第23話「ゲーム合宿」

 タイガーファングとシリアルキラーの戦いが終わりを迎えた頃、都内のインベイド施設において、その恩恵を受けた者が現れた。

 このシリアルキラー討伐作戦に関わったランカーは、なんと73名。

 そのメンバーは、リーダーである虎塚帯牙こづかたいがを慕っており、いつ帯牙が復帰しても良いように、ワークスを合わせる為、ドラフトが掛かり難い300位から500位の間、つまりはシリアルが認められるギリギリのランクをたもっていた。

 その73名全てがランクダウンし、更には、その73名によって、先に戦場がならされていたことも手伝って、この戦場でのランカー撃墜数は276機、他の戦場で墜ちた数が28機、合わせて304機とプロのほぼ半数が、たった5分で墜ちたことになる。


 この急激なランカーの撃墜数により、順位の大変動が起こったのだった。


「MIYABIさま、おめでとうございます。273位になりましたので、ランキングの安定されたと認定されました!」


 オペレーターをしてくれているインベイド社スタッフ宮崎の言葉に、東儀雅とうぎみやびはログインするのを止め、シリアル機から降りると、手を広げて待ち構える北川紗奈きたがわさなに、飛びついた。


「雅、おめでとう!」


「ありがとう!」


 そう祝いながら心の中では、このゲーム合宿が終わることを悲しむ紗奈だった。


 あぁ、これで合宿も終わりかぁ……。


「紗奈、いままで付き合ってくれて、ありがとう。もし、良かったら、これからもオペレーターしてくれない?」


 こ、これは……雅の家に!


「勿論よ! 喜んで引き受けるわ!」


 いいなぁ~女子高生って、俺も混ざって抱きつき……やっぱ、ダメだよなぁ。


 そう羨ましく見つめていた宮崎に、冷静に戻った雅が疑問に思ったことを投げ掛けた。


「でもなんで、そんな急にランク上がったんですかね?」


 5分前までは522位と、あと一息のような順位だっただけに、この急激な変化を疑問に思ったのだ。


「実は、先程、戦場を変えようと提案したじゃないですか、たぶん、その影響だと思います」


「え? どう言うことです?」



 それは今から少し遡る事、20分前。

 サブオペレーターをしていた宮崎が、ログアウトを進言する。


「MIYABIさま、戦場を変えましょう。一度、ログアウトしてください」


「了解」


 この戦場を変えるという行為は、合宿の間、何度も行ってきた在り来たりな行動だった。

 それは合宿に入る前、雅が宮崎に『なんとか春休み中に、シリアル機を自宅へ』という想いを伝えていたからで、ランクを安全に上げ易くする為に、少し上のランカーが密集する地域を宮崎が探し選んでいたのだ。


 だが、この時ばかりは、戦場変更の理由が違っていた。


 ――シリアルが73機、同時にログイン?


 そのシリアルたちは、MIYABIと変わらない順位であり、どちらかと言えば、格好の標的であったものの、その同時ログインを不審に感じた宮崎が、戦場の変更を進言したのだった。


 パソコンでセントラルパークの戦場ログを確認した宮崎が、その見解を述べる。


「恐らくですが……国同士での大規模な戦争が、セントラルパークで行われたのではないかと思われます」


 しかし、そう言いつつも、疑問も残っていた。


 でも、ランク確定日が過ぎてから、こういう戦争状態に陥るって、考え難いんだけどなぁ……。


「ありがとう、宮崎さんが言ってくれなかったら、私も巻き込まれてたんでしょうね」


「MIYABIさまなら、もしかしたら?とも考えましたが、流石に数が数でしたので、避難して正解だったようですね」


「やっぱり、宮崎さんのお陰ね」


 そう言って、右手を差し出し、宮崎と握手を交わす。

 宮崎は「いやぁ~」と照れながら、頭を掻きながらも、かすかに哀愁を漂わせる宮崎だった。


 あぁ、やっぱり、僕は握手なんですね。


「今ままで、ありがとうございました」


 しかし、雅の心は既に此処に在らずで、そんな宮崎に気付くことは無かった。


 シリアル機が家に着たら、飛鳥、驚くだろうなぁ~。


 これでようやく、このゲームを楽しみにしている妹・飛鳥へ報告が出来るのと同時に、ゲームの録画は禁止されていると嘘をいていたことや、自分だけゲームを楽しんだことの謝罪が出来ることを嬉しく思っていた。


 さて此処で何故、ゲームセンターで合宿が出来るのか?


 それは、施設という呼び名であるものの、実際のところは高層ホテルのフロア5階分を改築したもので、6階から上はホテルとして運営され、更にはインベイドのゲームセンター施設の他に、ショッピングモールさながら、飲食やアパレルなど様々なジャンルが多く出店されており、この空間だけでも生活に困らないような設計になっているのである。


 そう、ホテル女王・鈴木米子が、世界の施設を一手にプロデュースしているのである。


 と言うことで、宿泊についても、飲食についても、着替えに至るまで、何の問題も無く、更には、この施設内の全て、ゲーム通貨EN《えん》で支払い可能となっており、しかも、その場合、全てにおいて社内販売価格という大盤振る舞いだった。(ただし、換金してしまうと、プロでも社員価格とはならない)

 これによって、施設へ引っ越すプロも多く、中には、ホームレスからプロに成り上がった者さえ現れた。


 長い合宿であった為、既に飛鳥がGTWを始めてることを雅は知らず、母親から高校に合格したことは聞いていたので、安心してゲームに集中していたのだ。

 そして、ついに今日3月27日、そのシリアル機のレンタル権利を手に入れたのだった。


「じゃ、今日は早いけど、本日を持ちまして、合宿は終わりにします。スタッフの皆さん、そして、紗奈、本当に長い間、ありがとうございました」


 こうして、長い合宿生活に別れを告げた。

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