第12話「ゲームの無い家」
俺の家に、ゲーム機は無かった。
それだけじゃない、テレビさえも無かった。
理由は、世間で
そんな俺が、初めてゲーム機に触れたのは、小学1年の時だった。
学校帰りに、友達の家に寄り、友達とゲームを楽しんだ。
余りの楽しさに「ねぇ、ゲーム買って」と
俺が次にゲームを目にするのは、父方の祖父が亡くなり、実家へ行った小学4年の夏だった。
「ゲームばかりやってると、こういう人生の落伍者になるんだ」
親父は、俺に教訓として、叔父さんを見せたようだが、俺には、叔父さんが落伍者なんかに見えなかったし、叔父さんの部屋は汚かったが、漫画とゲームで溢れ返った楽園に見えた。
「こんなニートに成りたくなかったら、お前も勉強に励め」
「俺は、働いてるし、家に金も入れてるんだが?」
「実家でなければ、その日も暮らせないアルバイト風情が、偉そうに……」
「ニートの意味も知らないのか? 随分、会わない内に、馬鹿になったみたいだな」
「俺から見れば、どちらもクズに変わりはない」
「0点だな。俺の指摘は、言葉の意味だ。兄貴の個人的な見解じゃない」
「なんだと!」
「坊主、よく覚えておけ。間違えを認められないお前の親父のような仕様もないプライド持った奴は、周りから嫌われる」
「負け犬の癖に……そうやって、いつまでも吠えてろ」
「噛んで来た犬は、お前だがな」
「行くぞ! 馬鹿がうつる!」
そう言って親父は、強く俺の手を引き、その部屋を後にした。
「ねぇ、叔父さんは、どこの大学に行ってたの?」
「アイツは、高卒のクズだ」
その時、俺は思った『父さんが馬鹿にする高卒でも、口喧嘩で父さんに勝てるんだ』と。
ゲームに興味があったが、それよりも、叔父さんに興味が湧いてきた。
色々と話を聞いてみたくなった俺は、親父が出張で居ない時を狙って、塾をサボって叔父さんに会いに行った。
「こ、こんにちは」
「ん? 兄貴の子……名前なんだっけ?」
「
「そうか刀真か、俺は
「いいえ」
「一人で来たのか?」
「うん」
「おいおい、馬鹿がうつっても知らねーぞ」
そう言って、叔父さんは笑った。
「お父さんか、お母さんに来るって言って来たか?」
俺は、返事するのに詰まってたら、叔父さんは「そうか」と言って立ち上がり、お袋に電話した。
「帯牙です、刀真がウチに来てるんだが。否、迎えはいいよ義姉さん。兄貴が帰るまでに、俺がそっちに送ってくよ。え? 今日は帰らない……俺は構わないけど、ちょっと聞いてみます」
「お前の母さんが、泊まっても良いと言ってるが、どうする?」
「泊まります」
俺の即答に「自分で言え」と受話器を渡された。
「お母さん、泊まっても良いの?」
「お父さんには、内緒にしてあげるけど、お母さんに内緒で塾サボらないでね」
「ごめんなさい」
「じゃ、叔父さんに代わって」
「はい、お母さんが代わってって」
「代わりました。いつくらいに帰せばいいです? は? はぁ、解りました」
電話を切った叔父さんは、俺に期日を告げた。
「兄貴……お前の父さんが帰ってくるの5日後らしいから、その間なら、好きなだけ此処に居ていいそうだ」
「やったー」
「で、お前は、何しに来たんだ? 漫画でも読みたいのか? それとも、ゲームか?」
「それもあるけど、叔父さんと話がしてみたくって」
「俺に? 何が聞きたいんだ?」
「叔父さんって、ホントに大学行ってないの?」
「あぁ、そうだよ」
「なんで行かなかったの?」
「行かなかったんじゃなくて、行けなかったんだよ。叔父さんは、お前のお父さんが言う通り、頭が悪いのさ」
「そうかな?」
「どうして、疑問に思うんだ?」
「お父さんを言い負かせたから」
「あぁ、それは、口が達者なだけさ」
「ん~?」
「よく解らんか……そうだな、知らない内に、口が達者になる勉強をしてたのかも知れない」
「知らない内に?」
「あぁ、色んな本を読んだ、数え切れないくらいにね。そしたら、いつの間にか、口が達者になってた」
「本を読めば、僕もそうなる?」
「刀真は、掛け算は出来るよな?」
「うん」
「でも、習ったばかりの頃に比べたら、早く計算できてないか?」
「うん、なった」
「それは経験と言ってな、何度も繰り返すことで、身に付くんだ。本には学べるモノが、いっぱい詰まってる。読むことで、それが経験となって、叔父さんに身に付いたんだよ」
「やっぱり、叔父さんは、高卒だけど賢いと思う」
「そうか、ありがとう。でも、褒めても、何も出んぞ」
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