第57話「Checkmate」

 刀真は、シリアルキラーの戦闘を観戦しながら、自分の攻略法をなぞった。


 まずは、ヨハンの誘導に乗らないのように、ポーン(兵隊)を倒さず回避しながら、ヨハンとの距離を測る。

 次に、ポーン全員の無敵時間が切れた所で、兵たちを一気に殲滅せんめつする。

 恐らくヨハンの兵たちは、リアルでも訓練を受けていて、すぐに戦場復帰できるように、交代の手際であったり、機体や戦場を選ぶことを許可されていない筈だ。

 つまり、人為的なラグが起こらないと考えていい。

 それを利用して、ログイン場所を誤認させ、一気にヨハンまで飛ぶ。

 ヨハンに接触さえすれば、兵たちも、おいそれと攻撃は出来ない。

 だが、好戦的なお前に、それを我慢することが出来るのか?


 ログインと同時に、兵の中へと飛び込んで行くシリアルキラー。


 あぁ~あ、やっぱり……突っ込んで行ったか……。

 あいつは、一体、何が解ったんだ?


 ラルフが与えたヒントから、自分とは違う答えを探すものの、ヨハンまで辿りつく答えが見つからない刀真であった。


 そんなシリアルキラーの取った作戦は――やはり、好戦的なモノだった。


 無敵時間の切れた機体から、次々と攻撃できないように両手両足を斬り落としては蹴飛ばし、生かさず殺さずの機体の山を築いて行く。

 

「凄い! あれなら、ヨハンのポーンを抜けれる!」


 モニタを観て、姉の雅が喜んだが、隣に立つ刀真は、それをあっさりと否定する。


「否、恐らく、あれでは駄目だ」


「どうして?」


「ヨハンの兵を攻撃できるのは、何も、お前の妹に限ったことでは無いからさ」


 それは俺も考えたが、あのヨハンがそれの対応策を考えていないとは思えない。


 刀真が予言した通り、ヨハンの動ける兵たちが、次々と動けなくなった味方の機体を破壊し、そして、ゲームオーバーとなった兵たちが再び、ログインして、シリアルキラーの前に立ちはだかる。


矢張やはりな、これで振り出しだ」


 雅は、自分の筐体へと駆け寄りながら「みんな、準備を!」と発して、乗り込んだ。

 その一声で、部員たちは散開さんかいし、ラルフの映ったPCだけを残して、それぞれの席に着き準備を始める。


「安西、そっちの観戦ウィンドウは、閉じて良いぞ」


 刀真は、ラルフを映したウィンドウを小さくし、画面端へ追いやると、新たに観戦用のウィンドウを開く。


「止めなくて良いのか? ローレンスの参謀」


 そう言って笑うラルフに、刀真は「手遅れだと思うが、何事も経験だ」と答えた。



 ヨハンは、遠く離れたシリアルキラーの攻撃ルートを予想し、照準を合わせる。


「戦闘馬鹿が、少しは考えたな。だが、その程度の策、想定の範囲内だ。じゃあな、シリアルキラー!」


「ご主人様、左舷200m先にログインを確認!」


「なに?」


「昨日、我々を墜とした、MIYABIです!」


「ほぉ、良いだろう、相手をしてやる!」


「待ってください、アイツは私が墜とします! ご主人様は、シリアルキラーを」


「よし、行って来い」


 ヨハンの許可を受け、GTMから離脱したフレデリカは、ログインしたばかりのMIYABIへと飛び立つ。

 ヨハンは再び、照準を合わせトリガーを引くと、光の矢は一直線に伸び、寸分の狂いもなくシリアルキラーを撃ち抜いた。



「戦闘機が一機、こちらに来ます!」


 安西美羽あんざいみうが、現在の危機的状況を伝える。

 続いて、南城紬なんじょうつむぎが、フレデリカのGTMの性能を告げるのだが、


「戦闘機は、GTF1524。攻撃はバルカン砲のみで、GTXでも15発まで耐えられる弱い物に、改悪されてます……え! 速度はマッハ4.2、GTW最速!?」


 驚きの余り、声を裏返すことになった報告が終わるよりも早く、それはGTX1800の横を通り過ぎた。


「戦闘機だし、小回りは利かない筈」と言った北川紗奈きたがわさなに、ラルフが注意をうながす。


「それは浅はかだぞ、MIYABIのオペレーター。このゲームにG(重力加速度)は在るが、プレイヤーには掛からない。実世界での戦闘機の動きだと思ったら、大間違いだぞ」


「これじゃ、どっちが顧問か判らんな」


 そう言って刀真が笑い、合わせてラルフも笑う。

 刀真は、シリアルキラーからフレデリカに視点を切り替え、その動きを観察する。


 ラルフの言った通り、フレデリカの扱うGTF1524は、戦闘機とは思えぬような奇抜な動きを繰り返し、雅を撹乱かくらんしていた。


 GTFのプレイヤーが居ない訳ではなかったが、これが極めた者の動きか。

 ルイスが背後を取られたのも、うなずける。


 それは最強とうたわれたサーベルタイガーですら、感心させられる動きだった。


「いかん! 距離を取れ!」


 だが、刀真がそう指示した時には、既に手遅れだった。

 GTX1800をくぐるように、目前で急降下した後、再び、急上昇して、GTX1800の背面に取り付く。

 無敵時間が解けるまでは、仕掛けて来ないだろうという思い込みが、隙を生んだ結果だった。


「しまった、動けない!」


 まるで鷲が獲物を掴むように、がっちりと固定され、両手両足を振っても、それを外すことが出来ない。


「昨日の借り、返させて貰う!」


 GTF1524に掴まれたまま、高度12000Mまで上昇し、そこから地面に目掛け、錐揉きりもみしながら、一気に急降下して行く。

 だが、地上まで残り1000Mを切ったその時、突如としてレーダーが警告音を鳴らし、それを見たフレデリカは青褪あおざめる。

 そう、飛鳥が再びログインしてきたのである、今度はヨハンの間近に。


「シリアルキラー! お前の好きにはさせない!」

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