第53話「表裏一体」

「先生、もう一つ、観て貰いたい物が……」


 そう言って、再生しようとする雅を紗奈が止めに入る。


「ちょ、ちょっと待って雅、飛鳥ちゃんの戦闘を再生しちゃ……」


「何言ってるの? ここで再生するのも、先生が家で再生するのも変わらないでしょ?」


 なんだ、解ってたのか。


「だからって、はいどうぞって言うのも……」


「今しかないのよ、飛鳥を帰した今しか」


「ん? 東儀、どういうことだ?」


「今、あの子は難しい相手に対戦を挑んでいるんです。返り討ちにあって、連続で3回墜とされました」


「ルイスか?」


「いいえ、ヨハンです」


「ヨハンに?」


 自分と同じタイプに感じる飛鳥が、ヨハンに負けることを不思議に思い「とりあえず、再生してみろ」と雅に指示する。

 再生して、30秒も経たない内に「もういい、判った」と停止させる。


「さて、どうしたいんだ? 妹を帰したということは、あいつは俺に教わるのが嫌なんだろ?」


「教わるのが嫌というより、自分ひとりで何とかしたい子なんですよ」


「なら、教えない方が良いのではないのか?」


「相手がヨハンでなければ、負け続けても、口出ししないんですが……」


「ヨハンのプレイスタイルか?」


「はい、このままヨハンと戦い続けるのは、このゲーム自体を嫌いになりそうな予感がするんです。ですが、妹の性格からして、ヨハンに固執こしつすると思うんです。ですから、その前に、なんとなくでも、ヒントを与えることが出来れば……」


「なんとなくか……そいつは難しいな」


「そんなに、ですか?」


「あぁ、アドバイスすれば、勝てる可能性はあるが、なんとなくでアドバイスが出来るかが疑問だな。まぁ、攻略はお前に教えておく、あとは好きにするといい」


 刀真は、オペレーター用PCを操作して、飛鳥のログイン時に巻き戻し、画面をタッチしたのだが「あ、タッチパネルじゃねーのか、コレ」と笑って、キーボード操作を始める。


「先生の家では、タッチパネルなんですか?」


「あぁ、申請すれば、お前らも……変えてもらえるのか? 一度、申請してみるといい。よし、ではシリアルキラーを中心に500mに視野を広げる」


「え! そんなこと出来たんですか!」


「北川、戦闘時のオペレーティングだけでなく、こういうことも覚えておくといい。仕様マニュアルは、このヘルプボタンから入れる。内容は、気が遠くなるくらい分厚いが、その分、強くなるには必要な行為だ」


「はい……」


「では、はじめようか、この視野で再生を最後までやる。各自、なんでもいいから、気づいたことがあったら、言ってみてくれ」


 1回目、シリアルキラーが撃墜されるまで再生したが、気づいたものは居なかった。

 引き続き、今度は同じものではなく、2回目の戦闘を再生する。


 1戦目では、まず気づかないだろうな。

 この2戦目で気づくヤツが、現れるか?


「あ……」


「なんだ、安西?」


「間違ってるかもしれないんですけど、戦い方が同じ気が……」


「特攻ってことじゃないでしょうね?」


「解ってるわよ、つむぎの意地悪!」


南城なんじょう、その答えでも良かったんだぞ。学校の授業でもよくあることなんだが、まずは声を出すことから始めないと、誰も言い出さなくなるもんなんだよ。では、安西の答えを詳しく聞いてみようか」


「同じ動きのような気がするんです。これがこう行って、あれがあー行って、うーん説明するのが難しい」


「安西、正解だ。解りやすく説明するには……この部屋に黒板も、ホワイトボードもなしか……まぁ、これでいいか」


 そう言って、他のPCからキーボードを抜き、キーを外し始め、机に並べる。


「このバックスペースキーをシリアルキラーと見立て、他のアルファベットキーたちをヤツの兵とする。では安西、動かしてみろ」


「えっと、最初は違うんだけど、飛鳥が10機くらい倒してからかな? 動きが同じなの。飛鳥がこう行って、こいつが掴もうとするのを飛鳥が倒して、すると後ろのこいつが飛鳥へ行って、今度は飛鳥がこう動いて、そしたら、こっちのヤツがこう動いて、すると飛鳥がこう動いたら、次はこっちのヤツがこう来て、飛鳥がこう……」


「あぁぁぁー! 解った! 飛鳥は、動かされてるんだ」


「その通りだ、東儀。お前の妹が動きのパターンにはまったところで、ヨハンはシリアルキラーが通るであろうコースへ撃ち込む。ヨハンはロックオンしないから、危険範囲に入った熱源反応でしか対応できない。そして、オペレーターの居ないお前の妹は、それに気づくのに遅れ、ヒットする」


「飛鳥に、オペレーターが居れば勝てるのですか?」


「マシになる程度だろうな」


「もし、先生がオペレーターしたら?」


「南城、無い『もしも』を言うもんじゃない……と言いたいところが『何でも言え』って言ったからな、答えよう。たぶん、俺が遣っても勝てない。それは、本人の問題でもあるんだ」


「飛鳥に問題が?」


「お前の妹は、反射神経が良過ぎるんだ」


「え? ゲームで反射神経が良過ぎて、駄目なことってあるんですか?」


「反射神経が良過ぎると、悪い癖が付く場合があるんだ」


 昔、俺にもあった悪い癖がな。

 あれは叔父さんと、アクション型のシミュレーションゲームをしてた時だった。


「くっそー、また負けた!」


「刀真、お前は反射神経が良過ぎるせいで、直前で避けようとする悪い癖がある。そして、その所為で視野が狭くもなっているんだ」


「視野が狭くなってる?」


「お前は、12手先までしか読んでないんだ」


「え? そんなことないよ!」


「自覚が無いのか……それは、たちが悪いな。お前は、一つ倒す毎に一つ増やしているだけで、手数自体は12ほどしかない」


「じゃぁ、13手あれば負けるの?」


「違う違う、お前が読めない視野の範囲外に配置してから、13手目で詰むんだ」


「え?」


「思い出せ、お前が焦ってから13手目だ」


「あー」


「やっと気づいたか。しかしなぁ、この癖を治すのは難しいぞ。ギリギリでかわすって、楽しいしカッコ良いからな」

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