第27話「想定外」

「もしもし?」


「こんにちは、シリアルキラー」


「しりあるきらー?」


「あぁ、すまんすまん、ウチでの君の渾名なんだよ」


「うち? あのー、誰ですか?」


「俺か? 俺はラルフ。ラルフ・メイフィールドだ」


 電話しながら、小首を傾げる妹を不安に感じ、東儀雅とうぎみやびは尋ねる。


「誰? やっぱり、インベイドの人?」


「わかんなーい。らるふらるふめいなんちゃらって、人」


 区切って名乗ったつもりだったが、伝わらなかった状況をラルフは笑う。


「え! ラルフ・メイフィールド!」


 その名前を聞いて、紗奈が驚き、雅は呆れる。


「アンタ、ホント、ゲーム好きな癖に、開発者とか気にしないタイプよね」


「え?」


「GTWを作った会社、インベイドの社長よ」


「そこに、何人か居るのか?」


「3人です」


「では、スピーカーに変えて貰えるか?」


「スピーカー?」


「あぁ、解らないなら、やれそうな人に代わってくれ」


 そう言われ、スマートフォンを姉に差し出す。


「代われって」


「もしもし、代わりました」


「君は、そのの保護者か?」


「どうして、ビデオ通話でもないのに、保護者が必要な年齢だと判ったんですか?」


 個人データを知ってる事を不審に感じた雅が、それを問う。


「ゴーゴル社との連携だよ。本名も年齢も住所も判っている。一応、契約書にも、書いているんだがね? 無論、個人情報は、しっかりと守らせてもらうよ」


 そう言って、疑り深い保護者を、ラルフはクスクスと笑った。


「さて、君と飛鳥君で話がしたい。スピーカーにしてもらえるかな?」


 雅は、画面に在るスピーカーのスイッチを押し、話を続ける。


「で、どういった御用件ですか?」


「用件は……東儀飛鳥、君に筐体レンタルの許可を与える」


「ちょ、ちょっと待ってください、まだ624位ですよ、安定順位じゃないのに!」


「ん? 詳しいな。確かに、君の言う通り、安定順位の線引きは在る。だが、恐らく余程長くプレイを休まない限り、順位は下がらないという見解だ。否、むしろ、このままプレイを続ければ、王になるかもしれないとさえ、俺は考えている」


「王?」


「32位内よ」


「ん? もう一人、居るのか?」


「はい、友人の北川と言います。本当に、ラルフメイフィールドなんですか?」


 そう聞かれ、以前、刀真とうまに言われたことを思い出した。


「あぁ、日本語が巧すぎるからか? なら、これでどうだ?」


 そう言って、ラルフはビデオ通話に切り替えた。


「うわぁー! ホンモノだ!」


「さて、本題に戻そうか? どうだ? シリアルキ……否、飛鳥、筐体のレンタルをするか?」


「はい! します!」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「どうした? 置き場が無いのか? それとも、プロに反対なのか?」


「いえ、そうじゃなくて、私もプロで今日、筐体申請を出したばかりなんで、筐体は2台も要らないかと……」


「君も!?」


 ラルフはキーボードの操作を始め、東儀飛鳥と同じ住所に、プロが居るか検索する。


「MIYABI君か? おいおい、まだ君は16、未成年じゃないか! それでは、保護者と呼べんよ」


「すみません。ですが、筐体設置の同意は、既に親から得ています」


「そうか、しかし、同じ家族で二人か、不味いな……」


「もしかして、一台で二人使えないんですか?」


「使えない。セキュリティーの面もあるが……兄弟でゲーム機の取り合いって、したことないか?」


「あります」


「そうなると、どちらか一方が独占する可能性があるだろ? そうさせない為でもあるんだよ。だが、それの対応は、まだまだ先になると思っていたんだがな。まさか、プロを増やす前に出てこようとは……」


「え! プロ、増えるんですか?」


「あ、しまった! つい、口が滑った。すまんが、まだ、内緒にしておいてくれ」


 だが、この時、ラルフは気付いていなかった、此処に空気の読めない第4の人間が居た事に。


「さて、どうしたものか、一家族に複数のプロなんて、タイガーのトコくらいだと、思っていたんだがな……」


「タイガー? あのーもしかして、今日戦った?」


「あぁそうだ、今日、お前さんが戦った相手であり、ウチの副社長だよ」


「あの、楽しかったので、また戦ってくださいとお伝えください」


「了解した」


 ――まぁ、もっと楽しめるヤツが他に居るんだが、まだ内緒にしておくか。


「では、私の筐体をキャンセルして、飛鳥のをウチへ寄越よこしてください」


「え、いいの?」


「アンタより、プレイしてたからね。それにアタシは、また此処へ来れば良いから」


「そうか、了解した。今日中に届けさせよう」

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