第18話「ゲーム内通貨」

 Grand《グランド》Touring《ツーリング》War《ウォー》は、32のワークスに分けられ、世界の覇権を争うゲームだ。

 しかし、ゲームであるにも関わらず、味方にも攻撃することが可能になっていた。

 それは『裏切りシステム』が在っても、面白いと考えたためだ。

 しかし、システムとして導入されてはいるものの、頻繁に起こらないよう、抑制のためにドライバーズポイント(ランキングポイント)の減点が伴われていた。

 また、同国機の攻撃にも、例外が設けられており、それは同国の補給機への攻撃で、当たりはするが無効となる。

 同様に、補給機から同国機への攻撃も、無効となっている。


 そんなことから、GTMを隠せる戦艦や空母、潜水艦などがオペレーター機として選ばれることが多く、一番人気は空を飛べる戦艦だった。



「以上が、簡単なオペレーターの説明となります。オペレーターに給与を払うと知って、オペレーターを無しで遣られる方も多いですが、オペレーター無しで640位以内をキープ出来てる人は、僅かに4名です」


「その人たちは、燃料が切れる前に、ログアウトしてるんですか?」


「そうです。そうですが、言うほど簡単ではありません。それはログアウトに、3秒掛かるからです。シリアル機では、アマチュアのタイムアウトのようなログアウトを、プロは出来ない仕組みなのです。プロが一般機を使った場合は、タイムアウト、つまり、強制的にログアウトされますが、その場合、一般の長~い順番待ちが待ってますからね」


「どうして、ログアウトに時間を?」


「それは、ランクの変動を激しくするためです。また、オペレーターは、周囲のGTM離脱時間や、残りの燃料を知ることが出来ます」


「あぁ、つまり、残りの燃料が少ないプロが狙われやすいと」


「その通りです」


「しかし、そこまで変動が激しいシステムで、ランクというより、年収が決まるのは、いつになるんですか?」


「実は、年収といいながら、月毎の確定で月毎の支払いなのです。ちなみに、確定日は20日で、支払い25日になります。あ、そう言えば、説明しておりませんでしたね。給与の支払いは、一旦、ゲーム内マネーで支払われます」


「え? このゲームに、ゲーム内マネーって在りましたっけ?」


 2025年の段階では、ゲーム内でのマネーはプロと、そのオペレーター、デザインなどで賞金を得た人だけのシステムだった。

 ゲーム内通貨は、ゲームを文化にまで押し上げた日本を賞して、EN《えん》という単位を用いており、一旦、ENで支払った後、プレイヤーの申請があれば、円相場に基づいて、好きな国の通貨に変換できる仕組みとなっている。



 更に先の話になるが、このゲーム内マネーENは、全プレイヤーが取り扱い可能となり、それでゲーム内のアイテムを買ったり、ゲーム大会の賞金に使用されたり、ゲーム内に設けられたギャンブルに使うことも可能となり、更には、このゲーム内マネーENを現金で買うことが出来るようにまでなる。


「マネーロンダリングに使われないか?」


 ルイスの疑問は当然だったが、それをジムが笑う。


「個人情報が押さえられてるのに、ロンダリングに使う奴なんて居ねーよ」


「あ、それもそうか」



 この時のプレイヤーおよび、スタッフは「なんでこんな面倒な換金するんだろう?」と、不思議に思いながらも、公式の「いずれオペレーターは、世界を跨いで雇えるようになるので、そのためなんです」という嘘に騙されていた。


「そう言えば、オペレーター増やせるって言ってましたよね、何人まで増やせるんですか?」


「一応、制限は有りません。有りませんが、年収の5%ですから、同時としては、最大20人と考えるのが一般的です」


「ん? 一般的でない人が、居るんですか?」


「えぇ、居ますよ。5位のローレンスは、1000人も抱えています」


「え! ズルイ!」


「確かに、金持ち有利と言えるシステムですが、圧倒的有利とまでは言えません。一つ一つの作業は、人によるものでコンピュータ制御してる訳ではありません。ですから、MIYABIさまのように、才能で上がって来る方も多いのです」


 そう言われ、恥ずかしそうに頭を掻く雅とは対象的に、聞けば聞くほどオペレーターの仕事に不安を感じ、紗奈の表情は曇って行った。


「どうしたの?」


「わ、私は、1ヶ月で127万5489位なの……だから、どう考えても足手纏あしでまといだなぁって……」


「何言ってるの! 登録数から考えたら10%以内じゃない! 胸を張りなさい、貴女の……紗奈のランクは、誇らしい順位よ」


 そう、最初に雅の順位を聞いた時、実は自分が10%以内に居ることを自慢したかったのだ。

 しかし、聞いた相手が遥かに上過ぎて、言うのが恥ずかしくなっていたのだ。


「ありがとう、雅」


 紗奈は嬉しかった、励まされたことよりも、名前で呼んでもらえたことに、そして、自分もさり気なく便乗できたことに。



「さて、それではドライバー、オペレーターに分かれ、テストをしましょうか?」


 雅は、ワクワクしていた。

 やっと、機体選びが出来るのである。

 632位に入ったのだから、そこそこ上達してるに違いない。

 そうは思っても、順位を落としたくなかったから、難しい機体を避けてきたのだ。


「これこれ、気になってたのよね。難易度がS級だけど、今の私なら使えそうな気がする!」


 そう意気込んだものの、2分でNPC機に墜とされた。


 ダメだ……巧く扱えない。

 何? このスピード重視の偏った機体は……。


 しかし、スタッフから出た言葉は、意外なものだった。


「凄いですよ、MIYABIさま。その機体、普通に飛ぶだけでも、1分持たない人多いんですよ。調整すれば、モノに出来るかもしれません」


 そう言われ、スピードを落とす調整を何度か行い、乗りこなせるようになった。


「す、凄い! サーベルタイガー以来です、そこまで乗れたのは!」


「サーベルタイガー?」


「はい、非公開時代に圧倒的強さを誇っていたテストプレイヤーで、その機体GTX1000はサーベルタイガーしか乗りこなせませんでした。だから、それ自体がサーベルタイガーと呼ばれてるほどなんですよ!」


「凄いじゃない、雅!」


 だが、雅の感想は違っていた。


「ダメね、ここまでスピードを落とすと、この機体の良さを殺してる。たぶん、今まで使っていたGTX1800を調整した方が、動きがいいと思うわ」

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