、その意味を語る。


東儀雅とうぎみやび。君は強く、そして、モニタ越しで見るより美しい。世界基準レベルと言っても過言じゃない」


「おい、ラルフ、まさか!」


「君には、このゲームの広告塔になってもらう」


「客寄せパンダになれと?」


 不機嫌な顔で、ラルフを睨む雅。


「いいね、そういう顔もいい! 美しくて強い女性に惹かれるヤツは、結構多いからな。例え、君が負けても、その瞳から流れる涙は、ファンにとって、君を輝かせる宝石の一つに見えるだろう」


「パンダなら、もう居るだろ?」


「サーベルタイガーの事か、刀真? アイツは、ガチプレイヤー用でしかない。雅の方が遥かに、金を産む」


「金? ジムか?」


「ご明察」


「顧問として、反対する」


「どうしてだ、桃李は芸能も認めている筈だろ?」


「そこまで調べてたか……」


「刀真、これはインベイドの為だ。IDが3億突破したからとはいえ、俺たちの目標には、まだ遠い」


「しかしだな、広告塔なら、マリアでもいいだろ?」


「残念ながら、私はゲームが下手で、18歳以下でもないわ」


「それにな、刀真。どの道だ」


「どの道?」


「あぁ、雅が大会に出れば間違いなく注目されるだろうし、大会に出なかったとしても、お前が教えてるんだ。最低でもクイーン(32位以内)には成るだろ? 望まなくとも、広告塔になってしまうんだよ。なら、最初から覚悟はしておいた方がいい。違うか?」


「確かに、雅が注目されるのは間違いないし、後で騒がれるくらいなら、やってみてもいいんじゃない?」


「ちょっと、紗奈!」


「だって、こっちの広告塔をすれば、今年のミス桃李はまぬがれるかもよ」


「エントリーも未だなのに、なんでアタシって決まってるみたいに……」


「ほぼ間違いないと思う、賭けてもいいわよ」


「えー、なんでよ、他に綺麗な子いっぱい居るじゃない」


「去年の時点でも、2年しか選ばれないミスコンなのに、推薦状に貴女の名前が、ソコソコ書かれてあったのよ」


「はぁ? 嘘でしょ! なんでそんなこと知ってるのよ」


「1年の時、生徒会の書記でしたから」


 雅は、大きく溜息をき、改めてラルフの目を見る。


「で、パンダに、なにやらさせるんです?」


「お、覚悟したか? 特に今は、考えてないが……歌でも唄いたいか?」


「お断りします!」

 

「アイドル誕生ですね、雅先輩」と紬が揶揄からかった時、ラルフの目が光る。


「5人ユニットっていうのも、悪くねーな」


「えぇ~、アタシもアイドルに!?」と、満更まんざらでもない紬に対して、飛鳥は必死に抵抗する。


「ダメダメダメダメーーーッ!! ラルさん、なに言ってんの!」


「それまでに、人見知り治しとけよ~」


「ダメだってば、ラルさん! ねぇ、ちょっと! 聞いてるの? ダメだからね! ねぇ! ねぇーってば! ラルフさ~ん!」


 こうして東儀雅は、インベイドの広告塔となり、後にインベイドの発展に貢献した『19番目の使徒』として、数えられることになる。

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