第14話「夢の途中」

 土曜日は、そろばんの日。

 学校の授業が昼で終わり、家に戻って昼ご飯を済ませ、すぐに帯牙たいが叔父さんの家へと向かった。


 そうそう、お婆ちゃんの家なのに、この時は叔父さんの家だと言ってたなぁ。

 

 そして、俺はこの時、運命的な出会いをする。

 自分の家に帰るように、玄関を潜り、台所に居るお婆ちゃんに挨拶して、すぐに叔父さんの部屋へ。

 ドアを開けると、叔父さんはパソコンで誰かと話をしているようだったので、話の邪魔をしないように、コタツの上に宿題を出し始めていたら、


「え! タイガー、お前、子供居たの?」


「違うよ、この子は、兄貴の子だよ」


「え? 叔父さん、タイガーって呼ばれてるの? 帯牙たいがだから、タイガーなの?」


「いや、どちらかっていうと、虎塚こづかの虎の方なんだが、言われてみれば、そう思うな。なんかオヤジギャグみたいだ」と言って、恥ずかしそう笑った。


「俺はラルフ、君は?」


刀真とうま


「あ、日本人って、本名使わないんだったな」


 ハンドルネーム、それはゲームやSNS、ネットで使う渾名のことなのだが、外国人は本名率が高いのだが、日本人の本名率は、異常に低い。


「まぁ、構わんさ、こいつの家にはゲーム機が無いからな」


「ゲーム機が無いのか?」


「うん、父さんがゲーム嫌いなんだ」


「そっかー、でも、タイガーの家ではやるんだろ?」


「うん」


「じゃぁ、間違って呼ばないように、君の事は、リトルタイガーって呼ぶことにするよ」



 それから、俺はラルフとも話をするようになった、叔父さんが仕事で居ない時も、ラルフとチャットしながら、ゲームを楽しんだりしてた。


「え! ラルフって、アメリカに住んでたの!」


「日本に住んでるって、思ってたのか?」


「だって、日本語が巧すぎるもん」


「あぁ、頑張ったんだぜ。俺、日本のアニメや漫画が好きだから、どうしても、ちゃんと見たくてな」


「え? そっち、字幕ないの?」


「あるよ、あるけど、字幕ってな、表示する文字が制限されてて、似て非なる訳が多いんだよ。そっち、日本でも、そうなんだぜ」


「そうだったの!」


「リトルタイガー、お前の夢ってなんだ?」


「夢?」


「将来こうなりたいとか、こんな仕事してみたいとかだよ」


「ん~」


 この頃の俺は、聞かれるまで、将来なんて考えたこともなかった。

 親父が言う、官僚になれば良いんだって思ってた。

 というか、みんなそうなるモンだと思ってたんだ。


「俺はな、ゲーム作るんだ。みんなが楽しんだり、驚いたりするゲームを作ってやるんだ!」


「いいなぁ、僕もそれになりたいなぁ、でもなぁー、父さん、なんて言うかな……」


「お前の夢じゃないか、親父は関係ないだろ。だがな、今はそれを言うな」


「なんで?」


「今言えば、おそらく此処に来てることがバレるし、お前の夢が潰される。ゲーム機買ってもらえなかったようにな。チャンスを待つんだ。そうだな、大学だ。俺みたいに、誰にも文句言わせないような大学へ行け」


「ラルフって、どこの大学なの?」


「マサチューセッツ工科大学だ」


 ラルフは自信満々にそう言ったんだが、あの時の俺は、知らなかったからなぁ。

 つい、首を傾げてしまって、


「お前は知らないかもしれないけど、結構、スゲーんだからな!」


 必死で、そう言ったラルフが可笑しかったなぁ。



 そして、月日は流れ、叔父さんとラルフは会社を作り、ラルフは夢を叶えた。

 と、思ってた。

 でも、違ってたんだ、まだまだ夢の途中だったんだ。


 そして俺も、誰にも文句を言わせない大学に受かった。


「俺は、官僚には成らない!」


「何になるつもりなんだ?」


「叔父さんの手伝いをして、ゲームを作る!」


「何を馬鹿げたことを。お前は一体、どんな教育をしてきたんだ!」


 親父は、お袋を責めた。


「そうだよ、俺は父さんに育てられたんじゃない! 母さんと、帯牙叔父さんに育てられたんだ!」


「帯牙だと? あいつに関わって、馬鹿になったか!」


「叔父さんは、馬鹿なんかじゃない! 叔父さんのお陰で、勉強の楽しさを知ったんだ! 父さんから、学んだ訳じゃない!」


「誰が、そこまで大きくしてやったと思ってるんだ!」


「父さんじゃないって言ってるだろ? 聞こえなかったのか? それとも馬鹿なのか?」


「支援してもらわなければ、何も出来ない癖に、一人前の口をきくな!」


「金か? だったらやるよ! 今まで育ててもらった分だ!」


 そう言って、5000万の数字が刻まれた通帳を親父に投げた。


「なんだこれは? 帯牙か? あいつが……」


「違うよ、これは俺の金だ」


 そのお金は、インベイド社、社長であるラルフ・メイフィールドが俺に用意した、契約金だった。


「お前への先行投資だ。自由に使え、デカくなって帰って来いよ、リトルタイガー」


「もう、リトルと呼ばれるような背じゃなくなったよ」


「じゃ、新しいハンドルネームが必要だな、そうだな……」


 ラルフは、何かに思いついたように微笑むと、俺に新しいハンドルネームを付けてくれた。


「またな、サーベルタイガー」

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