第3話「ゲーム部発足」
時は、2022年。
それは、インベイド社のレンタル事業が発表されてから2年経った頃、試作機が完成する。
この時代の一般的な家庭におけるパソコンの平均的な記憶装置の実装容量は、テラバイトの次であるペタバイト(2の50乗)に到達し、通信規格も第6世代に入っていたのだが、それでも、ラルフの考える世界を実現するには追いついておらず、試作機とはいえ、家庭用と呼べるサイズに収まってはいなかった。
その大きさは、なんと12m四方の高さ3mで、例えゲームセンターの筐体であったとしても、大きい方に部類した。
だが、その大きさに比例するように、その仮想世界は広大で、地球の実寸を再現したオープンワールドだった。
当初、そのロケテストは、筐体の大きさも相まって、一般には公開されず、資本提供してくれた特別会員のみで行われた。
その特別会員とは、ラルフと同じ『ゲームという文化の地位向上』を願った同士とも呼べる者たちの集まりで、石油王や大企業CEO、映画俳優やスポーツ選手など、世界の富豪がその名を連ねた。
公開しない事が前提であった為、地形データは、山や谷、建物や家に至るまで、全て実際のデータであったり、他にもアニメや映画の著作権物なども、無断で使用していた。
その後、この時の参加者は「永遠に公開しない方が面白かった」と、主張する者も出た程だ。
しかし、それすらも、最終段階に到達した際には、解決してしまうのだが、それはまた別の機会に――。
そして、更に3年という月日が流れ、
技術的は、更に進歩したものの、それでもまだ筐体の大きさは3m立方と大きい物であった為、インベイド社及び、特別会員たちが経営するゲームセンターなどの施設に配置された。
この頃のバージョンは、非公式ロケーションテストの結果を受け、好評だった一つのゲームに絞られた。
そのゲームとは、地球圏を再現した仮想世界を32の国(ワークスチーム)に分かれ、年間を通して覇権を争うというゲームだった。
そんな2025年、日本のとある女子高で――。
校舎は夕暮れに染まり、授業の終わりをチャイムが告げ、数学教師の
窓から射し込む夕陽が眩しく、右手でその光を遮りながら、職員室へと入った。
自分の席に着く事も無く、教材を片付けると、皮の鞄を抱え、帰宅へと歩き出そうとしたその時。
「虎塚先生、ちょっとよろしいかな?」
少し開いた扉から顔を出した校長が、虎塚を手招きしている。
腕時計で時間を気にしながら、少し嫌な表情を見せる虎塚に、声を掛けた校長は「そんなに時間は取らせんから」と言って、招く手を早めた。
虎塚は、嫌な表情のまま、校長室へ。
「なんでしょうか?」
「実はね、君にお願いしたい事があってね」
「お願い?」
「えぇ、本年度より新設されるクラブが在りましてね、それの顧……」
「お断りします」
「最後まで、話は聞きなさい」
「で、その部の顧問をね……」
「お断りします」
「だから、最後まで話を聞きなさいって! で、その部の顧問を君にお願いしたいんだが……」
「お断りします」
「だぁ~かぁ~らぁ~」
裏声を張り上げた校長をクスリと笑うと、虎塚は「続けてどうぞ」と言って、右手を出した。
「その新設の部の顧問をお願いしたいのだがね。発起人である生徒からの要望で、干渉はして欲しくないそうなんだよ」
「ほぉ~。では、名ばかりの顧問で良いと?」
「あぁ、構わん。構わんのだが、流石に時間外の活動となると、誰か付いてないといけなくなる事は理解して欲しい」
「ん~」
「受けてくださいよ。もう、君以外おらんのじゃよ。君が断るから、2つも受け持ってる先生もおるんじゃよ!」
「それは……」
「あぁ、そうじゃよ、そうじゃよ。採用条件じゃったな。君って人は、もぅ~!」
本来なら、教師になる気は無かった。
何処で聞いたのか、俺が京都大学を出た事を知って、この校長がスカウトに来たと言う訳だ。
キッパリ断るつもりだったのだが、母の母校でもあった事で、母からの強い眼差しと、このなんと言うか、頼りないと言うか、助けてあげたい気にさせる校長の人間性に遣られ、条件を付けて受ける事となった。
その条件とは、定時で帰る為に、担任やクラブの顧問には成らないと言うもの。
お陰で、他の教師から白い目で見られる事もあるのだが、土日祝はおろか、夏休み、冬休み、春休みと丸々休暇なのには満足していた。
「解った、解ったよ。ならば、時間外はワシが引き受ける。なら、構わんじゃろ?」
まただ、まただよ、この校長の懇願する眼差し!
そう言う意味では、
「解りました。で、何のクラブなんです?」
「ゲーム部じゃよ」
「ゲーム部?」
「体育倉庫の裏に、プレハブが在るから、今日は挨拶だけ行ってくださいな」
「えぇぇぇ」
「今日は、挨拶だけで良いから! はい、これ鍵ね」
虎塚は、鞄を肩に担ぎ、嫌々ながら校長室を後にした。
「ゲーム部……ゲームを作るクラブか、それとも、レトロなゲーム機集めて遊ぶクラブか。何にしても、よくもまぁ、まだゲームに理解の無い人間が居るこの世の中で、プレハブまで作るなんて、お嬢様学校の極みだね」
そんな嫌味を呟きながら、体育倉庫裏へと向かった先に見えたのは。
「おいおいおい、随分立派なプレハブじゃねーか! どこのお嬢だよ、全く!」
大きな木の看板には『芸夢倶楽部』と書かれてある。
鍵を開け、中に入ると、そこにはもっと驚くべき物が在った。
「ん? イプシロン?」
それは、インベイド社のプロトタイプ筐体だった。
「これ、3000万だぞ! プレハブより高いじゃないか? ん? 違う! シリアル!」
その筐体には、シリアル番号が振られており『No.072』と刻まれていた。
「ランカーか?」
「随分とお詳しいのですね、先生」
振り返ると、5人の女生徒が立っていた。
「あぁ、インベイドは有名だからな、誰でも知ってるだろ? で、部長は?」
「私です、2年A組、
「そうか、俺は顧問にされた虎塚だ」
「された?」
「あぁ、校長から無理やりね」
「では、干渉されたくないというのも?」
「聞いている。寧ろ、有り難い。取り敢えず、挨拶だけして来いという事なんで、俺はこれで失礼するよ」
「待ってください」
「何か?」
「終了時間まで居てもらわないと困ります」
「あぁ、それは校長が」
「校長なら、帰られましたけど?」
「え?」
遣られたぁ~、あのクソ狸め!
まぁ、いい、今日だけだ!
今日だけは、我慢するか!
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