第40話「千里の野に虎を放つ」

 出撃前に、装備変更する刀真とうまを見て、モニタ越しに帯刀たいがが声を掛ける。


「ん? 盾や銃は、持って行かないのか?」


「あぁ、派手にデビューした方が良いんだろ?」


「確かに、二刀流ってのは、インパクトあるな」


 刀真が選んだ剣は、分厚く大きな攻撃力の高いバスタードソード。


 18時28分。

 モニタ上に新たなウィンドウが開き、ラルフが顔を出した。


「すまんな、30分遅れた」


「いや、急だったんだ仕方ないさ。それに30分ズレた程度では、アイツは参戦出来んだろうし」


「そうだな、3時間ずらせと、じかに電話してくるぐらいだからな」


「直に電話? おいおい、ラルフまでロリコンになったんじゃねーだろな?」


「よせよ、タイガーじゃあるまいし」


「聞こえてんぞ! テメーら!」


「さて、30秒前だ。墜とされんなよ~」


「あぁ、行って来る」



 刀真がログインした先は、東京タワー前の駐車場。

 ログイン地予想が当たった30機ほどのGTMが、陸や空やビルの屋上で待ち構えており、20秒の無敵時間を待てないとばかりに、弾丸の雨をサーベルタイガーへと降らせた。

 無敵とは言え、当たらない訳ではないのだが、ダメージを受けないことから、激しい音を立てる豪雨を気にする様子も無く、レーダーに映る敵影を数え、倒す順番を考えていると、そこに知り合いの機体を発見する。


「ん? ルイスが居るな……」


 刀真は、レーダーに映ったルイスの名にタッチして、直通の回線を繋いだ。


「よぉ、ルイス! 俺を狩りに来たのか?」


「無敵時間が有るからって、余裕かましてると、撃墜されるぞ」


「これはこれは、ご忠告感謝致します」


 そう言って笑った後に、刀真はルイスに対して提案する。


「ラスト5分で勝負、で、どうだ?」


「いいだろう、それまでは共闘としよう」


 サーベルタイガーは、残った無敵時間を利用して、弾丸の雨の中を切り裂くように突き抜け、GTMの群れへと突進する。


 ――としさえすれば、1億が手に入る。


 狙われたGTMのドライバーは、逃げることを止め、手にしたマシンガンを撃ち続け、無敵時間が過ぎるか、自分が撃破されるのが先かのギャンブルに出た。

 しかし、その願いは叶わず、サーベルタイガーに両腕を一振りで刈り取られ、マシンガンを奪われると、肩を蹴られ戦闘機に変形し飛び去られた。

 降り注ぐ雨は、腕を無くしたGTMに多くの穴を開け、サーベルタイガーを追って、雨は降る方角を変える。


 サーベルタイガーは、奪い取ったマシンガンで、次から次へとGTMを破壊して行く。

 GTWの仕様として、敵から奪い取った銃など弾数が限られた武器は、奪い取った瞬間、フルチャージされるようになっているが、同じ武器を所持していない限り、再びチャージすることは出来ないようになっている。

 サーベルタイガーは、弾が尽きた所でマシンガンを投げ捨て、再び、ソードに持ち替え、接近戦に持ち込む。


「なんで、なんで当たらないんだよぉーッ!!」


 狙って撃っても、振り回すように撃っても、弾はかする事さえ出来ず、当たったと思わせたそれはソードであったりと、墜とすどころかダメージすら与える者は現れない。

 間合いを詰められ、目前に居るにも拘らず、こちらの攻撃は当たらず、逆に斬り裂かれ、飛び去られてしまう。


「当たりに行けーッ! 動きを止めるんだーッ! 動きさえ止めれば!」


 徒党を組んだ者たちでさえ、あっという間にちりと化し、その闘争を止めることは出来ない。

 さらには、2位のルイスまで加勢していることから、たった二機でありながら、その賞金は絶望的に思えた。


「今日のゲームは、随分と楽だな」


 いつもなら2位である自分が真っ先に狙われるのだが、今は、サーベルタイガー、否、1億への攻撃が集中している。


「マスター、油断しないで、もみじ谷から狙われてますよ」


「ありがとう、クリスティアーナ」


 ルイスは急降下し、自分を狙撃しようとしていたGTMを狩り、再び、サーベルタイガーを援護する。



 タイミングを計ってると言っていたものの、デザートまで喰いだした兄貴分に、弟分が心配して声を掛ける。


にいやん! あと12分ですよ! 半分切ったけど、ええんか?」


「慌てんな童貞! 勝負は、残り1分や」


「1分? そんなんで、やれますのん?」


 そう聞いてきた和也に、スカルドラゴンはヒントを与える。


「正確には、20秒や」


「無敵時間? 無敵時間で、仕留められるんですか?」


「せや、ラルフは『とせば』としか言っとらん。つまり、相討ちでもOKな筈や。GTX1000は速い、まともに追い駆けっこなんぞしとったら、十中八九逃げられる」


「しっかし、兄やんにしては、随分慎重やな」


「当然や。噂では、あのルイスでさえ、勝てんかった奴やぞ。1億が無けりゃ、普通に勝負してやってもえぇが、今は勝ち負けなんかより、かねじゃ」


 その時、傍を通ったウエイトレスに気付いて、手を挙げる。


「あ、お姉ちゃん、お姉ちゃん、レーコー持って来て」


 ウエイトレスは、聞き覚えのない言葉に首を傾げ、頼んだらしき言葉を繰り返してみた。


「レーコー?」


「せや、レーコーや」


 すると、和也が呆れた顔で、ウエイトレスの手助けをする。


「兄やん、レーコー、コッチやと通じませんよ。お姉さん、アイスコーヒーと俺にはバナナパフェ持って来て」


「なんや、お前もデザート喰うんけ」


「いいでしょ、バナナパフェくらい。5分くらいで持って来れますよね?」


「はい、大丈夫です」


「ほら、お姉ちゃんもこう言うてるし」


「しゃーないなー……あ、アカンわ、お姉ちゃん、レーコーもバナナパフェもキャンセルな」


「えぇぇぇーッ! 俺もデザート喰いたい!」


「急げ和也、ヤバイのがログインしやがった」


「え?」



 イベント終了まで、残りあと10分。

 サーベルタイガーが操るGTX1000の目前に、予想だにしない相手がログインする。


「おいおいおいおい、父親の誕生会は、どうした?」

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