第54話「チェス・プロブレム」

 GTWには、デザインコンテストが在る。

 ドライバーの使用数が票に直結され、その数の多い作品が賞に選ばれるシステムだ。

 最優秀作品には、30億円が贈られ、賞金総額は100億円となっている。


 飛鳥は、そんなデザインコンテストに投稿されているステッカー群から、GTX1000に合う物がないかを探していた。

 しかし、ゲームをしている訳では無い事と、投稿数もかなり多い事から、若干飽きてきた飛鳥は、ラルフにアプリ内通話を掛ける。


「一つ聞いていいか? お前、時差って知ってる?」


「ねぇねぇ、ラルさん」


「質問に答えろ! そして、フを付けろ!」


「ルイスってさー、オペレーター居るの?」


「あぁ、居るぞ」


 AIってのは、内緒だがな。


「ふぅーん」


「なんだ? オペレーターの必要性を感じてるのか?」


「んー、独りで遣りたいんだけどさー、ヨハンのレーザーがけれないんだよねー。突然、バッて来るからさー。オペレーター居たら、けれるんでしょ?」


「そう思っている内は、ヨハンには勝てんぞ」


「え?」


「勘違いしてるかもしれんから言うが、ヨハンはあんな手を使わなくても、5位には入れる実力がある」


「え! だったら、なんであんなことしてるの?」


「ヤツが誰よりも、プロフェッショナルだからさ」


「はぁ? 何それ? 意味わかんないだけど!」


「あ、お前、あれから3回も負けてるのか!」


「なに調べてんのよーッ!」


「お前、ちったー気をつけろよ。このまま負け続けたら、筐体取り上げるぞ」


「ちょ、ちょっと待ってよ! ステッカーさえ出来れば、あんな奴、やっつけてやるんだから!」


「それマジで言ってんのか? そんなんで勝てないのは、解ってんだろ?」


「あ! そうそう、ローレンスって居るじゃん」


「話し変えんな」


「それはもう、い・い・か・ら・聞・い・て!」


「はいはい、で、ローレンスがなんだ?」


「ウチの学校に、スパイ送り込んでたのよ!」


「はぁ? ローレンスがか?」


「そう! 全くもぅ、そこまでする、普通? しかもさぁ、アタシたちのゲーム部の顧問になってたのよ」


 ん? 確か、刀真がゲーム部の顧問になったって、タイガーが言ってたよーな?


 疑問に思ったラルフは、刀真に急いでメッセージを送る。


 [ お前、いつからローレンスの手下になったんだ? ]

 [ 東儀飛鳥と話してるのか? 済まない、話を合わせといてくれ。事情は、後で説明する。 ]


「でね、それが判ったのに、お姉ちゃんたち、そいつに教わるって言うのよ」


「そいつの名前は、なんて言うんだ?」


虎塚こづか刀真とうま


「あぁ、あいつか……」


「知ってるの?」


「お前も教わってみたら、どうだ?」


「嫌よ、スパイなんかに、敵じゃない!」


「ヨハンに、勝てるかもしれんぞ」


「え?」


「虎塚は、凄い優秀な奴だ。虎塚に教われば、間違いなくヨハンに勝てるだろうな。もしかしたら、ルイスにも勝てるかもな」


「サーベルタイガーは?」


「それは判らん」


「え? ルイスよりも強いの?」


「戦わなくなって半年以上経つからな、今は判らんが……俺はそれでも、サーベルタイガーの方が上だと思ってる。じゃなかったら『倒したら1億』なんて言わねーよ。あぁそうだ、お前に一つ教えといてやる」


「なに?」


「サーベルタイガーに、オペレーターは居ない」


「え!」


「そして、間違いなく、対戦すればヨハンにも勝つだろうな」


「どうして? サーベルタイガーなら、けれるって言うの?」


「問題ないだろうな。奴は視野が広いからな」


「視野が広い?」


「そうだ。サーベルタイガーは、オペレーター並の視野を広げるため、そこそこ動き回ってるんだ。そして、ヨハンのチェスプロブレムには、付き合わない」


「チェスプロブレム?」


「あぁ、詰め将棋のことさ。ルイスが言ってたんだがな、ヨハンはチェスプロブレムをしてるんだそうだ」


「……」


「ん? どうした?」


「解ったわ、ありがとう、ラルさん」


「だから、フを付けろ! おいコラ! まだ続きが! 切りやがった……」



 ――奴には、クイーンが居る。


 それは、ヨハンのクレームの山が毎日のように続き、自分の判断が間違っているかどうかを確認する為、会議を開いた時にルイスが言った、ヨハンの強さだった。


「ヨハンについて、お前たちの見解を聞きたい?」


 まず、口火を切ったのはローレンスだったのだが、その答えは意外なものだった。


「俺は、ヨハンと戦ったことが無いんだ。だから、この会議に参加する資格が無いと思う」


「え? お前ほど、戦績あるのに、戦ったこと無いのか? 何故だ、ヨハンがローレンスを狙わない理由でもあるのか?」


 その質問に、ルイスは笑って答える。


「簡単な理由さ。奴は、このゲームでチェスプロブレムをやってるんだよ」


「チェスプロブレム?」


「そうだ。タイガー、お前も、このゲームで『詰め将棋』を持ち込む感じだよな?」


「敢えて言い換えるということは……ヨハンのは、成らないということか?」


「そうだ、流石だなタイガー」


 帯牙の仕掛ける戦術は、ベースはあるものの、戦局によって臨機応変に対応する為、場合によっては『歩』が『と』に成ることがある。


「それでなんで、俺をける?」


「お前んトコには、優秀なオペレーターが1000人も居るだろ。奴からしたら、チェスのプロが1000人居るようなもんだ。幾らチェスに自信があっても、アマ3段程度がだ、プロ1000人相手にやるか?」


「なるほどな」


「奴は、ポーンをポーンとしてしか使わん。ただ、時にはその中にナイトやルーク、ビショップも混ざっている事があるんだ。だが、それは大した問題じゃない。問題なのは、奴にクイーンが居る事だ」

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