第17話「ゲームが好きなことは、恥ずかしいことじゃない」

 妹の為に仕方なく来ている……そんな大義名分が在るものの『女子高生がゲーセンに入り浸ってる』と思われたくなかったみやびは、ボーイッシュな格好をして、深くキャップを被り、マスクを付け、インベイドの施設に通っていた。

 気付かれないまま時は過ぎ、春休みに突入。


 640位以内に入ったことで、別室で24時間プレイできることから、午前4時にインベイドの施設へと向かい、案内してもらおうと、スタッフに声を掛けるべくマスクを外した、その時。


「あれ? 東儀とうぎさん?」


 後ろから名を呼ばれ、振り返ってみれば、桃李とうりの制服を着た、見知らぬ眼鏡の女子が立っていた。


「貴女は? ごめんなさい、隣のクラスだったかしら?」


「いいえ、私は1年D組で北川紗奈きたがわさな


「え? なんで知ってるの?」


東儀とうぎさん、貴女結構、有名人よ」


「有名? 私が?」


 本人に、自覚が無いとはね。

 今年のバレンタインが、貴女の所為で禁止になったって言わない方が良いわね。


「今年のミス桃李、最有力候補って有名よ」


「えぇ……」


 毎年、ミスコンが行われるが、その対象は2年生のみ。

 選ばれると、1年間、学校の広告塔にされてしまう。

 学校案内パンフレットや、文化祭や体育祭でのポスター撮影などがあるため、ミス在職の1年間は学費無料となっている。

 勿論、辞退することもできるのだが、名誉職であることから、お嬢様のステータスとして、辞退する者の方が少なかった。


「そんなことより。驚いたわ、貴方もこのゲームに興味があったなんてね」


「ち、違う、違うの。ゲーム好きな妹の為に来てるの。ウチの妹ね、今年受験なのよ。だから……」


 いつも凜とした麗人である雅が、頬を赤くしながら焦る姿を見て紗奈は、


 可愛い~!

 こ、こんな一面も、有ったのね!


 という想いをグッと押し殺して「そうなんだ、大変ね」と冷静に返事した。


「どのくらい通ってるの? 私は1ヶ月くらいなんだけど……」


「そ、そんなには……」


 初日から通い続け、2ヶ月超えてるとは言い辛く、つい誤魔化したのだが、


東儀とうぎさん、今、何位なの?」


 そう聞かれて、耳まで真っ赤になる。

 アプリを起動すれば、順位だけでなく、登録日もバレるからだ。

 だからと言って、見せない訳にもいかず、観念して、黙ってスマホを差し出した。


「え! 632位! す、凄い! プロじゃない!」


 紗奈が、思わず声を張ってしまった為に、昨夜、プロ化が発表されたばかりということもあって、周りがどよめいた。


 え? あの子、プロなの?

 嘘だろ、マジかよ、あんな綺麗な子が?


 それに逸早いちはやく気付いたスタッフが慌てて駆け寄り、雅たちに声を掛けた。


「ご予約された、MIYABIさまですね。お待ちしておりました。ご案内させて……コチラは、オペレーターの方ですか?」


「はい!」と、雅が答えるよりも早く、紗奈が勝手に返事をする。


 否定することよりも、早くこの場を離れたい雅は、それを受け入れ、一緒にプロ専用の部屋へ。

 部屋に入るなり、スタッフが数名揃って、拍手で迎えられ、花束まで渡された。


「MIYABIさまは、当店最初のプロで御座います。ランク安定までサポートさせて戴きますので、よろしくお願いいたします。オペレーターが足らないようでしたら、当面の間、我々がサポート致しますので、お気軽に仰ってください」


「オペレーターは、何をするんですか?」


 プロの雅より先に、第1オペレーターとなる紗奈が問い掛けた。


「では、それも含めて、プロとアマチュアの差を解説していきましょう。それではオペレーターから……オペレーターとは、主にGTMのステータス管理する係りです。また、ドライバーの補助をすることも可能で、回避やメイン攻撃を丸々オペレーターに投げることも出来ます。しかし、投げた場合、出力が通常より最大で5%落ちます。シリアル機……あ、すみません、シリアルとはプロ専用機のことです。シリアルは、テスト可能ですので、十分にテストされてから、実践に行かれることをオススメします」


「テストってことは、色々な機体を試せるのですか?」


「はい、勿論です」


 雅は、妹の為の情報収集という建前と、自分に合った機体を探せるという本心に心が踊る。


「あと、それだけでは有りません。バランス調整も、可能となります」


「バランス調整?」


「例えば、機体の装甲を薄くすると、機体スピードがアップしたりします。逆だと重くなります。また、エンジン出力を上げると速くなりますが、燃費が悪くなります。プロは24時間プレイ可能でもありますから、その辺りも考慮する必要があります」


「燃料が無くなりそうになったら、どうするの?」


「ピットインと呼ばれる、給油を行う必要があります。放置していると、動けなくなり、間違いなく墜とされます」


「ログアウトできないんですか?」


「はい、ガス欠状態では、ログアウトできませんので、十分注意してください。ですが、その為のオペレーターでもあるんですよ。燃料や機体の損傷を確認して、ピットのタイミングを知らせるのです」


「なるほど」


「そして、給油の為の機体、専用GTMなんですが、戦艦であったりロボットであったりと、形態は様々で、ピット用のGTMを扱うのが、オペレーターとなります。また、ピット用のGTMも墜とされます。装甲が厚いので、墜とされ難くい設定ではありますが、その点にも注意する必要があります。勿論、墜とされるのですから、攻撃も可能です」


「そこまで来ると、プロの補助なんて出来そうにないのでは?」


「いいえ、オペレーターは増やせます。プロの給与は、オペレーターを雇う為のお金も含まれているんですよ。年収の5%がそれに当たりますので、設定すると自動的にプロから5%をカットし、オペレーターの口座に振り込まれます。仮にプロの年収が500万円なら、25万円がオペレーターの年収となります。とはいえ、これはプロの活動時間を100%支えた場合です。仮に100時間されて、その内10時間を支えた場合は、2万5千円となります。ちなみに、我々スタッフを活用した場合は、引かれませんのでご安心ください。とはいえ、それにも我々の使用にも時間制限があり、200時間までです。効率よくするには、オペレーターを増やす際に、教育係として呼ぶのが良いかと考えます」


 オペレーターの給料を知らなかった紗奈は、手を合わせ、気まずそうに雅を振り返り「足を引っ張るようだったら、遠慮なく切ってね」と言い、それに対して雅は、笑顔で頷いたが、内心複雑だった。


 飛鳥のために来ている筈なのに、良いオペレーターを選別するなんて……必死過ぎる!

 それに、飛鳥が始めたら、辞めないとイケナイんじゃ……

 辞めたくない……

 でも、続ける理由が……


「ちょっと、すみません」


 紗奈は、雅の様子が可笑しいと感じ、スタッフを止め、雅に近寄り、部屋の隅に連れて行った。


「どうしたの? いいのよ、私のことは気にしないで」


「違うの……」


 雅は、この時、小声で本心を紗奈に語る。


「え? ご両親に反対されてるの?」


 雅は、黙って首を振る。


「学業に専念するの?」


 雅は、黙って首を振る。


「なんで、辞める必要があるの?」


「だって、来ている理由が……」


「このゲーム嫌いなの?」


「好きよ! こんなに楽しいの初めてだもの」


「あのさ、その理由って、自分でルール作っただけでしょ?」


「え?」


「楽しいから続ける、それで良いじゃない。ゲームが好きなことは、恥ずかしいことじゃないんだよ?」


 そう言われて、ハッとする。

 こんなに好きになったゲームなのに、来ることが恥ずかしいと思ってた。 

 いつの間にか、このゲームを差別していたのだ。


「ありがとう。そうよ、貴女の言う通りね。何も恥ずかしいことなんてなかったのよ、最初から」


 そう言って、マスクを外し、キャップを脱いだ。

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