第47話「ヨハンの城」
戦争や人殺しが、好きだった訳じゃない。
学の無い俺が傭兵稼業を選んだのは、単純に金が良かったからだ。
今までに、何人殺したかなんて覚えちゃいない。
毎日、殺されるかもしれない恐怖に怯え、毎日、殺すかもしれない敵が現れないことを神に祈った。
数え切れないほどの人を撃ち、数え切れないほど、神に
「次は争いのない国に生まれ変わりな、エイメン」
毎日が地獄だった。
だが、慣れとは怖いもんだ。
最初は、
しかし、いつしか自分の才能に酔いしれ、それを楽しむ自分が居る事に気付いた。
まるで、狩りを楽しむハンターのように――。
休暇で故郷に帰った俺は、友人に誘われるがままにゲームをする。
「何の因果か知らんが、ゲームでも人を撃つとはな……」
空調の
全く、よくもまぁこんな楽しいか悔しいかだけの感情しか湧かない代物で『犯罪や戦争へ助長させる物』などと……呆れてものも言えん。
「ヨハン凄いなぁ、本当に初めてなのか? トップじゃないか」
当然だ、プロフェッショナルなんだからな。
「ヨハンなら、プロになれるんじゃないか」
もうなってるよ。
「80万ユーロ(凡そ1億円)稼ぐことだって、夢じゃないんだぜ」
「おいおい、幾らなんでも、そいつは殺し屋にでもならん限り……」
「殺し屋? お前、知らないのか? 最近、エレクトロニック・スポーツと言って、ゲームのプロが出来たんだぜ」
「ゲームで、80万ユーロもか?」
こうして、俺は傭兵からゲームのプロになった。
理由は至って単純明快、こっちの方が金が良く、安全だからだ。
最早、スリルを楽しむような歳は過ぎた。
それから俺は、割りの良いゲームに次々と乗り変え、時には所属するプロチームの移籍も頻繁に行った。
最初の頃は、80万ユーロ稼げると言われ飛びついたが、チーム戦であるが為、賞金はチーム維持費を抜かれた後に分配され、時には、仲間のミスで予選落ちも度々あった。
個人種目の格闘ゲームもあったが、自分には合わなかった。
そんな俺の2024年までの平均年収は13万ユーロ、傭兵時代と比べれば倍近くあるが、80万にはほど遠い。
そして、2025年、インベイド社のGTWが世に現れる。
幾ら無料でも、金にならないゲームに興味は無かったが、プロ化が発表され、試しにプレイしてみたところ、驚くほど俺に合う。
特に、FPS《ファーストパーソン・シューティング》でありながら、一人でも稼げるのが最高だった。
プレイヤーの少ない地域に降り立ち、そこから狙撃する。
幾らランクが高くとも、遠く離れた俺一人を倒しに来るものは、極めて少ない。
まして、オペレーターを持たない素人や、400位以下のセミプロは、
チキン野郎!
そんなプレイして、楽しいのか?
テメーなんざ、辞めちまえ!
死ねよ、ヨハン!
数え切れないほど、暴言を浴びた。
もしかしたら、俺が殺した人の数よりも、多いかもしれないな。
だが、それもまた、俺にすれば勲章のようなものだ。
実力じゃ勝てないから、せめて暴言を吐きたいのだ。
悪役で結構。
それで負けてくれるなら、幾らでも聞いてやるよ。
暴言で、死ぬ訳じゃない。
ゲーム如きで喧嘩になって、殺人を犯す馬鹿も居るというが、オタク野郎に殺されるほど、
良い飯を喰い、良い女を抱き、面白おかしく生きてやる。
俺の人生は、お前らほど、安くないんだ。
このゲームが
「ご主人様、前方200m先にログインを確認」
「ん? 誰だ? ルイスか?」
「いいえ、シリアルキラーです」
「フン、この前の仕返しのつもりか? 返り討ちにしてやる。フレデリカ、いつも通り行くぞ」
「了解しました」
いつも通り、それは如何にログインしてきた相手がランク外の素人であったとしても、一定の距離を取る、つまりは逃げるのだ。
「フレデリカより、各班へ。ヨハン様が狙撃距離を確保する為、移動します。護衛班以外は、シリアルキラーの相手をするように」
ヨハンは、ゲーム内での同国のプロを信用してはいなかった。
裏切りシステムが実装されているからと言うのもあるが、プロがランクを犠牲にしてまで、自分を守る事の方が考え難く、また、アマチュアである為、ゲームオーバーになっても、同じ戦場に復帰できるという優位があったからだ。
ヨハンのオペレーターは、フレデリカ一人であるものの、雇ったプレイヤーは凡そ20人。
その20人というのも、ヨハンがプレイ及び、宿泊するインベイド施設のアマチュアの筐体数が20台だからだ。
インベイドの施設でありながら、その建物は『ヨハンズキャッスル』と呼ばれ、実質、日雇いのプレイヤーが集まる場所となっていた。
オペレーターは、年収の5%が自動的に振り込まれるのだが、自分で雇った場合、その額は自分で決められる。
安くあがるというのもあるが、たった5分で支払われる割の良いバイトである為、プレイヤーは順位を気にする事無く、思い切って行動してくれる。
ヨハンが支出する年間のバイト料は、凡そ6000万、個人が支払う額としては大きいが、王の年収から考えれば3分の1程度だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます