第22話「飛鳥、戦場を駆け抜ける 後篇」


刀真とうまで慣れてるとは言え、また違うタイプだな。本能のままに向かってくる、そんな印象だ……その時々に起こる敵のウィークポイントを見つけ攻撃してくる。天才といえるが、裏を返せば誘いやすい!」


 帯牙たいがは、わざと隙を見せることで、シリアルキラーの攻撃を誘い、それを避けて攻撃する、所謂いわゆるカウンターを繰り返した。

 だが、互いに一歩届かないという凄まじい攻防を繰り返していた為、近くに居たハラミが、それに見惚みとれて停止してしまう。

 GTX1000の照準が、少しズレたのを感じて、帯牙が叫んだ。


「ハラミ! ボケッとすんな!」


 だが、声に出すのと、撃つでは速さが違う、呆気なくハラミは墜とされた。


「しまった! 今、声を掛けず、攻撃すべきだったか……」


「シリアルキラーのログアウトまで、残り2分を切りました!」


 オペレーターの言葉を受け、戦闘に集中していた帯牙たいがが一転、セントラルパークの東側道に飛び込むと、GTXをスポーツカーに変形させ、アクセルを踏み込んだ。


「さぁ、付いて来い!」


 一方の飛鳥も、30秒も掛けて墜ちなかった相手が居たことに興奮し、嬉々としてそれを追う。


「あと1分ちょい、逃がさないよぉ!」


「ログアウトまで、残り1分! 大佐は東79へ入ります! 各班は、作戦通りに展開してください!」


 帯牙は、後ろから来るマシンガン攻撃を器用にかわしながら、セントラルパークの側道を南下する。

 モニタの右側に映るメトロポリタン美術館が視界から消えたところで、激しいスキール音とシリアルキラーを伴って、東通り79番街へ進入し、帯牙が叫ぶ。


「今だ! 俺に構わず、撃て!」


 その命を受け、残りのメンバーたちが、一斉に79番街のビルの根元を狙って、次々と破壊して行く。

 爆撃の轟音とビルの崩壊による土煙から逃げるように、飛鳥と帯牙は79番通りを真っ直ぐ突き進んで行く。


 GTW《グランドツーリングウォー》では、建物などに身を隠すことが可能となっている一方、障害物としての当たり判定も有り、激突の仕方によればゲームオーバーもまぬがれない。

 照準相手がビルであったため、飛鳥のモニタにロックオン警報は鳴らず、ビルが崩壊したことによる衝突警報が鳴った事で、初めてこれが罠だと気付いた。


 左右は隙間なくビルが建ち並び、後ろは崩壊したビルによって道がふさがれ、上はというと、空を覆い隠すように倒れ来る高層ビル、そして前方は、バズーカを抱えたGTM6機が、飛鳥を待ち構えていた。


 帯牙は、マシンをドリフトで旋回しながら、再び、GTMを人型に変形させ、仲間から投げられたバズーカを掴んで構える。


「さぁ、どうする? シリアルキラー! その奪った盾で耐えれるのは、3発までだ!」


 すると、GTX1000は少し下がって、煙の中に消える。


「何をする気だ? それとも、墜とされるくらいなら、ビルに砕かれる方がマシということか? だがな、煙で見えなくなったからといっても、レーダーが捉えてんだよ! 事故では無く、きっちり墜とさせてもらう! 撃……ん!?」


 撃ての号令を放とうとした瞬間、モニタに衝突警報を知らせるアラートが現れた。


「衝突警告だと? ビルの破片か? 違う!」


 飛んで来たのは、奪われたロースの盾だった。

 盾は横回転しながら、一直線に帯牙たちの方へ向かって来る。

 そして、その陰に隠れるように、すでに戦闘機に変形したGTX1000の姿が!


「撃てーッ!」


 再び、砲撃を命じた時には、既に手遅れだった。

 放たれた砲弾の全ては、盾とその後ろに居るGTX1000に向けたものだったが、飛鳥は投げた盾を盾として使うつもりはなく、盾を少し追い越した辺りで人型に変形すると、それを踏み台にして軌道を変え、ソードを上段に構えて縦回転する。

 そして、それが地上に着いた時、帯牙の機体は真っ二つに裂かれ、周りに居た機体も二撃目を放つ隙を与えられず、一機残らず墜とされた。


 帯牙は、負けたショックを受けつつも、新たに現れた強敵を嬉しく感じて、クスクスと笑い出した。


「負けたよ、負けた。ミスもあったが、完敗だな」と、横のモニタに映る親友へ報告する。


「負けたのに、嬉しそうだな」


「精一杯やったからな。しかし、ここまでとは……」


「どうだ? やった感じ、サーベルタイガーよりも上か?」


「う~ん? 難しい質問だな。現状では、刀真だと思う」


「その差は何だ?」


「経験の差だな。反射神経で言えば、正直、変わらない気がする。しかし、経験とは言ったが、その経験差も登録日数から考えれば、潜在的な才能は、刀真より上かも知れん」


「お前の見立てでは、どっちが勝つ?」


「ヤツは、日に日に成長するだろう。今すぐやれば、刀真だろうが、その先は判らんな。やらせてみるか?」


「面白そうだから、少し寝かせてみるか」と笑って、ラルフは回線を落とした。


 シリアル機から降りて来た帯牙に、家政婦の鈴木すずき米子よねこは、彼の好きな冷えた缶コーヒーを手渡した。


「負けちゃいましたね」


「負けちゃいましたね~。折角、米子さんに早く来てもらったのに……あ、今日のオペレーター代は、今月分に付けときますね」


「良いんですよ、30分もしてないんですから。それに……やっぱり、楽しいですね、このゲーム」


「みんな米子さんみたいに、理解ある大人ばかりだと、助かるんだけど……」


「それだと、今の私たちは居ないでしょ?」


「確かに」


 そう、家政婦とは仮の姿で、その実体は世界22ヶ国に74のホテルを経営するホテル女王。

 鈴木米子もまた、インベイド計画の使徒の一人なのである。


 帯牙の家には、最新のデータをテスト出来る環境が在り「いつ死ぬかわからないから、常に最新を見届けたい」と、ほぼ毎日来るようになった。

 日々進化するインベイドのゲームは見ているだけでも楽しいらしく、見に来るついでに掃除や洗濯、食事の支度をしてくれるようになったのだ。

 米子にしてみれば、ゲーム情報を誰よりも早く知れることが対価であったのだが、帯牙にしてみれば給与を受け取って貰いたい訳で、仕方なくと「それじゃ、EN《えん》で戴くわ」と、現在に至るのである。


「私が死ぬまでに、世界を征服してみせてね」


「了解いたしました」と、笑顔で敬礼する帯牙だった。

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