第49話「名探偵登場」

 常識。

 一般人が共通に持っているべき、普通の知識や意見、判断力がそれに当たるそうです。

 ですが、自分にとっての常識が、他人に通用しないことは、多々ある訳で――。



 もぅ、日曜だっていうのに!

 連休が台無しだー、チクショー!

 俺の週休二日制を返せ!

 あぁ、今日も面倒なゲーム部の顧問。

 嫌だわー、行きたくねーわー。


「風邪ひいたってことに……」


「何、小学生みたいな嘘吐こうとしてんだよ! なんなら、代わりに俺が行ってやろうか?」


「駄目だ、それだけは! 絶対に! いくらクソガキどもとはいえ、生徒は守らないと!」


「ボケる暇あったら、サッサと行け!」


「あぁ~、もぅ、面倒くせー!」

 

 そんな虎塚刀真が学校に着いたのは、午前9時前。

 すでに、ゲーム部の生徒たちが、部室前で腕を組み待ち構えていた。


 ん? なんか……あいつら……睨んでないか?


「お、おはよう」


「おはようございます!」


 しまった、俺から挨拶してしまったじゃねーか!

 それより、なんなんだ、こいつら?


 すると、北川紗奈が椅子を部屋の真ん中に置き、刀真に座るよううながす。


「な、なんなんだ、お前ら?」


「先生に、お話があります」


 そう言うと、紗奈は腕を組んだまま、左右に歩き出した。


「最初に、違和感を覚えたのは、筐体がこの部室に到着した日でした」


「え? 何が始まるんだ?」


「先生は、黙って聞いていてください」


「あ、ハイ……」


「そう、貴方は筐体の数字を見て、ランカーか?と言ったのです」


「インベイドは有名だから、誰でも知ってるだろ?」


「そう、あの時も、そう言って貴方は誤魔化しました」


「いやー別に、誤魔化しては……」


「貴方は、こうも言われました。あれは、東儀の専用機か? それとも、申請された機体を試しているのか?と」


 その台詞で、つい黙ってしまう。


「忘れたとは、言わせませんよ」


「あぁ解った、白状するよ。この学校に来る前に、ちょっとやってただけ……」


「装甲2%削って、推進3%増しってトコだな。チョットやってた人の台詞では、有りませんよね?」


 ッチ! あんな呟いた声をよくもまぁ。


「そして貴方は、重大なミスを犯しているんです」


 え?


「もし、ゲームに興味があるのなら、ゲーム画面を、つまりはパイロットである雅の方を見る筈なのに、貴方は、飛鳥ばかり見ていた」


 そんなに長く、見ていた……のか?


「彼女が、このゲームでシリアルキラーと呼ばれてるのを、ご存知だったのではないですか?」


「いや、何の事だか……」


「まさか、飛鳥みたいな子が好みな、ロリコンなんですか?」


「それはない!」


「先日の金曜日、貴方は慌てて帰宅されましたね? それを南城紬なんじょうつむぎが目撃しています」


 紗奈が振り返って手を指すと、そこに腕を組んで立っているつむぎが大きく頷く。


 不味い!

 対戦前に、バレる訳にはいかん!


「いや、それは用事があって……」


「用事? それは貴方が急いで帰った30分後に、インベイドの緊急速報で知らされたGTWイベントの事ですか?」


「ち、違う……」


「一つ一つは、大した証拠と言えないけど、全てを繋ぎ合わせれば、貴方が何者なのかは明らかです!」


 最早、ここまでか……。


 紗奈は、刀真を指差して、導き出された答えを告げる。


「貴方は……東儀飛鳥をスパイする為に、この学校に派遣された、誰かのオペレーターなんでしょ!」


 へ?


 呆然としている刀真に追い討ちを掛けるべく、紗奈は推理を完成させる。


「貴方のボスが誰なのか、当てて見せましょうか? そんな事をしそうなのは、世界に一人しか居ない! ゴーゴルの会長ローレンス・ミハイロフよ!」


「え? いや……それは……」


 待て待て待て待て待て、これ利用できるんじゃないか?

 そうだ、これを認めれば、俺は顧問を外される!


「参ったなー、バレちまったかー。そうだ、北川、お前の言う通りだ!」


「やっぱりね……残念ですよ、先生」


「すまんな、これも仕事だったんだ。いつからだ、いつから俺を疑ってた?」


 まるで、推理ドラマの犯人のように、刀真は紗奈の推理に付き合う。


「最初からです」


「最初?」


「先生は、関係者でしか知りえないことを口にしたんです」


「え?」


「筐体の金額ですよ。筐体の金額は、施設の社員ですら知らなかったんです」


「あ……なるほどな……じゃ、バレたことだし、俺はこれで失礼するよ」


「待ってください」


「ん? あぁ、顧問の引継ぎか? 心配するな、校長は居ないから、教頭にでも言っておくよ」


「待って!」


「なんだよ!」


「顧問は、続けてください」


「え? なんで? 俺、スパイなんだぞ!」


 違うけど!


「もう先生しか居ないんですよ、顧問」


「え? 居るだろう? 掛け持ちしてもらえば、いいんじゃないか?」


「それが無理だって言われたんです! 虎塚先生が受けたら、部を認めるって教頭先生に言われたんですよ」


「ちょっと待て、俺がOKする前に、工事終わってたじゃねーか!」


「それは校長先生が、任せておけって」


 あんのクソ狸(校長)がぁ!


「先生のお立場もあるでしょうから、スパイは続けてもらって結構です」


「は?」


「スパイされたって、負けないもんねー!」と、雅の背後からアッカンベーする飛鳥。


「その代わり、条件があります」


「なんだ?」


「先生が、優秀なオペレーターであることは解りました。ですので、顧問として、私たちが強くなるよう指導してください」


 メンドクセー!!



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[補足]


 最初の語りは、紗奈が『古畑任三郎』っぽく喋っていると思ってくださいw

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