第6話「Serial Killer」

 確かに、俺はチャイムと同時に帰宅してましたよ。

 おそらく、あの狸、他の教師たちには、俺が帰ってから、言ってたに違いない!

 くっそー!!


 部室に鍵を掛け、職員室へと戻った。


「すみません、部室の鍵って、どこへ仕舞しまうのですか?」


 虎塚こづかは、体育教師の田辺たなべに声を掛けた。


「おや? 顧問になったのですか?」


「えぇ、まぁ……」


「そうかー、やっと、これで君も仲間ですな」


 ガハハと笑って、肩を叩かれた。


 今まで、仲間と思ってなかったのかよ。

 つーか、いてーよ!


 勿論、面倒だから、口には出さない。


 田辺に誘導され、職員室の隅に在る棚へと案内された。

 すると、そこには警備員が立っており、田辺が「ご苦労様です」と挨拶し、虎塚もそれに続く。


「此処です、この棚が鍵置き場です。今は警備員さんが居て開いてますが、棚が開いてない場合は警備員室から、鍵を借りて空けて返してください。では、担当クラブの札に鍵を掛けてください」


 言われるままに、右下に在った『ゲーム』と書かれた札のフックへ、鍵を掛けた。


「そうですか、ゲーム部ですか、虎塚先生にはお似合いですな」


 どういう意味だよ!


 勿論、面倒だから、口には出さない虎塚だった。



 既に、陽は沈んでいたものの、学校周辺は街灯が多く並んでおり、道を明るく照らしていた。

 だが、お嬢様学校だけあって、迎えの車が多く、一般社会での『街灯によって、危険を回避する』という意味は、この学校の辞書には、載って無いようだった。


 漸く帰宅したのは、午後7時20分。


刀真とうまさん、お帰りなさい」


「ただいま、米子よねこさん。いつも、ありがとう」


「いいえ~、仕事ですから、お礼なんて良いんですよ。それでは、失礼しますね。おやすみなさい」


「おやすみなさい」


 玄関で、家政婦の鈴木米子に別れを告げ、米子が用意してくれている夕飯へと、足を運ぶ。

 キッチンでは既に、小太りの中年男が食事をしていた。


「今日は、随分、遅かったな、刀真」


「子守りをさせられてね」


「子守り?」


「叔父さん、聞いてくれよ! 校長の奴がさ……」


 先に食事をしていたこの男は、刀真の父の弟で、名を虎塚帯牙こづかたいが


「でさ、なんのクラブだと思う?」


「ゲーム部だろ? インベイドの」


「え? なんで知ってんの?」


「俺が、校長に話つけたからな」


「はぁ? え? じゃ、まさか顧問も?」


「否、それは言ってない。ウチの会社に、提供場所の申請が来ててな。此処でも良かったんだが、ほら、教師の家に女生徒が来るってのは、世間体的に不味いだろ?」


「世間体に関係なく、俺が嫌だよ!」


「お前……ホモなのか?」


「なんで、そうなるんだよ!」


「はぁ? お前、大丈夫か? 女子高生だぞ?」


「いいよ、もう叔父さんの性癖は!」


「お前……熟女趣味だったのか?」


「ちげーよ! ノーマルだよ! 同世代が一番なんだよ! そんな話は、いいから!」


「あぁ、場所提供ね。此処でも良かったんだが、ほら、教師の家に女子高生が……」


「そこへ戻るなよ! その先、行けよ!」


「ボケ甲斐のない甥っ子だねぇー」


 帯牙は、刀真にキッと睨まれ、仕方なくその先の話へ移行する。


桃李とうりって、芸能課もあって、融通利きそうだからさ。校長に場所ない?って聞いたら、体育倉庫裏が開いてるから、そこならいいよってね。だから、お前の顧問の話は知らんし、知ってたら遅かったなとは言わんよ」


「はぁ~、なんで子守りで、俺の時間削られんといかんかな~」


「なんなら、代わってやろうか?」


「止めてくれ、身内に犯罪者は出したくない」


「おいおいおい、犯罪呼ばわりかよ、恋愛は自由だろうが!」


「自由じゃねーよ、法律で禁止されてるだろうが! 叔父さん捕まったら、ゲームの所為にされるぞ!」


「くそがー、何れ法も侵略インベイドしてやる!」


「冗談なのか、本気なのか、わかんねーよ!」


「で、ドライバーの腕、どうだった?」


 GTMには、戦闘機以外にも様々な種類があった為、操作する人間の総称をパイロットとは呼ばず、ドライバーと呼んでいた。


「まぁ、反射神経は良いよ。慣れてきたら、もう少し上手くもなるだろうけど、まだまだだね」


「ほぉ~、厳しいなぁ。お前の予想では、どこまで行けそうなんだ」


「今のままじゃぁ、クイーンは無理だね」


 クイーンとは、33位から64位までを差している。

 何故、クイーンと呼ばれるかというと。

 GTWは、1位から32位までを国の王とし、それ以下の国民をその32にで割り振るのだが、プロライセンスを所持する33位から640位まで、その割り振りは、ドラフト会議によって行われる。

 本来は、第一次選択希望ドライバーの事をクイーンと呼んでいるのだが、65位以下をドラフト1位で選ぶことが無かったため、33位から64位がクイーンと呼ばれるようになったのだ。


「そっかー、才能あると思ったんだけどな……」


「才能? 叔父さん、ひょっとして対戦したの?」


「あぁ、俺もだが、ローレンスも墜とされた」


「え! ローレンスが!」


 IT企業ゴーゴル社の会長ローレンス・ミハイロフ、GTWランキングは5位。


「嘘だろ? 凡ミスでもしたのか?」


「否、普通に闘ってだよ。なんせ社内(インベイド)でも噂になってな、シリアルキラーなんて渾名が付けられたほどなんだ」


「シリアルキラー?」


「お前の目には止まらなかったか……登録して、まだ一週間のオペレーター無しで、あれは恐ろしいと思ったんだがな……」


「え? 一週間? 一週間で72位に来たって言うのか?」


「72位? お前、誰の話をしてるんだ?」


東儀とうぎだろ? 東儀雅とうぎみやび


「違うよ、刀真。俺が言ってるのは、東儀飛鳥とうぎあすかだ」

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