第2話「ゲームは悪かねーんだよ!」

 事の発端は、とある国のとある学校で起きた銃乱射事件だった。

 少年Aは、数年の度重なるいじめに耐えかね、いじめに関わった数人と守ってくれなかった教師を射殺したのである。

 しかし、その事件でマスコミや政府は、少年AがFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)にハマっていた事から、それに影響されたと報じた。


 ラルフ・メイフィールドは、激怒した。


「原因は、いじめだろうがーーーッ!」


「おいおい、怒鳴るなよ。耳が痛いじゃんかよ」


 ビデオ通話の相手が、ヘッドセットを外し、耳を押さえている。


「なんでゲームの所為なんだよ! 親の教育だったり、学校の指導だろうが?」


「みんな、自分の所為にしたくないんだよ。ゲームの所為にしたいんだよ」


「随分と冷静じゃないですか、タイガーさんよ! このままだと、規制入るかもしれねーんだぞ!」


「仕方ないさ、幾らゲームが流行ったとは言え、そっちの方が未だ多数なんだよ」


「なんだよ、多数って! 間違ってる物は、間違ってんだろ?」


「例えそれが間違いでも、世の中は多数派で決まると言っても過言じゃない」


「なんだよ解んねーよ! 説明してくれよ!」


「今まで色々な大学の研究で『暴力的なゲームや漫画、映画などで影響を受ける事は無い』と発表されて来たにも関わらず、その意見に耳を傾けられないだろ? それは影響があると思っているの人間が、ゲームファンにさえも居るからさ」


「そいつらは、裏切り者だな!」


「違う違う、誘導されてるのさ」


「誘導?」


「あぁ、お前さぁ、本当に影響されないと思ってるのか?」


「されねーよ!」


「アニメや、漫画、ゲームの主人公の真似したことないか?」


「そ、それと、これとは、レベルが違うだろう!」


「そうなんだ、犯罪を犯すほどの影響を与えない事を伝えないとイケナイんだよ。どんな作品においても、その作り手は皆、影響を及ぼすモノを目指しるんだ。子供たちがさ『変身!』ってポーズしたくなるようなヒーローを生み出したいんだよ」


「じゃぁ、犯罪を犯すほどの影響を与えないって事を伝えれば……」


「いいや、きっとそれだけじゃ駄目だ。お前、なんで犯罪を犯さないんだ?」


「そりゃ、家族を悲しませたくないし、第一、捕まったら人生パーじゃんよ」


「そう、そこなんだよ。本当に必要な教育は。俺は、その想像が欠けてる者が犯罪を犯していると考えている。だがね、世界の認識は、未だそれに至らない。伝えても理解できなくて、伝わらないんだ。だから、影響が無いと言い切れるくらいの多数が必要なんだ」


「多数?」


「ヲタクとスポーツやってる奴と、どっちの犯罪率が高いと思う?」


「スポーツだな」


「その通り。でもさ『スポーツをやると、犯罪を犯し易い』って言う奴いないだろ?」


「え? それはチョット言い過ぎなんじゃ……」


「そうなんだ、そこなんだよ。体罰、ドーピング、麻薬、強盗、殺人に至るまで、数多くの事件を起こしているにも関わらず、影響が無いと思われてるんだ。逆に、青少年を正しく導くモノとさえ考えられている。ここまでの多数派が、ゲームには必要なんだよ」


「どうすりゃいいんだ?」


「待つしかないだろうな。知ってるか? 昔、日本じゃな、ロックは不良がやるもんだって言われて、差別されてたんだぜ」


「はぁ?」


「でもな、ロックやってた世代が大人に成って、ようやく人権を得たんだよ」


「俺らが大人に成るまで、ゲームに人権は無いってのか?」


「否、もっと根深いかもしれんな。だって、そっち(アメリカ)じゃ、未だに漫画やゲームより、アメフトの方が格上なんだろ?」


「くそがぁぁぁーーーッ!」


「おい、叫ぶなって!」


 タイガーと呼ばれた日本人は、再びヘッドセットを外す。


「くっそ、何も出来ないのか!」


「多数にさえ、出来ればなぁ~」


「でもよ、ホントに多数で解決するのか?」


「多数が居れば、そこに政治家への票が集まるからな。政治家は、それを無視できない」


「幾らなんでも、思想を変えてまで……」


「勿論、自分の信念を通す者も居るだろう。だが、そいつは次の選挙の後、政治家に成ってないよ」


「嫌な世界だな」


「あぁ、嫌な世界だ」


「よし、決めた! 俺、起業する事にした」


「え? お前、大手ゲームメーカーの新機種開発部門の内定決まったって、言ってたじゃないか……」


「あぁ、そうだが、あそこでも変えられない現状なら、行っても仕方ない」


「え~勿体無い。辞めるんならさ、もう秘密にしなくて良いだろ? で、何処に決まってたんだよ、教えろよ」


 ラルフは、日本の最大手ゲームメーカーの名を口にする。


「マジか! 馬鹿かテメーは、聞かなかったことにしてやるから行けよ!」


「もう決めたんだ、お前も手を貸せ」


「はぁ? 俺、高卒だぜ?」


「構わん、お前から得られる雑学や考えは、誰よりも評価できる」


「いやいやいや、過大評価だと思うぞ」


「ただし、軌道に乗るまで、びた一文払わん!」


「えええええええ~!」


 こうして、この時の会話から『世界を侵略する』という意味で、インベイドという名の会社が誕生するのである。


 ラルフは、まず夢を実現させる為に、必要不可欠な仲間を探す為、まず、ゲーム以外の開発を手掛けた。


 人が集まれば、そこに金が集まり、さらに人を産む。


 次々に便利で手軽なアプリを開発し、広告収入であったり、コンテンツその物を売却したりを繰り返し、会社は急成長を遂げ、ついにゲーム機本体である『インベイドTYPE1』を完成させる。


 1号機から、既にナンバリングをしていたのは、あくまで目的までの通過点に過ぎないと言う、ラルフの決意の表れだった。

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