第26話「突然の電話」

「アタシも買うから、アンタもコレにしなさい」


 そんな言われ方をすると、なんだか自分の望んでない物を押し付けられているような不安を感じ、改めて姉に確認した。


「えー、性能は?」


 だが、その不安を払拭したのは姉ではなく、姉の友達だった。


「それは、この春に出たばかりだから大丈夫。それよりもね、他の会社と違って、このゴーゴル製なら、新機種が出るたびに機種変更しても良くなるわよ」


「え! ホント!」


「そうね、確かにゴーゴル製なら出来そうね。ただし、アタシのオペレーターをやってもらうわよ」


「オペレーター?」


 え? 三人同時に契約!?

 確かに、GTWやってるならって、コレ薦めたけど。

 ただ単に、GTW用のアプリがプリインストールされてるから、面倒臭くないよって程度だったんだけど。

 まぁ、いいか、本人たち、気に入ってるようだし。


 携帯店舗スタッフ大田は、この女子三人組の気が変わらない内に、ササッと契約書類を引き出しから三枚取り出して、目の前に並べる。


「じゃ、この契約書に記入お願いしますね」


 住所、氏名、自宅の電話番号を記入して行き、支払い方法の項目で、飛鳥の手が止まる。

 そうなる事は解っていたので、すかさず姉の雅が自分の用紙を見せ「飛鳥、ここ! この『ENで支払う』にチェックして」と伝える。


 なるほど、そう言う事かぁー。

 インベイド社員の子ね。


 スタッフの大田は、何故、この三人がゴーゴル社製を選んだのか、自分なりの解答を見つける。


 インベイド社は、社員の給与をゲーム通貨ENで支払っている。

 施設であるホテルが社員寮も兼ねているため、換金せずとも、ゲーム通貨であるにも関わらず、ほぼ何でも揃えられるからだ。

 また、協賛する企業の製品も、このENで買えるように進めていたことから、旅行も、車も、自動販売機ですら、ENで清算できるようになっており、その家族もその恩恵を受けていた。

 とはいえ、支払えない物も存在する、協賛外の遊園施設や、病院などの医療関係、そして、税金である。



 協賛外の支払いはさておき、残り二つの支払いは、インベイド計画のメンバーでも意見が分かれた。

 それは、国によってやれるやれないの違いが出た為だ。


「プロとはいえ、インベイドの社員として抱えるのだろ? 本社を租税回避できるパナマに構えれば、良いのではないか?」


「いや、それは最終段階での話だ。確かに、現段階でもムスタファーの所のような税金の掛からない国は、租税回避されたところで気にならないだろう。しかしな、だからといって、ムスタファーの国でそれをってみろ、他の国が気にしない訳がない。いつか自分たちの国でも遣りかねないと考える筈だ」


「なんで、他の国では石油が出ないのかね」と、ムスタファーは笑った。


「全くだよ。さて、医療についてだが、どう考える?」


「問題が在るのは、日本ね」と、真っ先に答えたのは、鈴木米子すずきよねこだった。


「あぁ、国民健康保険か……」


「そう、あれは国民の為のシステムであるものの、医師会の食い扶持ぶちになってる面もあるのよ」


「システムは良いのだが、利用されてしまう現状から打開できないんだ……」


 溜息混じりに、帯牙たいがこぼした。


「タイガー、強引にじ開けることは、出来ないのか?」


「出来なくはない、出来なくはないが……遣るにしても、今は駄目だ」


「どんな方法?」と、気になった米子が帯牙に問う。


「租税回避地にインベイド本社を置き、その大使館内に病院を建てる」


「なるほど、そうすれば国民健康保険外として、ENで治療が受けられる訳だな? それ駄目なのか?」


「医師会の先に、政治家が居るのよ。実現させる為には、医師会よりも多くの数を集めないと、でしょ?」


「はい」


「貴方なら出来るわ、タイガー。それに日本には、前例があるじゃない」


「確かに、彼の残した功績は大きいですね。組織としても、大きいし、理念も素晴らしい。でも、見習ったら、少々荒っぽくなりますよ」


「なんにしても、インベイド計画の成長が先ってことだな」


 そうラルフが締め括り、インベイド計画の会議は終了する。



 契約書が書き終わり、好きな色を指定して、三人は新しいスマートフォンを手にする。

 飛鳥は、早速、GTWのアプリを起動させ、登録を開始する。

 登録データは、ゴーゴル社と連携が取れており、名前などの基礎情報は、データとして共有してい為、改めて入力する必要が無い。

 スマートフォンのカメラで網膜を撮影し転送すると、データの紐付けが行われ、画面には飛鳥の順位が映し出された。


「どれどれ、飛鳥は今、何位なの? え?」


 その順位を見て、姉の雅は激怒する。


「チョッと! どういうこと! アンタ、さては受験中に遣ってたでしょ!」


「遣ってないよ! 試験終わってから、遣りました!」


「え? なになに? え! 624位ーッ! プロじゃない!」


「遣ったの、ついこの前だモン!」


「そんな訳ないでしょ! プレイヤー、1億超えてるのよ! 高校に受かったから良かったようなものの!」


「ちょ、ちょっと待って、雅!」


 画面を見た紗奈は、慌てて雅を止めに入った。


「なに!」


 若干、友達にもキレ気味に顔を向ける。


「飛鳥ちゃんの言ってる事、ホントだよ! ホラ、履歴見て!」


 戦歴のページを見ると、最初のプレイは、3月21日になっていた。


「え! そんな馬鹿な……ホントだ、どういうこと? 幾らなんでも一週間で……無理、よ、ね?」


「順位が、バグってるのかな?」


「うぅぅぅーッ!」


「あ、ごめん。だってさー、アタシが毎日通ってプロになれたの、先月の22日だよ。一週間で、624位になれるって思えないじゃない?」


 弁解したつもりだったが、妹の怒りのベクトルは、違う方向へ。


「毎日通ってたのーッ!」


 あ、墓穴掘った……。


 雅は、しまったとばかりに天を仰ぎ、素直に謝ることにした。


「本当に疑って、ごめんなさい」


 すると、ずっと飛鳥のスマートフォンを操作していた紗奈が、新たな情報を発見する。


「ちょ、ちょっと、これバグじゃないかも!」


「え? いや、それは幾らなんでも……」


「凄いのよ! 飛鳥ちゃん、5位のローレンス墜としてるよ!」


「え! あの1000人オペレーター居るっていう?」


「ほら!」


「ホントだ……え? なに、この撃墜数!?」


 雅がそう言った時、突然、飛鳥のスマートフォンのベルが鳴る。


「ど、どうしよう?」


「出なさい、たぶん、インベイドの人よ」


 言われるがまま、飛鳥は通話のボタンを押し、耳に当てる。


「もしもし?」


「こんにちは、シリアルキラー」

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