第46話「感想戦」

「あのさー、アンタに聞きたいんだけど、その前に、これ観てくれない?」


 そう言って、オペレーター用PCで雅が再生したのは、昨日のサーベルタイガー対スカルドラゴン戦。

 目をらしながら、再生、停止、巻き戻しを繰り返し、いつも以上に真剣な眼差しでモニタを見つめる妹を頼もしく思いながら、雅も自分なりの答えを見つけようと、同じように真剣な眼差しをモニタへ向ける。


「やっぱり……」


 そうこぼした飛鳥に、雅が問い掛けた。


「なに? なにか解ったの?」


「うん……やっぱり、ステッカーあった方がカッコいい!」


「ソウデスカー、じゃ・な・く・てぇ! アンタなら、どう闘うかって、聞・い・て・る・の!」


「ん~、ちょっと分らないなぁ」


「アンタでも、分らないの?」


「うん、なんかねー、手を抜いてる気がするんだ」


「え? コイツ、もっと強いの!」


 そう言って、雅はスカルドラゴンを指したのだが、飛鳥は思いっきり首を振る。


「違う違う、こっち!」


「え? 違う違う、アタシが聞きたいのは、そっちじゃなくて、こっち!」


「なんだ、タコさんの方かぁ」


「ん? ちょっと待って、サーベルタイガーが、手を抜いてるの?」


「うん、たぶん」


「どうして?」


「剣で良いのに、わざと銃を使ったんだよ」


 ほぉ~、見破られたか。

 派手にデビューしろって、命令だったからな。


「たぶんねー、こいつカッコつけだよ、きっと!」


 え?


「ほらぁ、このタコさんの足ってさー、銃だと同じ場所に2回当てないと切れないんでしょ?」


 すると飛鳥は、妙に顔をキリッとさせて、髪をかきあげ、


「当てられる俺、凄いだろ? て・き・な!」


「えぇぇぇ~、ナルシストなのコイツ? キモ~イ!」


 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、違うから!

 魅せる演出の一つとして、やっただけなのにぃ!

 それに運営側として「それ出来る人も居るんですよ」って、教えたみたいなモンだし!

 クッソー、言いたいけど、言えねー!


「嫌なヤツね」


「だねー」


 チクショー! ムカつくー!

 このクソガキどもーッ!

 あー帰りてぇー、早く帰りてぇー!

 なんでりにって、土曜の朝早くから学校に呼び出されなきゃなんねーんだよ!

 しかも、おめーら、二人じゃねーか!

 家でやれよ、家で!

 休みの日に、態々わざわざ呼び出しやがって!

 あぁ~、早く、終わんねーかなー。


 桃李成蹊とうりせいけい女学院は、週休二日制になっており、本来、土曜日は休みなのだが「クラブ活動が有るから来るように」と、体育教員の田辺から虎塚刀真こづかとうまに電話が掛かって来たのだ。


「そんなことより、こいつ(スカルドラゴン)の闘い方変わってるんだけど、アンタなら、どうするの?」


「え? 変わってないよ」


「だってほら、他のGTM掴んで振り回してるじゃない」


「先がデカくなったってだけだよ。むしろ掴んで振り回してるから、スピード落ちてて、余計にやり易い」


「えーッ!」


「凄く見えるだけだよ。たぶん、お姉ちゃんも、この場で闘ってたら、前よりやり易いって感じたと思うよ」


「そ、そんなもんなの?」


「そんなモンだよ」


「それはそうと、ルイスって、どうだったの?」


「凄く強かった。ヨハンってヤツに撃たれてなくても、たぶん、やられてた」


「その割りに、悔しそうじゃないわね」


「悔しいよ。悔しいけど、どっちかって言うと、ワクワクする方が大きいかな?」


「アンタが、そんなにメンタル強いなんて知らなかったわ」


「違うよ。今までドキドキするような相手が、少なかったから……」


「え? 今まで、何人居たの?」


「昨日のルイスさんと、副社長のタイガーさんだけかな?」


 良かったな、叔父さん、運命かもしれないぜ。

 あと……口が裂けても、ローレンスには言えんな。


 脳内での自分の呟きで、つい噴出してしまい、東儀姉妹に睨まれる。


「あ、すまん、すまん」


 ん? なんで謝ったんだ俺?

 朝早く、呼び出されてんだぞ、笑うことも許されねーのかよ!

 くっそー、昼で終われ!

 飯休憩して、午後からもって言うなよ!


「次ぎやったら、勝てそう?」


「分からない、次ぎやって勝ったとしても、運が良かっただけって、思う気がする」


「アンタから見て、サーベルタイガーと、どっちが強いの?」


「昨日帰ってから、全部観たけど、サーベルタイガーって、動きにバラツキがあるの」


「バラツキ?」


「うん。凄く強い時と、そーでもない時」


「もしかして、わざと?」


「判らない。お姉ちゃんもバラツキがあるけど、お姉ちゃん以上に、その差が大きいんだ」


 わざとだよ!


「でもさー、もしも、わざとだとすると……相当、性格が悪いね」


「だねー」


 こ、このクソガキどもがぁぁぁーッ!

 ん? もしかして、俺って知ってんじゃねえのか?

 態とか!

 お前ら、態と煽ってんのか、コラッ!

 否、違う、まだ対戦してないから、その可能性は極めて低い。

 クッソー、顧問なんて引き受けるんじゃなかった!

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