第20話「市街戦」
GTW《グランドツーリングウォー》は、32の
国の勝敗決定は単純明快で、終戦日(日本時間12月21日0時)時点での、各国に所属しているプロ20名の順位の総計で、最も少ない数値の国が優勝となり、仮に同数であった場合は、トッププロの順位が高い方が勝国となる。
そんなGTWでのプロ640名は、32位以内の王による下位優先でのドラフト会議によって分けられる。
ただし、このゲームには、給与支払い元となる順位確定日(毎月20日)があり、所属プロがランク外へ落ちることは、頻繁に起こるのだが、その場合、代わりに入って来た新人プロが、その抜けた穴を埋めることとなる。
また、王が32位から落ちることもある。
その場合においても、代わりに上がった者が、その国を引き継ぐ形となり、最終日まで国自体が亡くなることはない。
さて、残りのアマチュアはというと、国を選択することはできず、ログイン時に、ランクによるハンデを踏まえた上で、人口の少ない国へ自動で振り分けられるようになっている。
アマチュアの国を固定にしないのは、人口比率のバランスを取る為なのだが、時差による偏りを避ける為でもあった。
だが、アマチュアにも、戦場の選定はできる。
各自のスマートフォン、もしくは施設の受付にあるタブレットでの事前予約でだ。
これによって、プロになりたいアマチュアたちは、シリアルの多い戦場を選び、下剋上を激しくさせた。
特に、順位確定日の前日などは、確定した者だけに年収の1ヶ月分が支払われる為、戦場がほぼ一極に集中し、何百万人による大乱戦になる。
そんなGTWでの戦場選びは、殆どのプレイヤーが市街地を戦場に選んでいた。
それは、隠れる場所が多く点在する為だ。
勿論、盾となっている建物を破壊し、攻撃することも可能になっているのだが、戦場開始時間から72時間経つと、戦場復旧の為、運営より『殲滅宣言』がなされ、その戦場に新規でログイン出来なくなる。
戦場の変更は、例えシリアル機であっても、ログアウトしてからとなり、瞬間移動的な行動は出来ない。
こんな戦争ゲームなのだが、戦わない者も少なからず居る。
それは、世界遺産巡りなどをする者、鳥のようにいつまでも飛んでいたい者など、そんな5分間の観光を楽しむ者たちだ。
中には『ルート66を完全制覇する!』という独自企画を打ち立て、動画配信をする者も少なからず現れた。
そんな中、プロ発表の二日後に事件が起こる。
ランクを上げたい者たちによる『観光者狩り』が横行し、クレームの報告が山のようにやって来たのだ。
ラルフ・メイフィールドは迷った。
双方の言い分は、どちらも理解が出来たからだ。
「そもそも、このゲームは戦争ゲームなんだ。戦いを仕掛けて何が悪い! それに戦わず5分間、時間を取るのは、待っている人に迷惑だ!」
「ゲームは、色々な楽しみ方が有っても良い筈だ」
だが、運営者としては、早急に対応しなくてはいけない。
何故なら、何の説明も対応も発表しないまま、
そこでラルフは、ゲーム予約に観光用フラグを設けた。
それを設定すると、攻撃を受けず、更にレーダーにも映らないようにした。
ただし、プレイ時間を1分削る。
1分短くしたことで、観光プレイヤーから怒りの声が溢れ返る。
中には「5分の内、3分を観光して、残り2分で戦いたいのに」という意見もあったが、これは流石にプレイヤー側からも「並び直せば、いいだろ!」という意見で打ち消された。
そして、この問題を世界的人気実況者であった、ダニエル・フィッシャーが解決する。
「
何万人ものチャンネル登録者たちが見守る中、ダニエルは大きく息を吐いた後、笑顔で自分の見解を述べた。
「良い調整だ、ラルフ。しかも、攻撃を受けないってのが素晴らしい。これで、俺が望んでいた『戦場カメラマン』が出来る。1分削られても、お釣りが来るくらいだ」
この発言により、戦場も新たな観光地となり、最悪な状況は回避された。
「ヤツは、シリアルを狩る。そうなると、戦場は市街地でほぼ間違いないだろう。しかし、ヤツの戦闘傾向から察するに、それでも視界の広い場所を好んでいるようだ。そのことから、ヤツは自分の眼で判断する比率の方が高いと推測される。そこで、サンカク、ハネシタ、ギアラ、テッチャンの班は、市街地にヤツを誘い込め。ミノ、レーバー、ロースの各班は、市街地で待ち構え、ビルの屋上から狙撃しろ。カルビ、タンシオ、シンシンの各班は、200mの距離を保ちつつ、ヤツを中心に120度の間隔で時計回りに攻撃し、ヤツを地上戦に誘え。ヤツが降りたところで、俺とランプとハラミが接近戦を仕掛ける。作戦は以上だ」
「前々から、気になってたんだけどさ……」
「なんだ?」
「ハンドルネームの在るこのゲームで、
「会話が傍受されたとしても、安心だろ?」
「否、されねーし、そんな実装してないから!」
「雰囲気作りも、大切なんだよ。そんなこたぁーどーでもいい! それより、お前に聞きたいのは、こんな感じで戦術を組んだ訳なんだが、お前なら、どうする?」
「一人相手に、そこまでガチでやって、負けたのかよ!」
「うるせー! 聞きたいのは、そんな台詞じゃねー!」
散々笑った後、刀真は顎に手を当て、改めて叔父の質問に答える。
「その戦術を知らなくて、だろ?」
「あぁ」
「その時々によって、対応は違うけど、たぶん、俺なら――」
刀真の出した答えに、帯牙は「お前もそうするのか……」と、溜息のように吐き出した。
シリアルキラーのログイン傾向は、初日の第一ログインは、日本時間の午後2時12分であったが、その後の第一ログインは、午前4時頃と判明する。
第二ログインが3~4時間後の午前8時頃になり、第三ログインが5~6時間後の午後1時頃。
帯牙たちは、第三ログインに照準を合わせ、シリアルの多い地域で待機した。
日本時間、午後1時27分。
「来たぞ! 各班は、作戦通りに展開。他のヤツの弾当たって、無駄に死ぬなよ!」
「解ってるよ、旦那」
「雰囲気壊すな! 大佐と呼べ! 大佐と!」
「ハイハイ、大佐ね」
「タイガーファング、出るぞ!」
別モニタに映るラルフに、親指を立て、帯牙はチームの戦艦から出撃した。
「このゲームが、戦争ゲームだったってことを、教えてやる!」
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