第一章 キタムラと「昇華」
1話目 遭遇と煩悶
「本当につながった…」
毎月末の午前0時に、1時間だけ繋がるというサイト「昇華」。「安心、安全で安らかな死」を望む者にを提供」するという人物が運営しており、依頼達成率は100%と言われている。都市伝説だと思っていたが、実在しているとは思わなかった。反面、私はチャンスを掴んだということになる。
時間ちょうどにアクセスを試みて、残された時間は約10分。私は、ディスプレイの奥にいるであろう人物に、一縷の望みを抱いて「本当にお任せできるのでしょうか?」と問い掛ける。
「お任せ下さい。安心で安全で安らかな死を提供しますよ」
依りたくなるような文字列が返ってくる。定型文を自動で返すシステムがあるような、あるいはコピーアンドペーストで文章を作成して待ち構えていたかのようなスピードだ。頼めば詳細を報じてくれるのだろう。だからこそ、すぐには決められない。
ディスプレイから目をそらし、視線を宙に漂わせる。本当に良いのだろうか?生きて罪を濯ぐ道を選ぶべきではないか? 死して0に代えるのは、卑怯なことではないか?何度ともなく繰り返した自問自答を再び反芻する。
時間は0時55分。24文字の言葉が私に迫る。残り5分で、私は今後を決めなければならない。感情を持たないデジタル時計の秒数が、早く決めろと私を責め立てるようだった。今日が始まって一時間も経たないのに、私は明日を閉ざす決断をしなければならない。決めなければならないのだ。
しかし、私は勢いで決められる人間ではない。焦りと未練を直視するために、私はメンソールのタバコを持って、ベランダへと出ていく。生暖く感じる夜風は、春と呼ばれる季節を迎え入れる準備をしているようだ。
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