第52話「距離適正」

「それじゃ、飛鳥は家に帰ってプレイを」


「了解」


 飛鳥は、他の部員たちに敬礼した後、再び、アッカンベーを刀真へと向け、部室から走り去った。


 えっと……もしかして、帰らせる事がスパイ対策のつもりなのかな?

 プレイ内容は、いつでも、誰でも、他人のプレイでも、観戦することが出来るため、正直言って、GTMを操作しているところや、まして、オペレーターでのプレイなど、観る必要が無い。

 しかし、それを言ってしまうよりも、対策をしたと思わせていた方が、好都合か?

 わざと「しまった!」とか「やられた!」てきな、台詞や表情でもしておいた方が良いんだろうか?


 と、迷ってる刀真に、雅の声がようやく届いたのは、3回目の語気強めた「せ・ん・せ・い!」だった。


「あぁ、すまん。なんだ?」


「これを観て、先生の対策を教えて欲しいんですが……」


 そう言って、MIYABI対スカルドラゴン戦を再生する。


 これは言わば、虎塚へのテスト。

 本当に、優秀なオペレーターなのかどうか、アンタの答えを聞かせて。


 再生が終わると、刀真はぐに答えを出した。


「東儀、妹を使うのなら、なんの問題も無いんだが?」


「いえ、私と紗奈……北川さんだけで遣りたいんです」


「そうか、では、今のお前たちの実力が見たい。5分で構わないから、プレイを見せてくれ」


 しかし、開始3分を過ぎたところで「OKだ、降りて来い」と、刀真はプレイを終了させた。

 そして、戻ってきた二人に告げられたのは、答えではなく、質問だった。


「まず、お前たちに聞きたい。お前らはスカルドラゴンを倒したいだけなのか? それとも、このゲームで強くなりたいのか? どっちだ」


「このゲームで強くなることは、スカルドラゴンを倒すのに繋がらないのですか?」


「1回倒しておきたいだけなら、一週間も掛からない内に、それは果たせる。だが、ヤツも馬鹿じゃない、対策というか弱点は補ってくる。そうなると、その次から暫くの間、勝てんようになるだろうな。それでも良いなら……」


「良くありません!」


「だよな。そうなるとだ、比率的に7対3くらいで勝ってるくらいに成りたいんだろ?」


「はい」


「現状での自力は、スカルドラゴンの方が上だ。7割以上の勝率を維持するには、お前自身の自力を上げなければならない。言ってる意味は解るな?」


「解ります」


「そうなると、時間が掛かるんだ」


「飛鳥は、妹からは、時間掛けなくても勝てるような感じで言われたんですが……」


「それが俺の言う『1回だけで良いなら』だ。どうせお前の妹の事だ、簡単に『斬れば良い』とでも言ったんだろ?」


「はい……」


「だろうな。聞いて来たのがお前の妹なら、俺もそう言うよ。だが、お前は妹とは違う」


 妹と比較され、雅が少しキレた。


「才能が無いのは、解っています!」


「ん? 違うぞ、東儀。俺が言いたいのは、距離適正だ」


「距離適正?」


「あぁ、お前の妹は、超が付くほどの接近戦タイプだが、俺が思うにお前は、中間距離で力を発揮するタイプだ」


「中間距離……ですか?」


「今のお前のベスト距離は、124mだ」


「随分と細かい数字を言い切るんですね」


「北川、疑うのなら、124mを保たせながらテストしてみろ。ベストスコアが出せる筈だ」


「そんな細かい一定距離を、保ち続けるなんて……」


「北川……強くなりたいのは、東儀だけか?」


 そうだ、アタシも強くなるって誓ったんだ!

 くっそー、言われて悔しいけど、その通りだわ。


「やりますよ、やってみせますよ! それでスカルドラゴンを倒せるんなら……」


「否、まだだ。まだ足りない。そうだな、東儀、当分の間、ソードの使用を禁止する。拾うのも……すまん、専門用語だった、鹵獲ろかくも駄目だ」


 この緊張感のある会話の中、一年の安西美羽あんざいみうが刀真の言葉が気になって、つい口を出す。


「先生、鹵獲の方が専門用語だと……」


 そう指摘され、刀真は笑った。


「確かに、そうだな。専門用語というよりは、一部のプレイヤーの中で流行った、言葉というべきだな。落ちてるのを拾うのも、相手から奪うのも、拾うって共通で言ってたんだ。例えば、二刀流で出撃して、銃は要らないのか?と尋ねられたら、途中で拾うから大丈夫って答えるのさ」


 部員たち全員が「へぇ~」と、感嘆の息を漏らし、再び、安西が問い掛ける。


「先生って、いつからやってたんです?」


 その質問に、少し戸惑ったが、よくよく考えてみれば『ローレンスの配下』って事になっているのだからと、


「非公開時代からだ」


 それを聞いて、雅が紗奈の方を向き「正解だったわね」と微笑み、紗奈も応えるように頷いた。


「なにがだ?」


「先生を顧問にしたことよ」


 しまったー!

 俺は、二択をミスったー!

 無能を演じれば、顧問を外れていたものを。

 俺の今後の連休がぁぁぁーッ!!


 そんな顧問の悔しさを部員たちは、知る由も無かった。

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