第35話「最適解」

「じょ、女子、中学生だとーッ!?」


 先日、特別復帰して対戦し、そして負けた相手が女子中学生だと教えられ、虎塚帯牙こづかたいがのショックは大きかった。


「4月から、高校生になるそうなんだが……」


「変わんねーよ!」


 大きく溜息を吐いた後、ボヤキは続く。


「ショックだわー。そりゃな、今まで女子で強い子も居たし、プロも居たよ。でもさ、非公開テストでの俺は、4位だぜ? 一般公開したって、復帰後もプロとして遣って行ける自信が有ったんだよ。それが、ハァー、歳には勝てんのかね? それとも、アイツが異常なのか?」


「両方じゃねーの?」


「どっちもかー、どっちもだわなー。いつかは反射神経で、負ける日が来るだろうと覚悟してたものの、まだ経験で何とかなるかな?って思ってはいたんだよ。だが、思ってたよりも、早かったなぁ。ハァー、お互い、歳喰っちまったな」


「おいおいおいおい、俺を入れんなよ! 俺は、まだ負けてねーぞ!」


「やってねーからだろ? やれば勝てんのか?」


「勝て……るんじゃ……な・い・か・な?」


「ほぉ~、やってもらおうじゃねーか!」


「あ! そんな事よりもだ!」


「なんだよ! 誤魔化してんじゃねーよ!」


「いやな、そいつがな、シリアル機の置き場に困ってるって言ってんだよ」


 この時のラルフの言い方で、帯牙は飛鳥が困っていると勘違いしてしまう。


「ん? それを俺に話すってことは……この辺の女子高生なのか?」


「偶然って、怖いねー、刀真が4月から働く学校だってよ! 確か、トウリって名であってたよな?」


「え! そこの生徒なのか?」


「そうみたいだ」


「それは……運命を感じるな……」


「おぃ! 間違っても、テメーの家にシリアル機置くんじゃねーぞ!」


「なんでだよ! 空いてるぜ、俺んは!」


 ラルフは、急に真剣な表情になりながらも、口元は少しゆるんでいて、


「ゲームをこれ以上、悪者にしたくないんだ」


「アンだと、ゴラァ! 恋愛は自由だろうが!」


「女子高生とオッサンの恋愛は、日本でも犯罪なんだよ!」


「くっそー! 3年前なら、ギリ結婚できるのにぃ!」


 2022年4月1日の法律改正で、女性が出来る結婚の最低年齢が、16歳から18歳に引き上げられたのだった。


「その時点で、既に運命じゃねーから、諦めるんだな」


「3年も待つのか……」


「日本の法律で、ロリコンは死刑になればいいのに!」


「罰が重すぎる!」


「犯罪者側の意見だな」


 ロリコン親父が親友に、犯罪と恋愛の違いを力説していた頃、別の場所でも、その被害者となるかもしれない女の子たちの話をしている男たちが居た。


にいやんがイジメたから、来ませんやんか!」


「なんや? やっぱ、あのキッツイ女に惚れたんか? やめとけ言ったやろ、この童貞がぁ!」


「もう違いますぅー!」


「せやったな、和也君は、もう大人やったね。だったら、いつまでもいつまでも、童貞みたいなこと言うな!」


「なんで綺麗系の子、好きになったら、童貞になるねん!」


「まぁ、性格は兎も角として、ドライバーの腕と、度胸は認めてやる」


「なんで性格悪いは、確定やねん! え? ドライバーとしては、認めてますの? 珍しいですね、兄やんが、GTXのドライバーを認めるんは」


「足を切った判断は悪くなかった」


「あそこは、ワイヤー切るべきやったと思いましたけど?」


「だから、お前はドライバーとしては二流……童貞なんよ」


態々わざわざ言い直すボケなら、やめちまえ!」


「ワイの天丼(同じボケを繰り返す行為)を潰すなんて、和也君は、えろー(偉く)成りましたなぁ」


「そんなんは、どうでもえぇから! 説明してーや!」


「振り回された状態で、足首掴んだワイヤー切るには、身を起こさんとソードが届かへん。もし、身を起そうなんて真似してたら、絶対に間に合わん。ビルに激突して、ゲームオーバーや」


「じゃ、銃やったら?」


「チャージ中やったからな、ホルスターから引っこ抜いて、しかも、二発撃つ時間なんてあらへんよ」


「じゃ、あの子は、一瞬で最善を選択したってことなのかー、すげーなー」


「いいや、最善ではない。もし、あの女が、一瞬で最善の選択が出来るドライバーやったら……それでも負けはせーへんけど、相討ちになってたかもな」


 負けず嫌いの兄貴分が、ここまで褒める事に、和也は驚き、質問を続ける。


「最善の選択って、なんなん?」



 ちょうど、同じ頃、横浜で――。


「調子の良い時のお姉ちゃんなら、勝ててたかもね」


「調子良い時のアタシ?」


「うん、集中力高い時のお姉ちゃんは、自分では解らないだろうけど、凄いよ」


 今までなら、嫌味だと思っていたかもしれないが、妹の才能を認めた雅は、素直に喜んだ。


「でもね、その高い集中力が三分続かないと、っちゃんでたこには勝てないよ」


「はっちゃんは、止めなさい!」


「えぇぇぇ~! 可愛いのにぃ!」


「どこが!」


「あとね、なんで片足だけ切ったの? 両足切れば良かったのに」


「え?」



 場面変わって、新宿。


「最善の選択は、両足切ることや」


「なんで? 兄やんに崩される切っ掛けになったからか?」


「そんな単純なモンやない。あの一瞬で機体のバランスまで考慮する奴が居たとしたら、そいつは……とんでもないバケモンや」


「それに気付いた兄やんも、バケモンですやん」


「いいや、ワイのんは、後からの考察や。あの一瞬で、もし、ワイがアイツの立場やったら、諦めてビルに当たってたかもしれん。片足切っただけでも、瞠目どうもくに値する」


「兄やんが、そんなにベタ褒めするの珍し……あーッ! さては、兄やん! 俺に取られたくないから、性格悪いって言ってるんやろーッ! 童貞かよ!」


「なに、他人ひとのボケってくれとんねん! 童貞かよ!」


 童貞のなすり合いが続く中、スカルドラゴンは、未来のライバルが強くなって、再び、目の前に現れることを願った。


 ――もし、あの女が本気で強くなりたいんなら、GTRに乗り変えるべきや。

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