第21話「飛鳥、戦場を駆け抜ける 前篇」

 ――俺なら、各個撃破するかな。



「さぁ~て、お昼御飯も食べたし、3回目! 気合い入れて行くよ、千ちゃん!」


 そう言って飛鳥は、頬を両手で叩くと、赤いGTX1000に搭乗して、シリアルの多いニューヨークを選んだ。


 GTW《グランドツーリングウォー》では、ログイン時に20秒間の無敵時間が与えられる。

 それは、ログインして、いきなりゲームオーバーが無いようにするためだ。

 更に、その20秒間でもログイン者の攻撃は有効となっているため、射程範囲内に居るプレイヤーたちへは警告が鳴らされるようになっている。

 これによって、最悪でも30秒は遊べる環境にしていた。

 しかし、ログイン開始20秒以内でも、ロックオンされるようにはなっていて……。


「え!? なになに?」


 ログインするやいなや、いきなり警告音が鳴り、飛鳥はそのロックオンの数に驚く。


「1、2、3……24も!」


 ログイン者をロックオンする状況が、全く無い訳ではない。

 それは、相手がプロであったり、自分より上位の場合に多い。

 しかしそれは、あっても3本あれば多い方で、24本というロック数は、異常であり異様ともいえる。


「矢張りな。ニューヨークが戦場なら、お前は此処(セントラルパーク)を選ぶと思ったよ! サンカク、ハネシタ、ギアラ、テッチャン、巧くやれよ! なんなら、お前らで墜としても構わん!」


 オッケー、あいよ、了解、アイアイサー……様々な了承の言葉が飛び交い、戦いの火蓋は切られた。

 先行班は、飛鳥の無敵時間が切れるのを待つことなく、激しい弾の雨を降らせ、その動揺を誘う。


「もしかして、この人たち、組んでるの?」


 飛鳥は、それを回避すべく、ビルが密集する東通りへ飛ぶ。

 それをメトロポリタン美術館屋上で待ち構えていた、ロース班が狙撃する。


「無敵制限解除まで、5秒前、4、3……なにぃ!」


 無敵中に美術館の横を抜け、そのまま東通り84番街へ入ると思われた機体が一転し、ロース班を襲う。


「ろ、ロース班全滅!」


「なに!」


 プロにプレイ制限は無いものの、墜とされた(ゲームオーバー)場合、同じ戦場にログインすることは出来ないようになっている。

 ちなみに、アマが墜とされた場合は違っていて、運営からの殲滅宣言や、待ち時間さえ無ければ、同じ戦場に復帰できるが、力の均衡を保つため撃墜前と国が異なる場合がある。


「シリアルキラーは、ロースの左肩を斬り落とし、盾を奪って、ハネシタ班へ向かっています!」


 このGTWでは、敵の武器や防具に限らず、破壊した機体をも利用することが出来る、所謂いわゆる鹵獲ろかくシステムが導入されている。

 その奪った武器などが消えるタイミングは、それが爆発で粉々になるか、もしくは殲滅宣言の後となっていた。


 ロースの肩を斬り落とし……、

 自分で付けといて、何だが、肉の部位感ハンパないな。

 いかんいかん! そんな事よりもだ!


 だが、帯牙が次の指示を出すよりも早く、


「ハネシタ班、全滅です!」


「なんだと!?」


「ギアラ班まで!」


「カルビ、タンシオ、シンシンの各班は、フォローに入れ! チッ! こんなに早く作戦変更させられるとはな!」


 その時、帯牙は出撃前での親友の言葉を思い出した。


 ――ヤツは、5秒に1機のペースで墜とす、しかも、その殆どがシリアル機だ、十分注意しろよ。


「ミノとレーバーは、東通り80番台のビルで待機しろ! ランプとハラミは、俺に着いて来い、ヤツを東通りへ引きずり込む。先行班は、俺たちが行くまでたせろ!」


 帯牙の班が乗るGTX777、通称タイガーファングは、スポーツカーからロボットへ変形するタイプのGTM《グランドツーリングマシン》で、変形時には、足の裏にタイヤが行き、ローラーブレードさながらに滑走する。


「この人たち凄いなぁ~、ダンスみたい」


 ――叔父さん、遣る前に、少し戦場をならしたろ? そうすることによって、不確定要素の敵が消え、叔父さんたちだけになるのは、返って不利なんだ。それと、叔父さんたちのチームって、凄過ぎるんだよ。まるでマスゲームのようなんだ。それだけに、行動が読み易いのさ。


 帯牙の班が現地に到着した時、既に半数が墜とされた後だった。


「各班、一旦退け! 俺たちで誘い込む!」


 激しい攻撃が急に止み、その全てが東へと飛び去って行く。


「あれ? 止めるの?」と飛鳥が言った台詞を、地上から攻撃して来た者たちが、それを否定した。


「え! あれカッコいい! あんなのも在ったんだ! えっと、アイツは……形式番号GTX777、車に変形するGTXで、両拳に爪のような武器が仕込まれているんだ。へぇ~」


「降りて来い!」


 飛鳥は、モニタに映る機体説明を読みながら、帯牙たちが放つマシンガンを軽々と避け、読み終わったところで、勝負に出る。

 GTX1000は急下降し、地上を走るGTX777へと襲い掛かる。


「ランプ、ハラミ、援護を頼む!」


 そう言って帯牙が単独で飛び出し、GTX1000に向かって行ったのだが、当の飛鳥はそれを無視して、後方のランプを狙う。


「な! 無視だと、ゴラァ!」


 この時、何故、無視されたのか?

 その理由を帯牙が知るのは、随分先になる。


 ――だって、タイガーさん、白だったんだもん。


 そう、この時の帯牙の筐体は、インベイド社員であるため、シリアル機であったものの、ランク外だったのだ。


「ランプーッ!」


 マシンガンを器用に避け、ランプのGTMを背負っていたソードで串刺しにした後、その機体を蹴って飛び、反対側のハラミを狙う。


「させるかーッ!」


 ハラミのGTMに、ソードが届く前に、帯牙の爪がそれを止める。


「え? 止められた! せーの!」


 だが、飛鳥はすぐに反応して、止めた帯牙の頭部を蹴りに行く。

 帯牙は、頭を下げてそれをかわすだけでなく、勢いで回った飛鳥の背を狙い、爪を伸ばした。

 しかし、飛鳥は回転しながら変形し、その伸ばされた爪が空を切った。


「凄い! この人、白なのに凄い!」

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