第5話
二時間目のあと、十五分の休み時間があった。私たちは二年生の教室に行き、霧子の姉に会いに行った。
しかし、霧子の声が大きすぎるという、虐められっ子のことを話すには適さない性質のせいで今は階段の踊り場にいた。
「ゴミ箱の隣に座ってた大きい人がそう?」
「うん。朝の人だった」
「真奈美さん、ね。そんなことのために来たの?」
霧子の姉はため息をつき、霧子を見下ろした。大事なことなんだから、と霧子は姉を見上げて威圧していた。
「お姉さん、その真奈美さんって歌うまいんですか?」
「さあ。私も彼女も美術選択だからね。音楽とは関わらないし、なにより、ね」
虐められてるから、という表現を避けようとしたのか、察してくれ、と視線が飛んできた。
「そこじゃないでしょう。お姉ちゃん、あの人って変な噂とかないの?」
「噂、ねえ。親が人殺しとか、援交してるとか、出どころが曖昧なものくらいならよく聞くけど」
当てにならない、と霧子は少しばかりいらいらしたようすを見せた。逡巡したあと、思い切ったように今朝の話を切り出した。
「あの人に言ってやって。薫さんの写真撮ったり、ベランダに入ったりしないでって」
「そんなことされたの?」
「じゃなきゃここまで来ないって。いいから早く言ってよ」
霧子が姉の背中をグイグイと押し、教室に向かわせようとした。
「待って待って。詳しく聞かないとそんなことできないって」
「わたしが知ってるからいいの! いいからお姉ちゃんはその人のところに行ってよ」
次の授業の担当教師が教室に向かっていた。霧子さん、と私が呼び掛けて指さすと、彼女は姉を睨んで階段を駆け降りた。
「じゃあ、ちゃんと言ってよね。今夜なにかあったらお姉ちゃんのせいだからね」
私のせいでとんでもないことになった。
のちのち姉妹げんかに発展しなければいいけど、と思いながら踊り場に残された姉に一礼し、私も階段を下りて教室に向かった。
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