22 ダンサー・インザ・ダーク③

2人から連絡が来たのは3日後の火曜日だった。

ファミレスで待ち合わせをして、すぐ本題に移る。


「イノさんが写真に撮った人の名前と部活、委員会です。全部ではありませんが…」


「助かるよ。ありがとう。」



■3年

1組 尾関 サッカー部 

3組 今泉 弓道部

3組 斎藤 野球部

3組 井口 弓道部

5組 上村 バスケットボール部

5組 石森 弓道部

■2年

1組 小林 ソフトボール部 図書委員

1組 志田 美術部 生徒会

1組 織田 サッカー部 風紀委員

2組 小池 文芸部 アルバム委員

2組 佐藤 弓道部 風紀委員

2組 菅井 帰宅部 図書委員

2組 長沢 弓道部 イベント実行委員

3組 土生 動画撮影部  アルバム委員

3組 原田 黒魔術部 風紀委員

3組 守谷 弓道部 生徒会

4組 米谷 弓道部 図書委員

4組 渡辺 サッカー部 イベント実行委員

4組 渡邊 動画撮影部 生徒会

5組 平手 帰宅部 イベント実行委員

6組 鈴木 軽音部 図書委員

■1年

1組 加藤 不明 

1組 潮 総合球技部 生徒会

1組 柿崎 弓道部 イベント実行委員

2組 斎藤 不明

2組 佐々木 ソフトボール部

2組 長濱 バスケットボール部

2組 高本 サッカー部 

2組 高瀬 不明

5組 景山 異文化交流同好会 生徒会

5組 東村 弓道部

■教師

沢村先生 

大蔵先生

不明5名




まいったな…一見するとバラバラだ。

共通点なんてあるのか?

…てか黒魔術部ってなんだ。



「うちの高校は3年生は委員会に入らなくていいんです。わからないことが多くてすいません」


「十分だよ。2年生なんてほぼパーフェクトじゃないか。」


「1年の時同じクラスだった奴が多かったので…」


「…同じクラス?」


たしか高梨さんと工藤くんは1年の時も同じクラスだったんだよな。


「そうだったんだ。ちなみにどの子?」


「えっと小林、志田、織田さん、小池さん、菅井…あと土生…原田…」


「ちょ…ちょっとまって…そんなにいるの?」


「はい。それに渡邊と平手と…鈴木です。」


いやいやいやいや。

2年生は15人しかいないんだぞ?

その中の10人、つまり3分の2が2人の1年生の時のクラスメート…?


いや…ちょっとまてよ…

そうなると残った5人にも共通点がでてくる。


2人と違うクラスだった残り5人…

佐藤、長沢、守谷、米谷、渡辺…

この子たちは全員…


「弓道部…」


つまりこの中の2年生のほとんどが高梨さん達の元クラスメートで、残りは全員弓道部…ということになる。

ここまでくると、誰でもこの考えに至るはずだ。

2つにわかれた共通点が、1つに交わる。



高梨さん達の1年生の担任であり…

弓道部の顧問…西野先生だ。



「聞きたいんだけど…西野先生って今は何年何組の担任だかわかるかい?」


「え?西野先生…ですか…?たしか…1年生の担任だよな?」


「うん。たしか1年2組だよ。」



やっぱりそうだ…

他の1年生クラスに比べて2組の生徒の数が多い。

弓道部も含めれば、1年生も10人中7人が西野先生が担当した生徒だ。



『…嫌な予感がするのよ』



麻衣さんの言葉が頭をよぎる。

友達が見えなくなってしまった高梨さん。

ダストの光を放つ40人の生徒、教師。

その中のほとんどと関係のある男・西野。


問題の解決はもうすぐだ。

なのになんでこんな気分なんだろう。

不気味な胸騒ぎ…


ダストの光を放つ40人もの人間…

しかしその中の誰ひとり異常な者はいない…。

普通。通常。一般的。


もうすでに能力は効果を終えた…?

いや、だとしたらダストの発動光は途絶えてもいいじゃないか。

能力はまだ発動中だ。


「2人とも…今週末って空いてるかな?」


「今週末…ですか?」


「あぁ。調べたいことがある。もう一度学校へ行きたい。」





土曜日。

俺は部活が終わるのを見計らって2人の高校に来ていた。



「イノさん。」


「2人とも部活お疲れ様。」



西野先生に言われた通り、校長先生から許可を得て生徒指導室で2人と待ち合わせをする。

時間はもう19時。

陽が落ちてから数時間たってる。


「それで、今日僕らは何を?」


「学校の中を案内してくれないかな?特に西野先生と縁のある教室とか施設とか…」


「わかりました。まずは僕らが1年だった時の教室に行きましょう。」


「あぁ。」


本当は弓道部を一番先に調べたいところだ。

しかし今の時間はまだ西野先生も弓道場にいる可能性がある。


高梨さんと工藤くんに連れられ、2人が1年の時に使っていた教室へ向かった。

10分程度3人で教室を調べたが結局何も出てこない。


「この机なつかしいな…」


「となり同士だったんだよね。」


その次に俺たちが向かったのは西野先生の今の担当クラス、1年2組。

ここも10分程度調べたが何も出てこない。

俺たちは教室へ出て、弓道部がたまに使う体育館へ向かった。


「イノさん、一体何を探してるんですか?」


「…わからない」


これだけの人数に何らかの能力をかけて、何も起こらないはずがない。

俺はそう思ってた。


例え本人や周囲が気づいていなくても、ロストマンの影響は必ず残る。

何かもう一歩進むための手がかりが欲しい。






体育館へつくと、その大きさに驚いた。

高校の体育館ってこんなに広いんだな。

こんなときに中卒という学歴を悔やむ。


「弓道部はここの体育館を使ってたんだよね。」


「たまにですけど…隅の方で筋トレとかしてました。」


「…」


期待はしてなかったかが…

当然のように何も出てこない。


「もうここ以外心当たりありませんね。弓道部の備品は弓道場にあるんで体育倉庫は使ってないし」


「…あれは?大きな階段が見えるけど…」


体育倉庫と思われる扉の横に大きな階段が見える。

しかしこの体育館には2階ギャラリーが無い。

それどころか、少し天井が低いくらいだ。


「あれは屋内プールですよ。」


「屋内プール?」


高校すげぇ。

屋内プールなんてあるのか。


「水泳部が廃部になってからは使われてないらしいですよ。授業では外のプール使うんで、僕たちも見たことないんです」


「へぇ…」


俺はなんとなく階段の下まで行き、屋内プールがどんなもんか覗こうとする。


「…ん?なんだあれ」


階段の上に、無造作に置かれた段ボールが見える。

なんだ…?横に小さい穴が空いて…


ん…?


「どうしたんですか?」


「ちょっと待ってて…」


俺は階段を上り、段ボールに空いた穴を少しのぞく。


「…」


そこにあったものは…

高校には…いや、教育現場あってはならないものだった。


「…カメラ?」


カメラのレンズが、穴から外を覗いていた。

それだけじゃない。

赤いランプがついてる。

…撮影中だ。


階段の反対側を見ると、他にも何か仕掛けてある。

トイレの消臭剤のような見た目をしているが、間違いなく設置型の防犯センサーとブザーだ。

それは、あきらかにこの先の警戒レベルが高い事を示していた。


「ここを管理しているのって…誰だい?」


俺のこの問いに答えたのは、高梨さんでも工藤くんでもなかった。


「僕だよ。」


工藤くんよりも少し低い声。

振り向くとそこにいたのは…西野先生だった。


「また君か。ダメじゃないか。高梨さんまで…」


「ごめんなさい。」


その言葉に高梨さんはしゅんと顔を落とした。

俺はある違和感に気づく…


「えっと高梨さんのお兄さんだったよね。この先は立ち入り禁止だよ。」


「…校長先生から…許可はもらいました。」


「立ち入り禁止の場所に入って良いって許可じゃないだろ?」


西野先生のその言葉に工藤くんが答える。


「ごめんなさい、西野先生…俺が案内したんです。でも先生、どうしてここに…」


「高梨さんもお兄さんも、なんでこんなところにいるんだい?」


…やっぱり。

色々な事が、嫌な予感へ繋がっていく。

俺は、西野先生に問いかける。


「西野先生…すいません。でも、工藤くんの質問に答えてもらってもいいですか?」


西野先生の表情が…

変わる


「…え?」


「いや…だから、あなたの横にいる工藤くんの質問に答えてもらってもいいですか?」


「工藤…?」


高梨さんも工藤くんも…

俺の言葉の意味がわからないようだ。


「く…工藤くんかい?…そんなところにいた…のか…」


西野先生が振り向いたのは…高梨さんの隣だった。

しかし、工藤くんがいるのは…


「逆ですよ。…工藤くんがいるのは」


「…!」


西野先生から表情が無くなっていくのがわかる。


「西野先生、工藤くんが見えないんですね。」


「え……」


高梨さんと工藤くんが西野先生を見る。


「…」


西野先生は口を開かない。


「昨日弓道場で会った時、あなたは俺をすぐに高梨さんの友達か兄だと決めつけましたよね?」


「…」


「工藤くんや神崎さんも一緒だったのに…なぜ高梨さんの知り合いだとすぐに決めつけたんですか?」


「…」


「あなたは工藤くんだけでなく、神崎さんも見えてないんじゃないですか?」


頭の中のピースがそろっていく。

俺はリアルタイムで組み上がっていくパズルを実況中継するように…

…淡々と西野先生に質問を投げかける。


「屋内プールに何があるんですか?」


「…」


「西野先生、中へ入れてください。」


「…」


高梨さんも工藤くんも状況を理解できていないようだ。

2人ともこの状況に困惑しているのがわかる。


「…」


西野先生は…言葉や表情で何も語らず、階段をのぼる。

俺の横をぬるりと過ぎると…


「ついてきてください」


と、口を開いた。

俺も何も語らず、西野先生についていく。

2人も俺のあとに続くように、階段を上る。


階段の先には、広めの通路がある。

窓はついているが、その通路は重い雰囲気を持っており、12月だというのに妙に湿気があった。

歩いてる音はまったく響かない。


カチャカチャ…ガチャリ


西野先生は通路の先の大きな扉の鍵を開ける。


「…ん」


扉をあけると、ふわっと鼻につく臭いがした。

薬品の臭いだ…


中に入ると、すぐにまた大きい扉があった。

この先がプールか…

窓という窓がすべて黒いカーテンで閉め切られてる。


ガラガラ


西野先生は淡々と進み、またドアを開けた…


「ここが…屋内プールだよ…」


「…」


そこにはプールがあった…立派な施設だ。

廃部した水泳部というのは…

一体どんな練習をしていたのだろうか。

きっと…青春や夢をこの場所にかけていたんじゃないだろうか。


「おえッ…!!!!!」


工藤くんが…吐きそうになっている…

後ろを振り返らなくてもわかる…


バタッ…


高梨さんが膝をついて、震えてる…

後ろを振り返らなくてもわかる…


それほど俺達の目の前にある光景は

…悪意と狂気に満ちている。


「これで…満足かな…?」


「…」


プールは…

真っ赤が水で浸されていた。


そしてそこには…

おびただしい量の死体が浮かんでいたのだ。


死体はどれも裸で血の気は一切無く。

命を失った『ただのモノ』としてプールに浮かんでた。


目をふせたい気持ちはやまやまだったが…

俺はその死体を一人一人ゆっくりと見ていく…


そう。

俺はその死体達に見覚えがあった。


俺が校内で出会い、写真をとったダストの光を放っていた者たち。

そしてそこには…


神埼さんと、今まさに俺の後ろにいるはずの…

工藤くんの姿もあった。




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