第16話「東儀雅の言い訳」

「こ、これは飛鳥の為、今、受験勉強で頑張ってゲームが出来ない飛鳥の為に、私が代わりにプレイして、試験が終わったらゲームを説明してあげるの。そう、私が遣りたい訳じゃないの」と、自分に言い聞かせるも、内心では楽しんでいた。


 東儀雅とうぎみやびは、ゲームが嫌いだった訳じゃないのだが、段々やらなくなっていた。

 それは、一般的な女子に多い『成長して興味が無くなった』というのもあるのだが、それよりも、妹に全然勝てなかったのが、主な原因だった。

 買ったばかりのゲームは、知識的なアドバンテージで最初の内は勝つのだが、1時間経たない内に負け始め、気が付けば全く勝てなくなる。

 自分が買ってきたゲームを、先にクリアされてしまうことも多々あり「アタシのゲームするの禁止!」と言って、喧嘩になったこともあった。


 挑んでも挑んでも、練習しても練習しても、負け続けるゲームは、矢張り面白くない。

 勿論、ジャンルによっては、勝てるゲームもある。

 将棋やチェス、ボードゲームのような種類のゲームだ。

 だがそれは、雅自身、趣味に合わないゲームであっただけに、勝ったところで嬉しくもなく、次第に離れてしまうことになったのだ。


 だが、今は楽しくて仕方がない。

 そう、勝てているからである。


「もしかして、アタシ……このゲーム、合ってるのかな?」


 雅は、妹以外と対戦したことが無かった。

 それは、自分が『ゲーム下手な方だ』と思っていたからだ。

 妹にあっさり負けるくらいだ、友だちとやったら、一瞬で終わるに違いない、そう思い込んでいた。

 こうして、ゲームを敬遠するようになってしまったのである。

 このゲームを遣り始める前ですら、一瞬で終わって感想が言えなくならないように、運営スタッフに「一番扱いやすいか、生き残る率の高い機体はどれですか?」と尋ねたくらいだった。


 GTM《グランドツーリングマシン》には、色々な種類が在る。


 型式GTG:戦車、車、バイクなど飛べない陸戦型。

 型式GTS:戦艦などの船、潜水艦などの海中もしくは海上型。

 型式GTF:戦闘機や飛行船、気球など、空中戦専用。

 形式GTR:ロボット型の総称で、飛行する機能も備わった物もある。

 形式GTX:ロボットから車や戦闘機、船などに変われる変形型。


「GTGとGTSは、行けない戦場があります。どちらかというと趣味やゲーム内観光用に作られたような物となっています。非公開テストで一番人気だったのは、変形タイプのGTXでした。GTRは、他と比べて装甲が厚いので、生存率が高いとも言えますが、動きが遅い為、囲まれたら逃げ難いですね。GTXは、逆に逃げ易いですが、装甲が薄いといった感じです」


「初心者へのオススメだと、どれですか?」


「ご自身で色々乗り換えて、自分に合ったGTMを探すのが一番だと思うのですが……そうですね、私が下手なので、どれが良いかって判断し辛いのですが、私が一番扱いやすかったのは、GTX1800でしたね」


 スタッフの『私が下手なので』という言葉に誘われ、雅もそのGTX1800を選んだ。

 本当なら、妹の為に色々なGTMを使ってみるつもりだった。

 だが、それが出来なくなっていた、勝つ楽しさを知ってしまったからだ。


「も、もう少し、このGTX1800に慣れてから……」


 そう自分自身に言い訳をしていた、だが、本心では負けたくなかったからだった。

 下手な自分が、機体を変えれば、すぐ撃墜される気がして怖かったのだ。

 だが、その恐怖心は、どんどん膨らんで行くことになる。


 勝率を重ねて行き、気付けば2ヶ月で844位。

 この時点での登録ID数は782万人、その中の844位だ。

 そう、今度は遣られることよりも、順位を落としたくないという気持ちに変わる。


「あぁ、飛鳥に自慢したい、したいけど、まだ、飛鳥の受験が終わってないし……」


 こうして、雅はハマって行くのだが、突然、大きな事件が起こる。

 それは、ゲームの待ち時間を見ようと、専用アプリを起動した時だった。

 『運営からメッセージが届きました』というメッセージが画面を覆っており、それをクリックすると、次に現れた内容は、雅を悩ませる文章が記されていた。


 MIYABIさま。

 この度、お客さまが640位以内となりましたので、専用筐体の無料レンタルが可能となりました。

 専用筐体は、制限時間無く24時間、ご自由に遊べます。

 筐体設置には、筐体とそれに伴う電源確保の為に、5m立方以上のスペースが必要となります。

 配置可能場所が確保できるできないに関わらず、一度、お問い合わせください。

 お問い合わせは、専用回線になりますので、電話をお掛けして良い時間に、下記のボタンからお願いします。


 相談はしないとイケナイけど、スペースなら在る、家の駐車場だ。

 だけど、未だ飛鳥は受験勉強中、そうなると、受験失敗しそう……。


 とりあえず、ボタンを押してみると、すぐに相手が出た。


「はい、MIYABIさま専用回線、担当の杉内です。ご本人さまですか?」


「はい」


「では、ご本人確認の為に、アプリ登録時に在りました『秘密の質問とその答え』を仰ってください」


「はい、最初に買った車は?が質問で、答えは、ありませんです」


 担当の杉内は、笑いを堪えるのに必死だった。


 普通、買った車の車種を答えに入れる質問なんだよ!

 ありませんって答え、なんなんだよ!


「は、はい……ご、ご本人と、か、確認されました。すみません、少々お待ちください」


 しかし、堪えきれなくなり、保留ボタンを押して、散々笑った後、3回ほど深呼吸をして冷静を取り戻した。


「お待たせいたしました。筐体レンタルについて、ご案内をさせて頂きます」


「はい」


「MIYABIさまは、現在632位で、レンタル可能な順位なのですが、640位を下回る可能性も考えられますので、当面の間、専用施設においてプレイをお願い致します。勿論、一般施設でのプレイも可能なんですが、そちらの場合は、一般のお客さまもいらっしゃいますので、今までと同じ、5分毎の30分制限となりますので、お気をつけください」


「はい」


「MIYABIさまのランクが安定したと判断された場合、専用筐体をご自宅、もしくは、所持されている施設などに配置可能となりますが、それはその時に改めて、ご確認の案内をさせていただきます」


「はい」


「専用施設は、専用と申してはおりますが、当社および協賛企業の施設の別室になりますので、どちらの施設に向かわれてもプレイ可能です。以上になりますが、ご質問はございますか?」


「ランクの安定とみなされるのは、何位くらいですか?」


「そうですね、人によって異なりますが、500位を目安にしております」


「あと、無料レンタルということですが、全くお金は掛からないのでしょうか?」


「筐体の設置費や、手数料、ゲーム費などは掛かりません。しかし、申し訳ありませんが、電気代と通信費は掛かります、掛かりますが、これはまだ言えないのですが、近日中に掛からないような発表がなされますので、ご安心ください。他には何か御座いますか?」


「また疑問に思ったら、ここへ電話すれば良いのですか?」


「いいえ、その後は、専用施設のスタッフか、アプリ内のメッセージでお願いします」


「解りました、ありがとうございました」


「担当の杉内がご案内いたしました。今後とも、当社のゲームをよろしくお願いします」


 500位かぁー、私に行けるんだろうか?


 この時、雅の頭の中はもう、妹の為にプレイしているという理由は、消えていたのだった。

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