水母 ~JellyFish Requiem~

波図さとし

プロローグ 終わりから始まる物語

「キタムラあああぁあああああぁあああああ!!!!!」


 はは。余裕ぶっていたくせに、ずいぶんと必死な顔じゃないか。お似合いだよ、サトミ。そうやって這いつくばって、久しぶりに見る死の影に怯えてろ。そして、そのまま無様に死んでいけ。それでも、お前は許されるわけじゃないがな。俺も同類だから、また地獄で会おうじゃないか。


 しかし…あぁ、もう私も限界なんだな。純化された悪意を宿すこの男の叫びが、今生で聞く最後の言葉になるだろう。打ち込まれた毒が体を蝕み、視界は白くなりゆき、感覚も末端から漏れゆくようだ。


 薄れていく意識の中、断片的に昔を甦らせる。理性なのか夢なのか、私は生きているのか死んでいるのか、はたまた死にいくために、魂が持っていける記憶の断捨離をしているのか。


 光が射さない地下室の一室。数ヶ月過ごしただけの縁も所縁もないこの場所が、私の棺桶となるのだろう。後悔などないなんて言うわけない。後悔しかない。


 だが、全て終わる。瞳を閉ざしても遮ることのない白の中で、あの日が呼び掛けるようだ。私がまだ私だったあの日へと、少しの間帰ろう。すべてが始まって終わったあの日へと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る