第11話「絶対数感」

 ゴーゴル社、第二会議室。

 先日行われたGTX1000との戦闘の反省および攻略を考えるべく、ローレンスは、オペレーターたちを会議室に集めた。


「まず始める前に……ラルフからの返事があった。矢張り、GTX1000のドライバーは、サーベルタイガーでは無かったそうだ。まぁ、一人居たんだ、二人目が現れたとしても、不思議では無い。個人を特定することよりも、今後の対策を考えようじゃないか。それでは、各班の見解を聞きたい。では、第一防御班から」


 指名された第一防御班チーフオペレーター、フィオレンティーナ・コンティは立ち上がり、班としての見解を述べる。


「我々、第一防御班の見解と致しましては、空中戦に敗因が有ったのではないかと考えます」


 会議室に在る100インチのモニタに映しだされた映像は、当時の戦況をデータから再現したもので、ローレンスが搭乗していたGTR2500を中心に300m区域。


「この時、下方を監視していたのが第三防御班に当たるのですが、地上に降りれば監視の必要も無くなる訳ですから、その分、他をカバー出来ます。また、GTX1000以外で、この戦場に居たGTMは35機。第四防御班が、その監視に当たっていた訳ですが、GTRの装甲を考えれば、それを放棄して、GTX1000に集中させる手もあったのではないかと考えます」


 頷きはしたものの、打開策としては、弱い提案に感じるローレンスだった。

 その後も、様々な戦術や対応策が発表される中、最後の発表者となった第一攻撃班チーフオペレーターのジェームズ・レナード・マクスウェルは、他とは違う視点だった。


 ジェームズは、視点をGTX1000に切り替え、変形する直前まで送り、停止させる。


「我々、第一攻撃班が注目したのは、この場面、変形のタイミングです」


「そこに何か在るのか? ジェイミー」


「それを答える前に、まず、会長にお尋ねします」


「なんだ?」


「もし、ミサイルが誘導して向かって来るのを知り、それを避けようと考えた場合、会長ならどうされますか?」


「旋回か、急上昇だな」


「そうです、それが一般的な行動であると考えます。そうであるからこそ、我々もそうさせない為に、間合いを詰めたのです」


「そうだ。だが、変形の隙間にミサイルを通された……」


「では、話を戻します。この変形のタイミング、此処に、このドライバーの強さの秘密が在ると考えました」


「強さの秘密?」


「はい。まず間違いないのは、こいつが回避動作を決定したのは、我々が動いた後です」


「何が言いたい?」


「誘導ミサイルの反転から、GTX1000をロックオンするまで、2秒弱です」


「つまり、こいつの反射神経なら、我々が動く前に、何かしらの行動を起こせていたと言いたいのか?」


「はい」


「あれが、一か八かの博打ばくちではなく、狙っていたと?」


「行動手順から見て、それに間違いないかと」


「しかし、そんなこと、可能なのか? そんなに常人離れした反射神経なのか?」


「いいえ、反射神経では無理です」


「どういうことだ?」


「あの距離でホーミングミサイル4発を同時に避けるには、反射神経の速度が0.036秒以内でないと不可能です」


 神経系などの構造上、人間の反応速度の限界は0.1秒だと言われており、有名なところでは、陸上競技の短距離走におけるフライング判定の基準値になっている。


「じゃ、どうやって避けたって言うんだ」


「恐らく、予測したのではないかと」


「予測? おいおいおい、俺はオカルトの話を聞きたい訳じゃないぞ。仮に、仮にだ、お前の言う予測だとしよう。そうなるとだ、全てのデータが頭に入ってないと無理だろ?」


「はい、機体のサイズ、ミサイルのサイズ、機体の速度、ミサイルの速度、変形の隙間、変形速度、錐揉きりもみでの速度、ゲーム内での空気抵抗……挙げれば、切りが有りません。恐らく開発者ですら、記憶も計算も出来ないでしょう」


「では、何故、そうだと言えるんだ」


「これはあくまで私の仮説なので、オカルトと言われても仕方ないのですが、恐らくこのGTX1000のドライバーは『絶対数感』の持ち主ではないかと考えます」


「絶対数感? なんだそれは!」


「絶対音感は、ご存知ですよね?」


「あぁ……それの数値版だと?」


「はい」


「はぁ? 何もかも、数値で見えるって言うのか? そんな人間が居るなんて、聞いた事ないぞ」


「ですが、探してみれば、珍しい能力ではありません」


「例えば?」


「身近な例を挙げると、プロレーサーです。速度や車幅を完全に見切っています」


「それは体感であって、数値で見える訳では……こいつも、数値で見えるのではなく、体感的な事なのか?」


「はい、恐らくは……」


「確かに、それだと説明はつくかもしれん。だがな、あまりにも信じ難い。同じ存在しないものとしてなら、まだ、反射神経が0.036秒以内と言われた方が納得が出来る」


「仰ることは解ります。ですが、私には一人だけ、心当たりがります」


「心当たり?」


「はい。私が日本に留学していた頃の友人なのですが……私の目の前で、フリーハンドで真円を描いてみせました」



 桃李成蹊とうりせいけい女学院、2年D組。


「先生の円、凄く綺麗ですね」


「数学教師は、フリーハンドで円が綺麗に描けるようになって、一人前なんだそうだ」

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