第34話「己の中の正義」

「ちょ、ちょっとタイム! ログアウトする!」


 プレイを始めて20分、東儀雅とうぎみやびは、慌てて中止を宣言する。


 その20分のプレイ内容は、撃墜されることはおろか、ダメージを受けることも一切なく、とした機体は、なんと107機。

 その内、シリアル、つまり、プロの操る機体が84機あって、このたった20分で、雅は順位を62も上昇させた。


「あれ? 雅、どうしたの? 凄く良い感じだったじゃない?」 


「そうなんだけど……これってさぁ……もうアタシじゃなくて、飛鳥の力だよね?」


「あぁ、確かに……」


「え? 防御だけじゃん」


 今回のプレイは、防御の全権を飛鳥に委ねたみた、言わば実験的なプレイだったのだが、明らかに逸脱した結果を招いた。

 しかも、全権であることから、本来の出力より5%落ちているにも関わらず、この結果が出てしまったのである。


「インベイドの人たちが、飛鳥ちゃんをシリアルキラーって呼んだのも、解る気がするわ」



 ――時間を少し戻して、1時間前。


 横浜のインベイド施設で、借りた部屋で荷物を置くと、すぐに雅は飛鳥に相談する。


「お姉ちゃんが、どうすれば強くなるか、教えて欲しいの」


「え? なんかあったの?」


 雅は、黙ってコクリと頷くと、スマートフォンのインベイドアプリを起動し、その戦闘履歴から『スカルドラゴン戦』を妹に観せた。


「アンタなら、どうする?」


けて、斬る」


 当然のように、すぐ返された答えに、雅は納得が出来ず、再度、確認する。


「え? それだけ? ワイヤーが8本も有るんだよ」


「うん。10本でも、20本でも、関係無いかな?」


 自分の対戦した感覚で言えば、ワイヤー自身がプレイヤーのようだった。

 つまりは、最大で9人を相手に闘う、そんな状況が起こりえるのに、妹は「10人でも、20人でも関係無い」という。


「え! じゃ、対戦したら、勝てるの?」


「うん、たぶん、勝てると思うよ。なんなら、倒そうか?」


「ダメ! アタシの獲物なの! 取らないで!」


「飛鳥ちゃん、それって、GTX1000ならってこと?」


 ――機体変えて、出直して来い!


 ふと、スカルドラゴンの言葉が脳裏のうりかすめ、怒りが込み上げそうになる。

 出来ることなら、GTX1800のままで、勝ちたい。


「あぁ、せんちゃんの方が、り易いけど、はっちゃんでも大丈夫だよ」


「ん? アンタ、GTX1000の事、センちゃんって呼んでるの? て言うか、1800をハッちゃんって、ダサイ名前で呼ばないでくれる?」


「えぇぇぇぇぇ~、可愛いでしょ!」


「はぁ? あんなに配色でこだわる癖に、なんで渾名に拘らないの?」


「だから、ダサくないってば!」


 喧嘩に発展しそうな姉妹を見て、慌てて紗奈が話題を戻す。


「ちょっと、ちょっと、そんな事よりも、飛鳥ちゃん、1800でも勝てるの?」


「うん、勝てるよ。なんなら、今から倒しに行く?」


「だから、私の獲物って言ったでしょ!」


「違う違う、お姉ちゃんは攻撃に集中して、アタシが機体を動かすの。オペレーターって、防御を全部引き受けられるんでしょ?」


「あぁ、でも、オペレーターに全権渡したら、確か5%下がるのよね? それでも、やれるの?」


「それじゃ、一回試してみない?」


 と言う話しの流れから、プレイしてみたところ、たった20分で自分の妹が化物だったと言うことを知るのである。

 だが、それは自分の求める答えではなく、これで勝っても、チート行為をしたようで納得が出来ない。


 通りで、今まで飛鳥に勝てない訳ね。

 アタシが下手なんじゃなく、この子が化物だったのね。


「ごめんね飛鳥、嫌かもしれないけど、索敵さくてきだけで、お願いできる?」


「わかった」


 その時、ふと思った。

 飛鳥をオペレーターとして使うこと自体が、チートではないのかと。


「うーん?」


「どうしたの? 雅」


「索敵だけだとしても、飛鳥のようなレベルの者をオペレーターとして雇う事でさえ、チートな気がして……」


「確かに、飛鳥ちゃんは凄いけど、それはルール違反ではないわ」


「それは解ってるんだけど……」


「結局は、雅、貴女の中で、納得できるか出来ないかなのよ。確か、ローレンスって人は、1000人オペレーター居るのよね? きっと、自分の中の正義には、反してないのよ」


「自分の中の正義?」


「そう、だから雅。もし、飛鳥ちゃんを索敵だけに使っても、貴女の中で納得が出来ないのなら、辞めて貰えばいいのよ。勿論、それは私も含まれるわ」


「紗奈を切るなんてないわ! 一緒に闘って、一緒に負けて、一緒に強くなろうと誓った、同士なんだもの!」


「ありがとう、雅」

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