第19話「タイガーファング」
「俺もそうだが、タイガーとお前はインベイドの社員だから、初期での参加はしない方向で、よろしく頼む」
「あぁ~そうだね、それは仕方ないかー。世界の猛者と闘えるって、楽しみにしてたんだけどなぁ」
「悪かったな、猛者でなくて」
「ラルフや叔父さん、ルイスも強いよ。あぁ、ローレンスも強いかな?」
「いいよ、お世辞は! で、お前には当面の間、開発ではなく、今後どんどん溢れてくるであろう、GTMの調整をお願いしたい」
「了解。それでプレイした気になっておくかぁ」
「そう言えば、タイガーから聞いたんだが、日本で教師するって?」
「はぁ? 何言ってんのさ、インベイドの社員でしょうが……」
「ん? 可笑しいな、そう聞いたぞ」
「ちょ、ちょっと待ってて!」
「叔父さん! 教師ってなんだよ!」
「うわぁ! なんだよ、お前!」
「なんだよは、こっちの台詞だよ! なんだよ、教師って!」
「いやな、お前の母さんに頼まれたんだよ。インベイドの方も、調整テストだけだからさ、いいんじゃないか? まぁ、話だけでも聞いてみろよ。条件良いかも知れんぞ」
「もぅ、面倒臭いなぁ。まぁ、断れば良いか」
と、あの時は思っていたんだが、あの狸(校長)に説得され、仕方なく教師になり、更には騙され、ゲーム部の顧問にまでさせられた。
それを叔父さんにボヤいたら、叔父さんの興味は別にあって、才能ある奴がその部に居ると教えられたのだが、プロレベルには達しているが、
「東儀だろ?
「違うよ、刀真。俺が言ってるのは、
「妹の方かぁ……」
「プレイは、見なかったのか?」
「学校にあるシリアル機は、姉の雅専用の一台だけだったからね」
レンタルのシリアル機は、施設にあるプロ機とは違って、他の人間が乗れないように、網膜登録が書き換わらないように刻まれている。
世界に640人しか居ないプロに、家族内で数人出るなんて、
「で、叔父さんは『初期での社員ゲーム禁止』を破って、闘った訳ですか?」
「あ、え、まぁ、そのー、そうだな……で、でも、ラルフ公認だし……」
風呂に入ってるからの汗なのか、問い詰められての冷や汗なのか判らないほど、汗を湯船で洗い、
「サーベルタイガーは、
「どういう意味だ? ログデータ見りゃやってないことくらい、聞かなくても判るだろ? サーベルタイガー級でも現れたのか?」
「あぁ、そうだ。しかもだ、あのレベルが、同じ地域に二人居るとは信じられなくてな」
「そんなに強いのか?」
「あぁ、GTX1000を乗りこなしたバケモンだ」
「ほぉ~。ラルフ、そいつのハンドルネームは?」
「ハンドルネームの登録は、
「じゃぁ、IDを教えてくれ」
「どうする気だ?」
「まずは、映像が観たい」
「まずは?」
「俺が本物かどうか、見極めてやるよ」
禁止の約束はしていたものの、矢張りゲーマーの血が騒ぐ、それはラルフにとっても同じで『シリアルキラーVSタイガーファング』の対戦カードを観たい衝動に駆られ「仕方ないなぁ、一回だけだぞ」と、欲望の方が勝ってしまう。
「気をつけろよ、タイガー。なんせそいつは、データ解析班から、シリアルキラーって渾名をつけられているほどだ」
「シリアルキラー?」
本来の意味は、連続殺人犯なのだが、データを調べたところ、プロの多い戦場を選び、プロの機体を率先的に狙っているように見えた。
事実、飛鳥は強い相手を求め、レーダーに映る色違い(プロは黄色、64位以内は赤く点滅)を狙っていたのだ。
そこから、プロ、つまりは『シリアルを狩る者』という意味で、シリアルキラーと名付けられた。
もし、飛鳥がスマートフォンを所持していて、ハンドルネームの登録がされていたら、この渾名は付けられなかったのかも知れない。
「確かに、これなら刀真と勘違いするのも頷ける」
シリアルキラーの戦闘履歴を観た後、更に戦闘データを解析し、帯牙は瞳を閉じた。
脳内でのシミュレートが終了し再び瞳を開くと、今度はパソコンの通信アプリを起動して、ログイン状態の者を選び、コールする。
「久しぶりじゃないか、タイガーの旦那」
「どうした? 大将」
「この面子ってこたぁ、やっとプレイ許可が出たのか?」
「一日だけだが、出撃許可を貰った」
「一日だけ?」
「どういうことだ?」
「サーベルタイガー級が現れた」
チャットの向こう側で、
「そいつは、遣り甲斐があるな」
「みんな、腕は落ちちゃいないだろうな?」
「大将の方こそ、大丈夫なのか?」
「自信がなけりゃ、出撃しねぇーよ」
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