第6話 謎の肥満
ミント以外の全員が理由を話し終わった。
自然と、彼女に視線が集まる。
「なに? 私も言えって? レディに太った理由を説明しろと?」
不機嫌そうに答えるミント。だが、ミントの太った理由こそ重要だった。
――否、太ってもその状態を保っている理由こそが、一番重要なのだ。
ミントは王都一の知恵者にして最高位の魔術師。体型変化の手段など、いくらでも考え付くはずだ。なのに、彼女はこうして醜い姿をさらしている。そして、その姿を恥じている。つまり、彼女の肥満は魔術では解決できない類の物。あるいは高位の呪術的なものなのかもしれない。
「けど、その前に食事にしましょう。みんなもお腹すいたでしょ?」
あからさまに話題をそらした。
そして、そのまま立ち去ろうとするミント。
「おい、待て。貴様の話がまだだろうがっ」
逃げようとするミントを、リッツが静止する。リッツは男女平等主義者であった。必要とあれば、女性に体重を尋ねることやぶさかではないし、必要であれば、女性の胸のサイズを聞くこともやぶさかでない、そんな男だった。
そして、かつての彼は美剣士だったので、そのことを誰も咎めなかった。
しかし、醜く太った今の彼にそんなことを聞かれれば、不快感をあらわにする女性は多いだろう。人間というのは、人の見た目の美醜に残酷である。
ミントも同様であり、既に業焔魔法を放っていた。詠唱なし、威力は加減されているようだが、リッツの肌が小麦色に焼けていた。
……上手に焼けていた。
ミントは小走りで、そのまま逃げていった。
その歩みは遅かったが、誰も追うことをしなかった。
――結局、ミントが太った理由は分からないまま、その場はお開きになった。
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