第16話 VS忍者クロナガ
ダンジョンはあらゆる強者が蠢いている。
その昔、さる皇国に影の集団がいた。
“
通常、暗躍としてば暗殺やスパイ活動などを主に生業とするが、この者達は違った。
生命を奪う数よりも、救った数の方が多い集団だったのだ。
かの皇国の主は優れていた。
どこかで何か災いが起これば忍者を派遣して人知れずに解決をする。
そうして集めた陰徳が、国を繁栄させることを知っていたのだ。
そうして、光の力を集めてきた影の集団が育まれた。
ある日、皇国はダンジョンの存在を知る。この世界の闇を凝縮したような地下世界があることを知りえたかの国の主は、調査部隊として第八師兵団を派遣した。
しかし、誰一人として帰って来る者はいなかった。
第二、第三の派遣部隊もこれに続いた。
責任を感じた師兵団長であるクロナガは、後を息子に任せ、単身ダンジョンに乗り込んだ。
かの皇国の近くにある入り口は鬱蒼と生い茂る密林の奥地、現地人からは“悪魔の肛門”と呼ばれた遺跡から入ることが出来た。
クロナガの能力は極めて高い。歴代第八師兵団長でも飛び抜けて優秀だった。
クロナガは“影”と人間のハーフだったのだ。
“影”とは第八師兵団員がこの世から命を亡くす時に産まれると呼ばれる守護霊のようなものだ。肉体と精神体の間の身体を持ち、物理攻撃はほとんど通用しない。さらに光の力を蓄え続けた彼らは、破邪魔法も効かず、地上ではほぼ無敵の存在だった。
師兵団員達はそれぞれ先祖伝来の影を持ち、パートナーとなりながらミッションをクリアしていく。
その中でもクロナガは特異な存在だった。
影と人間のハーフであるクロナガは、産まれた時すでに影と同化、影の力に鍛え込まれた肉体と清濁合わせ持った心は明鏡止水の域に達していた。
クロナガは独自の技を用い、あっさりと遺跡の奥にあるダンジョンの入り口に立つ。
クロナガはすでに感じていた。
仲間の生命や影すらもこの先の地で絶たれていることを。
クロナガは覚悟を決めた。
己の肉体を捨て、影となることにしたのだ。
これで殺られる可能性の50%は消えた。
しかし光の力を持つ影すらを消し去る力とは想像がつかなかった。
まずは入る。
しかし、数ミリずつ。
“影移動”とは影に隠れ移動する技だ。
クロナガはそれを用い、ミリ単位で自分の行動範囲を広げていった。
実に数十年。
かのテリトリーに入れば瞬殺されることを考慮したが故の作戦だった。
少しずつダンジョンと同化する日々。
ある日クロナガの息子、ピロナガが父を案じて遺跡へ現れた。
クロナガは当然のように『息子を見殺しにした』。
ピロナガが現れても、動揺も何も無い。
それは既にピロナガとの別れの時に済ませてきたからだった。
一切の邪念を払う明鏡止水。
ピロナガも既に息子に後を託し、父を案じて現れたのだ。
ピロナガが安易にダンジョンへ足を踏み入れると文字通り瞬殺された。
しかしピロナガも仮にも第八師兵団の長であった者。一瞬だけ、光の斬撃を放ったのだ。
クロナガにとって、それは充分な情報を得るのに値した。
一瞬見えた敵の姿。
それは
超古代に存在したといわれる最強の門番。
正邪問わず来る者を消滅させる。
その力は無限。
その存在は強力。
ロストテクノロジーである
神話に登場する程の存在ならば、潰滅に至る経緯も納得せざるを得ない。
ピロナガのお陰で正体とデッドラインは分かった。
しかし対策手段が無い。
クロナガはまたしばらくその地で行動範囲を広げることに注力した。その間数百年。
クロナガの子孫達は、退団と共に遺跡に挑むのが慣わしとなった。
ピロナガの息子ペロナガ。
ペロナガの息子ポロナガ。
ポロナガの息子セバスチャン。
しかし、入り口から奥に進むことが出来る者はいなかった。ただクロナガはその間も情報を集め続けた。
何代目か後、クロナガの子孫にクロナガに匹敵する天才が産まれた。その名はウンコスキー。
ウンコスキーは紛れもなく天才だった。
産まれた時から影の力を操ることはもちろんのこと、努力家で、自分が遺跡に挑むことに対して並みならぬ執念で外界の情報を集め続けた。
その成果でウンコスキーは遺跡の入り口を護るのが
ウンコスキーは古文書の欠片を集め、少しずつ、少しずつ情報を集め続けた。
ある時、ウンコスキーは驚愕の事実を発見する。
それは
守護者を破壊すれば、この国にも被害が及ぶ。
しかしウンコスキーは諦めなかった。そして遂に遠隔操作による核エネルギーのスイッチを切る装置を開発した。
チャンスは一度きりだ。
既に師兵団を退団し、息子に後を託していたウンコスキーは研究に没頭し、世捨て人同然となっていた。
ある日、ウンコスキーは密かに遺跡に向かった。
スイッチを試す為だ。
カチ
遺跡の外れからスイッチを押す。
何も変わらない。
また、実際にいるかも分からない。
しかしウンコスキーは用心深かった。
まずは遺跡の中へ石を投げ入れる。
ガンッガンガン…
反応はない。
次にそこらにいた猿を投げ入れる。
ウキャー!
ベチャ!
ウキャッウキャッウキャッ!
猿も大丈夫だ。
ウンコスキーもクロナガの血を引く忍者。
それもクロナガに匹敵する天才だ。
茶装束に身を包んだウンコスキーはまるで道端に佇むウンコのように、ジリジリと遺跡の入り口へ入り込んでいった。
カチ
50㎝進むごとにスイッチを押す。
カチ
ジリジリジリ
カチ
ジリジリジリ
二晩かけてようやく洞窟の入り口へと辿り着いたウンコスキー。
しかし油断はしない。
先祖達が誰一人として帰って来なかったこの遺跡には必ず何かあるはずなのだ。
カチ
ジリジリジリ
カチ
ジリジリジリ
ピロナガが
カチ
ジリジリジリ
カチ
ジリジリジリ
カチ
ジリジリジリ
この時、ウンコスキーはピロナガを超えた。
しかしウンコスキーは油断しない。
カチ
ジリジリジリ
カチ
ジリジリジリ
…
暗闇に目を慣らすウンコスキー。
するとガラクタのようになった機械兵が力を無くしている様子が見えた。
…
ウンコスキーは油断しない。
このスイッチが効いたのか、それか、何かしらの不具合で既に動かなくなっていたのかが分からないからだ。
(見事だ。我が血を引きし者よ)
突然ウンコスキーの頭に声が響いた。しかしウンコスキーは動揺しない。戦闘中での動揺は一瞬で命を刈り取られてしまうからだ。
しかし、なぜか懐かしい…きっとこの地で果てたご先祖様なのだろう。
事実、クロナガは影となりながら数百年の時を掛けて辺りの遺跡と同化するまでになっていた。
クロナガが超えることの出来なかったラインをあっさり超えたウンコスキー。
しかし。
ザルバッ!
ゴトリ。
音もなく動き出した
(うむ。)
グッパッグッパッと手を閉じたり開いたりする
その残骸をクロナガの意識が支配した。
影となり数百年、辺りと同化し、ただじっと
幾度、子孫が切り刻まれる姿を見ただろうか?
何億、戦いのシミュレーションを行っただろうか?
その動き、立ち振舞い。
一度見たそれを気の遠くなる時間イメージし続けたクロナガは、
半精神体であるクロナガは、長い時を経て自然と同化することにより“同化”のスキルを身に付けていた。
何度もイメージしたその動き通りに滑らかに身体が動いた。
太古の時代からこの地を護る最強の門番である
この身体であれば、ダンジョンを踏破出来るであろうとクロナガは考えたのだ。
そう、最初からクロナガの目的は変わらない。
それは主に示されたダンジョンの捜索である。
そうやって、光の力と闇の力を持ち、忍の技と最強の身体を持つ強者が産まれた。
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それから何百年もの間、クロナガは地下ダンジョンをさ迷い続けた。
歩けば歩くだけ、クロナガは影を張り付けてテリトリーを広げていく。
その影に触れる者は一瞬にして縛り上げられ、突如現れた
その影に今、変態が触れた。
ブゥーッ
バチコーン!
影に触れた瞬間、変態はふとなぜかオナラを発した。
本当にふいのオナラだった。その証拠に変態の頬は桜色に染まり、心なしか恥ずかしそうにしている。
猛毒は、効かない。
光の力も、効かない。
しかし凝縮された恐怖は一瞬で
いや、正確に言えば、クロナガが弾け飛んだのだ。
クロナガも自然と同化した歴戦の強者。恐怖などは在って然りと体現していた。
しかし、変態の腸内にて凝縮された恐怖は一瞬にして生命の根源である恐怖を思い出させた。
その一瞬で、クロナガは弾け飛ばされた。
半々精神生命体であるクロナガは、黒装束のまま
「…貴様は強者か?」
変態が静かに問い質す。
「某は…」
ヴゥン
カッ!
一瞬の閃光の元、クロナガは消えた。いや、消された。
長く身体を支配された
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