52 チャイルド・プレイ、そしてジュラシック・パーク②

しばらく廃墟となっていたオモチャ屋の床は、たくさんのホコリがたまっていた。

それらを身体に巻きつけながら俺は走る。



「はぁッ!はぁッ!」



タタタッ!



ドール人形達は俺の後ろだけでなく、棚の上からも追ってくる。

上から回り込もうとする影を俺は確認した。




「イノオオオオオオオオオオオッ!!!!!」




例のドM男も俺を追い掛けてきている。

しかし広い店内で複雑に入り組んだ商品棚のせいで、小回りは俺の方が利く。



「…」


「…!?」




ブンッ!




後ろからの殺気に気づいて、俺はとっさに頭を下へ避けた。

そのまま俺は棚の下に倒れ込む。


見ると、追って来ていたドール人形がオモチャの包丁を振り回していた。

もちろんオモチャなので鋭利なものではなかったが、小さくなった俺には十分な殺傷力を持つ鈍器だった。



「くっ!」



俺はそのまま棚の下を這いつくばって、隣の商品棚から顔を出す。

すると…




「コマンド―ワン、ハイチ二ツケッ…コマンド―ワン、ハイチ二ツケッ…」


「!?」



ドール人形よりも少し背の低い、間接が稼働するタイプのフィギュア十数体が俺を取り囲んでいた。

どうやらアニメか何かのキャラクターらしい。軍服を着てライフルを構えている…




「ウテッ!」


「!?」




その内の一体の指示で、フィギュア達は俺に一斉にライフルを発砲した。



カンカンッ!



ライフルの弾はプラスチックのBB弾だった。

何発かは俺を外し、何発かは避けた。

しかし



ゴッ!


「う”ッ!」



その内の一発が俺の横腹に当たる。

鈍い音を立てて俺は倒れ込んだ。



バンッ


「がハッ!…」



小さくなった俺にその衝撃はすさまじく、激しい吐気に襲われる。

すげぇいてぇ




「コマンド―ワン、ハイチ二ツケッ…コマンド―ワン、ハイチ二ツケッ…」




フィギュア軍隊が俺から一定の距離を保ちつつ陣形を組み直す。

逃げなきゃまずい…


その時…




「どこ行きやがったァァァアアアアア!!??」



バンッ!





さっきのドM男が、フィギュア軍隊を蹴り飛ばしながら俺を探しまわる。

棚の陰に隠れて、俺の姿は見えないらしい。


棚まで蹴り飛ばされたフィギュア軍隊の数体が、俺を見つけて追いかけてくる。




「はぁッ…はぁッ…」




俺は棚の横に付いた取っ手部分から、下から二つ目の棚に上る。

ここからなら、隣の棚に飛び移れるはずだ…

フィギュア軍隊の数体も俺を追ってきている。



「イノイノイノッ!殺す殺す殺す!!!!」




ドM男は結局俺がいた場所を通り過ぎ、先ほどドール人形に襲われたあたりにいる。

今のうちに距離を取りたい。



タタタッ



俺は助走をつけて走る。

隣の棚まで少し距離があるが、助走をつければ十分飛び移れる。




「ふっ!」




俺は腹に力をこめ、助走を利用して勢いよくジャンプした。

あっちの棚にはなんのオモチャも置いてない。


床からも離れているし、フィギュア軍隊もドール人形も上ってこれないはずだ。

空を飛べるようなヤツじゃなければ…


空を飛べるような…



ブルルルルッ


「…」



棚から棚に飛び移る刹那。

俺に寒気が走る。


まるで俺がジャンプするのを見計らっていたように、柱の陰から3機のラジコンヘリがヌルリと姿を出したのだ。

そしてそのラジコンヘリ3機は、俺に向かってBB弾を連射した。




ババババババッッ!!!!!!!!!!!



ゴッゴッ!



「ッ!」



ドンッ!



ほとんどのBB弾が俺には当たらなかった。

しかし肩、腰、足に3発のBB弾をモロにくらう。


俺はそのまま強く身体を床へ叩きつけた。



ドンッ!!



ドンドン!!



ボキッ!



そのまま俺の身体は床を滑り、棚の足にぶつかった。

その拍子に左腕に激痛が走る。

俺はすぐに骨が折れたことを理解した。


俺を外したBB弾は棚の上の段ボールを傾かせ、その上にのったオモチャの空き箱がたくさん落ちてくる。

中には人形用の着せ替え衣装が入っていた。


それらは上手く俺の身体を隠したが、フィギュア軍隊もラジコンヘリも俺がここに落ちたところを見ていた。

ここに俺がいることはばれている。今すぐにでも逃げなきゃいけない。



「ちくしょ…まじで…やばい…」



…この空き箱をどかして逃げても、こんな数相手にできない。

ドール人形数体だけでも、かなちゃんの身体を運べるほど腕力もあるやつらだ。

たとえ武器が無くても勝てない。




「…」



ん?


今すぐにでも空き箱をどかしてフィギュア軍隊やドール人形が襲いかかってきそうなものだが…

なぜか俺の周囲の空き箱は沈黙していた。




「…なんだ?」




俺は空き箱の隙間から外を見てみる。

するとフィギュア軍隊は空き箱の周りをウロウロと歩き回っているだけで、誰も空き箱に触れようともしない。



「…」



俺は場所を変えて違う隙間から外をみる。

棚の上には先ほどのドール人形や、空中にはラジコンヘリもいる。

なぜかその場ウロウロとしている。





「…こいつら、遮へい物に対応できないのか…」





つまり俺の姿が見えなければ、何も出来ないということ…なのか?

外の連中がウロウロとしているのを見ると、俺を探しているのは間違いない。


だとすると、おそらく「失慰イノがいなければ探す」「失慰イノを見たら攻撃する」みたいな単純な指示しか与えられていないんだ。




「…はぁ、はぁ」




遮へい物によって俺の姿を隠せば、奴らが俺のことを襲えない…

突破口はあるな。


オモチャには人間のような五感がない。

そんなオモチャが誰を「失慰イノ」と判断するか。

それは当然、能力者であるショコラ本人が「失慰イノ」と認識している人物である。




「…」




俺は周りに散らばった人形用の衣装を見る。


ショコラと俺は初対面だ。

つまりショコラの俺に対する外見的イメージは、まさに今の俺の格好だけ。

だとすれば、俺が違う格好をして顔も隠せば、これらの衣装もある意味「遮へい物」だ。



いける…



「女もんばっかだ…」



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