第45話「勝者の行方」

 サーベルタイガーへ向かえば、ルイスに背後を取られ、間違いなく撃墜されてしまう。

 タイムリミットまで3分を切った今、最早、飛鳥は目前の敵に集中するしかなかった。


「よくも、お父さんの車の改造費を邪魔してくれたわね!」


 GTMの全長の平均は16m、ルイスが搭乗するGTX555は、最小の12mほどしかなく、両手両足が武器というカテゴリになっており、4本の剣を持っているようなものではあるのだが、相手のふところに入らなければ当たらないほどに、リーチが短かった。

 その為、GTX555もまた、GTX1000同様、ルイス専用と呼べる機体で、乗りこなすには、現役プロサッカー選手並の反射神経と運動能力が要求される、難しい機体だった。


 サーベルタイガーと闘うまで、無傷でいなければならないしばりプレイから、目の前の相手に勝てば良いに変わった飛鳥の攻撃は、さらに苛烈さを増すのだが、ルイスは追い込まれる振りをして、地上へと誘う。

 2体が地上へ降りたところで、ルイスの動きが突然変わる。

 まるで、間接が壊れたかのようにフラフラと歩いたと思えば、突然、糸が切れたマリオネットのように、しゃがんだり、倒れたりしだした。

 にも、関わらず、飛鳥の攻撃は当たらない。


「なに、コイツ? 当たりそうなのに、当たらない……幽霊みたい」


「なんだ、あれは?」


 その光景を観て驚いた刀真に、帯牙が笑って解説する。


「そうか、お前に昔の中国映画を観せたことなかったか、あれは酔拳すいけんだ」


「すいけん?」


「あぁ、酒に酔うこぶしと書いて、酔拳と言ってな。中国武術の一つだ。まさかルイスの奴、GTMで酔拳を持ってくるとはな」


 刀真は、僅かな残り時間で必死に攻撃してくる敵をさばきながら、ルイスの技を分析する。


 一つ一つの攻撃に、必殺の破壊力は無さそうだが……、

 動きも攻撃も、読み辛そうな技だ。

 体のどの部分で攻撃してくるか判った時には、既に当たっている。

 厄介な技だな。


 寝転がる相手に剣を突き立てるも当たらず、さらにはブレイクダンスのウィンドミルのように回転しながら、足を狙ってくる。

 飛鳥は、それを後方へ飛びながら回避し、さらにまだ回転している相手へレーザー銃を連射したのだが、その手足が攻撃を全て弾き飛ばした。

 回転が終わると同時に、ルイスは一足飛びでシリアルキラーとの間合いを詰める。

 飛鳥は、それに対して剣を振り下ろしたのだが、それを前腕で跳ね上げると、腕をたたんで、ひじから体当たりをませ、GTX1000を吹き飛ばした。

 さらに畳み掛けるべく、飛ばされバランスを崩したGTX1000を追う。


「今度は、八極拳か! となると、覚えた拳法は、一つ二つの話じゃなくなりそうだな」


 帯牙は、ルイスの努力に関心し、協力したインベイド社のチームも、勝ちを確信して喜んだ。


 ――その時。


「熱源反応! マスター! けて!」


 叫ぶようなクリスティアーナの指示を、瞬時に反応したルイスは、側転した後、バク宙して戦闘機へ変形すると、その領域を一気に離脱する。

 しかし、飛鳥は逃げ遅れ、分厚いレーザー砲の犠牲となってゲームを終了した。


 ルイスは激昂げっこうし、それを撃った者へ、回線を開く。


「ヨハン! テメー! 邪魔すんじゃねーよ!」


 レーザー砲を撃ったのは、GTWランキング1位のヨハン・ポドルスキー。

 元傭兵で、狙撃を得意としており、ロックオンせずに射程可能な位置ギリギリから狙撃する為、オペレーターでさえ認識が遅れてしまい、多くのランカーが犠牲となっていた。


「馬鹿かお前は! いつから、このゲームはタイマン勝負の格ゲー(格闘ゲーム)になったんだ?」


「いいだろう、決着を付けてやろうじゃねーか、逃げんじゃねーぞ!」


 だが、誰よりも早く反応したのは、ルイスではなく、刀真だった。


「いいねー、いいねー、来いよ、サーベルタイガー! 俺にボーナスくれるってか?」


 サーベルタイガーは、ヨハンの攻撃をことごとかわし、その間合いを詰めて行く。


 いいぞ、いいぞ、もっと近づいて来い!

 仮に、お前を墜とせなくとも、お前に撃墜されることで、俺はランキングポイントを失う事無く、ログアウトできる。

 ノーリスク、ハイリターンだ!


「ご主人様、上空500m先にログインを確認」と、ヨハンのオペレーターが危機を告げる。


「構わん放っておけ、サーベルタイガーの方が速い」


 すると、突然、サーベルタイガーの動きが止まる。


「ん? どうした? 何故、来ない?」


「ご主人様、ログイン者が危険区域に入ります!」


「なんだと?」


 ヨハンが空を見上げた時には、既に手遅れだった。

 ドライバーネームにMIYABIと書かれたその機体は、落雷の如きスピードで、狙撃する為に寝転んでいたヨハンの背中へ、レーザーソードを突き立てる。


「飛鳥の仇ーッ!」


 その爆発を確認すると、雅は満足したようにログアウト準備をし、自分が撃墜されようがされまいが気にする事無く、筐体から降りた。

 外に出ると、そこにはスタッフに止められている妹が待っていた。


「あれ? お姉ちゃんもやってたの?」


「10秒だけね」


「アタシ、負けちゃったよぉ」


「それ、向こうで言っちゃダメだからね」


「え? なんで?」


「お母さん、ゲームして来いって言ってないでしょ?」


「え! 嘘! だって、あの言い方だと……」


「そうだけど、言っちゃダメなの!」


「でもさ、勝ってくるって言っちゃったよ」


「それは、なんとか誤魔化しているつもりで……いる?」


「え?」


「深く考えない! アンタは、とりあえず、お父さんを祝うことだけ集中しなさい」


「あー、どうしよう? 改造費……」


「アンタなら、32位以内になれそうだから、それでやってあげたら?」


「32位?」


「32位内なら、一億別で貰えるのよ!」


「え! マジで!」


「ホント、アンタってさぁ、ゲーム以外、興味ないよね」


「エヘヘヘ」

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