第5話「Grand Touring Machine」

 Grand《グランド》Touring《ツーリング》Machine《マシン》、通称GTM。

 それは、ゲーム『Grand《グランド》Touring《ツーリング》War《ウォー》(通称GTW)』で使用される乗り物で、レギュレーションに合いさえすれば、車やバイクなどの路上乗り物でも、戦闘機や気球などの飛行物体でも、アニメや漫画に出てくるようなロボットでも構わない。


 GTMもそうだが、その装備する武器のデザインも、自由に投稿することが出来る。

 勿論、投稿は自由に出来るのだが、使用に至るとは限らない、全てはレギュレーションに収まっていればの話。

 また、優秀なデザインを多く集めるため、高額な賞金を設け、その投稿はプロアマを問わず、更には、GTWをプレイしている必要さえ無かった。


 その優秀作品の選定、それはプレイヤーによる選択とプレイ時間。

 プレイヤーは、ゲーム開始時に受賞対象のID番号を打ち込んで機体と武器を選ぶ、プレイヤーは何度でも選び直す事が可能なのだが、投票されるのは1票のみで、最長プレイだった機体1作品と武器1作品。


 ――賞金総額100億円、最優秀作品には、賞金30億円!


 この宣伝効果は覿面てきめんで、IP(知的財産)所持者まで、参戦する事になる。

 中には、企業やタレントが「自分の作品を選んでください」と無償で宣伝する始末、これにはラルフも、笑いが止まらなかった。


「SNSだけでなく、CMまで打ってくる企業が出るとはな。100億積んだ甲斐がある」


「あぁ、1億程度ではIPホルダーが動かないだろうからな」


「しかし、使用料金を放棄して、投稿してくるとはな」


「100億という額の魔力だな」


 デザインを公募した理由は、3つ在る。

 一つ目は、優秀なデザインを集める事で、プレイヤーも満足し、更に人を呼び寄せる。

 二つ目は、デザイナーを雇ったり、有名デザイナーに依頼する必要が無くなる。

 最後は、ゲームをやらない層を獲得し、このゲームの味方に付ける事だった。


「例え、自分を曲げてでも、一獲千金の夢を取るもんさ。その上で、お前が『ゲームは、良しも悪しも影響を与える。だが、悪影響はゲームに限った事ではない。犯罪をゲームの所為せいする前に、犯罪に辿りつかない為の教育や政策こそが、社会には必要だ』なぁーんて理由を与えてやればいい。必ず、そっちに乗って来る」


「ホント、タイガー。お前が友達で良かったよ」


「それは俺も同じだよ、ラルフ。俺は、お前ほどのカリスマ性は無いからな。俺が言った所で、世間には響かない」


「差し詰め、俺がヒトラーで、お前がゲッペルスってとこだな」


「おいおい、それじゃ、負けるじゃねーかよ」


 そう言って、二人は笑った。



 場所は変わって、此処は桃李成蹊とうりせいけい女学院、体育倉庫裏プレハブ芸夢倶楽部。


 矢張り、GTMは流行の変形型か。

 さて、72位の腕前を拝見しますかね。


 東儀雅とうぎみやびが乗る機体は、人型のロボットで有りながら、戦闘機に変形するGTMで、このタイプが一番人気が有った。

 それは、日本のロボットアニメに影響された事も有るのだが、何より、戦場で一番活躍できた。

 他にも、車やバイク、戦車などから人型に変形するのも有るのだが、年収が貰えるプロが発表されてから、プレイヤーたちは趣味から一気に強さを求め始める。

 だが、ロマンを求める者も多かった。


「よし、今だ! きゅうきょく、がったぁーーーーい!」


 レギュレーションを通す為、戦場でしか合体できない且つ、合体に5秒も掛かる仕様にし、その代わり合体できたら三倍強くなるというロマンを求めたおとこも数多く居たのだが、ほぼほぼ撃ち墜とされていた。



 雅は、テストモードを淡々とこなして行く。


 なるほど、反射神経は良さそうだな。

 オペレーターの指示も、的確で悪くない。

 だが、72位という順位の腕前かと、問われれば疑問が残るな。

 オペレーターからの指示に慣れてないか、もしくは……。


「あれは、東儀の専用機か? それとも、申請された機体を試しているのか?」


 他のオペレーターをしていた部員たちに尋ねたのだが、一斉に睨まれた。


「はいはい、邪魔してゴメンナサイ」


 まぁ、自分たちの力でって想いが強いのだろうが、

 段ボール畳んだり、7時まで仕方なく待ってる顧問なんだぜ?

 質問くらい答えても、罰は当たらんだろ?


 勿論、面倒なので、声には出さない虎塚こづかだった。


 お? 慣れてきたか?


 5度目のテストプレイで、雅の点数は跳ね上がる。


 矢張り、専用機っぽいな。

 だが、それでも、まだ機体が東儀に合ってないな……。


「装甲2%削って、推進3%増しってトコだな」


 つい、口に出てしまい、慌てて口を塞ぐ。

 呟いた程度であったものの、副部長の北川紗奈きたがわさなには聞こえたようで、キッ!と睨まれた。


 おぉ~、こわ!



 午後6時50分、帰宅指示のアナウンスが校内に流れた。

 その3分後、テストは終了し、雅がイプシロンから出てきた。


「雅、最高点出たわよ」


「ホント! 皆の指示も良かったわ、ありがとう。機体の感じも悪くないし、これなら、もっと上位に行けそうね」


 そう甘くはないと思うがな。


 勿論、口に出さなかったのだが、表情に出ていたようで。


「先生、今後も干渉の無いようお願いします」と紗奈に釘を刺された。


「解ってるよ。それに、今日だけだ。明日以降、放課後は校長になるから」


「え? 聞いてないんですか?」


「何が?」


「校長、今日から姉妹校のサンフランシスコで、1年間の海外研修ですよ」


「はぁ?」

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