第44話「ルイスの出した答え」

 東儀雅の心の中に、色々な感情が溢れ出していた。

 目撃さえしなければ、気にはならなかったのだが、自分より先に、目の前でスカルドラゴンを倒されてしまった悔しさ。

 スカルドラゴンへの復讐は誓っているが、最強と噂されたサーベルタイガーでさえギリギリの勝利で、格下の自分が勝てる日は来るのかという不安。

 しかし、それよりも、気になったのは――。


 飛鳥は、もっと簡単に勝てるような言い方をしていた。

 もしかして、ウチの妹は、サーベルタイガーより、強いの?

 でも、アタシの時と、アイツの闘い方が違ったし……、

 飛鳥が終わったら、改めて……、

 ダメダメ! 今日は、お父さんの誕生日会なんだから!

 明日にでも、聞いてみよう。


 一方、その妹はというと、GTWランク2位、実質最強とうたわれるルイス・グラナドに苦戦をいられていた。

 今日という日でなければ、対戦してみたい相手の一人ではあるものの、サーベルタイガー戦に残された時間は、もう残り僅か。


「アンタの相手は、後でしてあげるから! 今は、時間が無いの! 退・い・て!」


 父親の誕生会が待っているので、その後など在る筈もないのだが、言わずにはいられなかった。

 焦りもあったが、それ以上に、ルイスが邪魔に思えるほど、その強さも感じていた。

 いつもなら、楽しめるのだが、今は、それどころではない、なんせ、父親の車の改造費を稼がねばならないからだ。

 そして、その相手であるルイスもまた、シリアルキラーの強さを実感していた。


「反射神経といい、攻撃センスといい、これじゃ刀真とやるのと変わらんな」


 一つ一つの動きに注意を払わなければ、たった1つのミスが命取りになる。

 思った以上の好敵手に、ルイスは楽しさを感じ始めていた。

 そんな時、帯牙からの通信が入る。


「ルイス、待たせたな。代わろう」


「否、このまま続ける」


「刀真とやらなくていいのか?」


「3分を切ったからな、十分楽しめそうにない。まぁ、楽しみは、先に取っておくことにするよ」


「そうか」


「それより、タイガー。チームは連れて来てるか?」


「あぁ、30人ほど連れて来た」


「今、刀真も面倒なのに捕まっているようだから、タイガーたちは、俺や刀真を邪魔しそうな周りを片付けてくれ」


「了解」


 こいつとやる前、俺は『俺のサーベルタイガー攻略』を刀真と対戦するまで、隠しておきたかった。

 だが、それが間違いだと、今さらながらに気付いたよ。

 だって、そうだろ?

 俺が勝ちたいのは『実力で』であって『奇策で』じゃない!

 たった一回、偶然で勝った程度で、喜んでるようじゃ、あいつからライバルと呼ばれないだろうしな。

 それに、初見で見切られる程、俺の攻略は出来が悪いモンでもない筈だ。

 お前で、試させてもらう!


「このゲームが、撃つ・斬るだけでは無い事を教えてやるよ」


 ルイスは、敵から奪った銃や剣を捨て半身に構える。


「ん? 諦めた?」と飛鳥が口に出した瞬間、シリアルキラー目掛けて、右足を蹴り上げてきた。


「はぁ?」


 攻撃の流れの一つとして、蹴りを出すのなら理解できるのだが、初手で蹴りを出すのは、幾ら速くて鋭いものでも、飛鳥であれば簡単に足が斬れる。

 その意味が解らない蹴りに対して、容赦なく剣を振った。

 しかし、当然切断できると思われたそれは叶わず、まるで剣と剣が打付ぶつかったような衝撃が走る。


「なんで!?」


 飛鳥は、慌ててルイスの乗るGTX555を調べた。


「武器も、盾も持たず……両腕両足が剣と同等の武器!?」


 ちょうどその頃、刀真がスカルドラゴンを退治したばかりで、その光景を目撃する。


「叔父さんもそうだが、ルイスのは、更に極端なインファイトだな」


 回線を接続したままにしていたこともあって、その感想を帯牙が応える。


「あれ(GTX555)は、ルイスがお前を倒す為に出した答えだ」



 それはレンタル事業の非公開テスト終了時、ルイスがラルフにGTMの仕様について相談することから始まる。

 

「GTMで、拳法を取り入れることは出来ないか?」


 ルイスが出した答えとは、離れれば離れるほど、刀真のエスパーみた反射神経が優位に働き、逆に距離を詰めれば、幾ら異常な反射速度でも、GTMの動作速度が追いつかないと考えた。


「拳法か……ロボットには出来ない人体の動きってのが在るだけに、正直、難しいだろうな」


「そうか……」


「否、それはリアルでの話だ。あくまでこれはゲームだ、全てをリアルにする必要はない。お前だって知ってるだろ? アクションゲームでの重力は、現実世界とは違うって」


「プレイの心地良さを優先してるんだっけ?」


「そうだ、お前の言うそれも、心地良さに入る気がする。難しいと言ったのは、その先、調整だ。きっとお前が今後要求するものは、細かい動きになると予想出来る。やるなら、言った責任はとって貰うぞ」


「OK、実験台ね」


 こうしてラルフは、ルイスの為に専用チームを作り、数え切れないほどの実験を繰り返し、今も尚、ベストを求め継続中なのである。

 この実験によって、他のプレイヤーも恩恵を受けた物もある。

 360度スクリーン、モーションコントロール、そして、今は未だ実装に至らないが、さらなる未来に実装されることになるAIオペレーター。


「オペレーターをAIに出来ないか?」


「それはダメだ、最低限のルールとして、動かすのは人でなくてはならない」


「否、攻撃や防御はしなくていいんだ。策敵や相手のGTM検索とか」


「それにおいても、人の反射スピードを超えて……」


「超えない調整をすれば、どうだ?」


「出来るが、問題はそれだけじゃない、人はミスもするからな」


「否、だから、それすらも、平均値でミスっても構わないんだ。できれば、経験値によってミスは減らして欲しいが……」


 どう考えても、強くならない要求をしてきたルイスに疑問を感じ、首を傾げた。


「ん? どういうことだ? それじゃ、返って弱くなる」


「強さは関係ない。儲かる要素にならないかなって、思ったのさ」


「え?」


「ほら、2次元の方が良いってヤツ居るだろ?」


「あぁ~、なるほど、そう言うことか。理想的なパートナーをオペレーターにしたいって事か」


「そうだ。好きな衣装着せたり、好きなアイドルの3Dデータとかさ、好きな声優の声にしたりとか、課金要素になると思うんだ」


「忘れてたよ、お前さんが生粋なオタクだったってことを」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る