たまにはオモチャでもいかがです?

51 チャイルド・プレイ、そしてジュラシック・パーク

桜乃森ボウルは、ショッピングモールや映画館が併設されている大型の施設だ。

7年前に経営する会社がつぶれてから全ての施設が廃墟となり、今はヤンチャな高校生たちの溜まり場になっている。


かなちゃんを追って俺はボーリング場を抜け、ショッピングモールの方まで来ていた。

俺は完全にかなちゃんを見失ってしまった。




「はぁッ…はぁッ…」




かなちゃんを連れて行ったドール人形。

まるで意志を持っているように動いていた。


俺は以前ラブに見せてもらった写真を思い出す。

『アイアンマン』レオナルド・リッジオと共に危険人物として名前の挙がった黒人女性…


『人形回し』ショコラ・ベルスタイン。

おそらく奴だ。




「くそ…完全に油断してた…」




激しい後悔をする自分に「そんなことしてる場合じゃない」と言い聞かせる。

その時。




ブルルルル…




何かのモーター音が聞こえてきた。

大きな機械じゃない…音が軽い。


俺は音のする方に視線を送る。

どうやら、あのオモチャ屋のようだ…




「…」




静まり返った店内。

モール内の1ショップに過ぎないが、かなり広いオモチャ屋だ。


店の中心にある…休憩室のような場所。

おそらく買ったオモチャをその場で遊べるようになっているんだろう、小さいジオラマのようなものもある。


そこの大きいソファーに、まるで暗闇に溶けだすような漆黒の肌の女が座っていた。

胸の大きくあいたシャツ、季節を間違えたような銀色のロングコート。

金色のショートパンツから見える褐色の足。


やはり…

『人形回し』ショコラ・ベルスタインである。




「…」




そして…

ショコラ・ベルスタインの褐色の太ももに、床に這いつくばって頬ずりしている男がいる。

金髪の七三分けでキッチリとしたスーツを着ている。

ショコラはその男の頭を優しくなでている。

太ももに頬ずりしているなんて光景を見なければ、イギリスの立派な会社のエリートサラリーマンだと思っていただろう。





「やっぱりか…」


「あら、失礼な言い方ね。初めましてなのに。」





妙に艶っぽい声の英語。

先ほどまでかなちゃんの事で頭がいっぱいになっていた俺を、冷静にさせるほどの緊張感。





「かなちゃんをどこへやった?」


「…ことを焦るのは、ダメな男の特徴よ?…イノ・シツイ」




ここで俺は、おびただしい数の視線に気づく。

ショコラの背後や床、ソファーにかなちゃんを連れ去った気味の悪いたくさん人形がいた。

全員が俺を見ている。






「可愛いでしょ?アンデット・ドールズっていう…死体や殺人鬼をモデルにしたドール人形よ」





それらの人形だけでなく、ショコラの周囲にはラジコンヘリや床には戦車までいる。

さっきの軽いモーター音の正体はこれか…

その全てがわずかにダストの光りを帯びており、ショコラによって操作されているのがわかる。





「いい趣味してんな。それで、かなちゃんをどこへやった?」


「…。ホワイト・ワーカーのところ。」





ホワイト・ワーカー…

やはり来ているのか…




「どこにいる?」


「まったく…本当にせっかちな男だね。こんな状況、初めてでもないでしょ?」


「…」


「…私たちは、貴方に最終勧告を言いわたしに来たの」




最終勧告。




「リッジオを倒して…ホワイト・ワーカーはますます貴方を気にいったのよ?」


「黒の使途には入らない。」


「あっそ。まぁ、私は別に貴方に興味ないし…言われたことをやるだけよ」


「…」


「ナヴァロッ!相手しなッ!」




パチンッ!




ショコラの太ももに頬ずりしていた男が、ショコラに勢いよく頭をはたかれて床に倒れる。

男は音も出さず、ムクリと起き上がる。




「…」




デカイ…

190くらいあるんじゃないか?

綺麗すぎるほど清潔な身なりだ。


そんなことを考えていると、男が俺を見下すような視線を送ってきた。

そしてゆっくり口を開く…




「私は…ドMだ」


「…」




こんな状況で冗談に乗ってやる義理はない。




「そうか…楽しんでるところ悪かったな…」


「だけど…Mなのは…ショコラ様に対してだけだ…私とショコラ様との時間を邪魔するお前には…」


「…」


「私はドSになる。」




バッ!





長身の男はその長い腕をムチのようにしならせ、俺に殴りかかってきた。

突然のことに驚いたが、おれはとっさに身をかわす。




「死ねッ!私とショコラ様の時間を踏みつぶす罪びとォッ!」




目が血走っている。

大声で乱暴に見えるが、おそらく格闘技の心得があるのだろう。

動きに無駄がない。




ババッ!

シュッ!




「殺す殺す殺す殺す!!!!」




ゴッ!




く…ッ!

腹に一発もらっちまった!

いてぇ…


しかし、後悔はこの先に起こる。

奴に殴られた部分が、ダストの光を帯びていた。


しまった…!

こいつ、今俺に何かした…





「『ジュラシック・パーク』…1/2(ハーフ)スケールッ!」


「!?」




ゴッ!




「うッ!」




バンッ




状況を整理する間を与えず、男は俺の顔面にもう一発パンチを入れる。

俺はオモチャの棚にぶつかる…




「!?」




すぐに起き上がろうとする俺を、何かの違和感が襲う。

なんだ…この男、さっきよりも威圧感が増したような…




「死ね死ね死ね死ね死ねッ!!!!!」




拳をさらに勢いよく俺に向ける。

なんとかよけるが、さっきより勢いが増しているッ!




ゴッ!!



「くはぁッ!」



今度は蹴りをモロに頭にくらう。

すげぇいてぇ…!




「1/48(ディスプレイ)スケール…」




ここで俺は、やっと状況を把握する。

奴の次第に大きくなる威圧感の正体…



「まさか…」



奴の威圧感が大きくなっているんじゃない…

俺の身体が小さくなっているのだ。




「!」




起き上がると俺の視線は、先ほどのドール人形と同じになっていた。

男は見上げるほどになっている…




「自分の異変に気づくのが遅かったなぁ…イノ・シツイ」



タタタタッ




その瞬間、たくさんの足音が俺の視線を降ろさせる。

先ほどの不気味な人形が一斉に俺に襲いかかってきた。




「さぁ、弱いものいじめをはじめようか…」

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