第9話 VSダイダラボッチ
時の神話に語られた“巨人物語”という話がある。
その昔、清貧を貫く
四方を海に囲まれ、魔法により繁栄した伝説の国。
長い鎖国により独自の発展を極めたと言われる。
その国が一夜にして消滅した。
ある夜、突如現れた巨人が国を滅ぼしたと伝承にはある。
そして彼の国を滅ぼすと巨人は消えるように消失したという。
その真実、巨人は造られた巨代兵器であった。
清貧を貫いていたのは資源に乏しい国だったからだ。しかし時の宗主はそれを否とした。
他国を攻めいるのは容易い。しかし、自国の人間を傷付けるのは良しとしない。
そこで時の宗主は無限に拡がる宇宙からの資源を求めたのである。
新たな魔法の開発、発展により召還された宇宙からの物質はヒヒイロカネと呼ばれ、彼の国を更なる発展に導いた。
そこで宗主は魔が差した。
この力を用いれば、世界を手に入れることが出来ると魔族に取り入られた大臣の甘言に乗ったのだ。
極秘裏にヒヒイロカネを用いた巨人兵の開発が進む。
そして彼の国は遂に巨人兵を完成させた。
それが自国を破滅させるとも知らずに。
巨人兵の試運転の日。それはガルデニアが滅んだ日だ。
起動した巨人兵はその瞬間、身体中に声が鳴り響いた。
「この種を滅ぼせ」
それは魔族が誰にも悟られずに施した命令だった。
かくして巨人兵は起動した瞬間、刹那の時に地上を一切の生物の生体活動が消滅するほどその地を焦土と化した。
全方位型破壊光線。
しかし時の側近の中にそれを良しとしない勢力があった。密かに巨人兵に対するあらゆる力と対策を蓄えていた。
予めヒヒイロカネの力に対する結界を地下に張り隠れていたその一族は、自国を滅ぼした瞬間の
その日から今日まで、この世界を巨人兵より守る為にその一族は存在し、封印し続けている。
大太法師(ダイダラボッチ)と名付けられた巨人兵器。
その巨人兵が今、地下ダンジョンに甦った。
先に変態の放った
しかし、様々な溶解成分を含んだ変態の
やがて亀裂が入った封印の箱を壊し、まるで眠りから覚めるように
「オオオオオオォゥン…!」
ダイダラボッチの巨咆は当然変態の耳にも入った。
「ピゥンピゥンピゥンピゥン!」
アフロに撫で付けられたスライムが緊急信号のような声をあげる。グイグイとアフロを引っ張り、声のした方向を指差している。
「…変態的強者の香りがするな…」
次の瞬間、変態の目の前に波状の光線が真っ白く現れ、変態は吹っ飛ばされた。
「ぬわーッ!」
遠方から全方位に渡る波状攻撃。
本来ならばチリ一つ残らない程焼き付くされてしまう程の熱量だが、そこは変態。
未知の攻撃に対しても全ての細胞が瞬間的に対処されるように出来ている。
ダイダラボッチは存在している生体反応へ向けて
まだいくつかの生体反応がある。
この波状攻撃では生体活動を停止させることが出来ないことに気付いたダイダラボッチは、巨人とは思えぬスピードで、後ろ向きのまま一番近くにいた変態へ辿り着いた。
「ムーンウォークか…」
変態は呟く。
山のような巨人ではなく、その動きに目を奪われていた。
高速ムーンウォークでみるみるうちに後ろ向きで近付いてくる全裸の巨人。
変態的だ。
くるりとダイダラボッチが変態へ向き直す。
巨大な男性器が変態の前に晒し出された。
「
変態にも美学がある。
下品なモロはダメなのだ。先程のチンコはまだ綺麗だからよかった。しかし見上げれば下品なのは良くない。
謎の判断基準で珍しく怒りの感情を露にした変態。
「ヴァー」
ダイダラボッチはその巨体を活かし、ボディプレスをかましてくる。
「直腸ォッ!」
巨根のような直腸が山のようなダイダラボッチの巨体を支える。
しかしそれこそがダイダラボッチの作戦だった。
まずは全方位型破壊光線で粗方を消す。
次はしらみ潰しに生体反応を捜し、そこに覆い被さる。
そして次は…熱による消毒と無酸素による窒息だ。
周囲の酸素を吸収し熱を産生することにより、環境を破壊せずに生命体だけを駆逐していく。
ダイダラボッチの身体が赤く染まっていく。
ジュウ…
汗も蒸発する程の高温に加えての無酸素地獄。
さすがの変態も暑い。
唯一の着衣である鬼柄のブーメランパンツを脱ぐか、脱ぐまいか。
変態にとって究極の選択に迫られていた。
下品なモロはダメだ。
しかし暑い、この変態パンツを脱ぎたくなる程に!
「なるほど…変態的だな…」
流れ落ちる汗。
暑さと無酸素が徐々に変態の体力を消耗させていく。
「だが…それがよい…!」
変態は全ての技を受ける。
それは自らを痛め付ける為だ。
そう、変態は究極のドMなのだ。
「あと三時間はイケるか…」
サウナ感覚!
近くにいたまだ見ぬ強者達は次々と倒れていく。
突然の
国を滅ぼす程の攻撃を二度も食らい、更には密閉されたダンジョンでの暑さと低酸素攻撃。
この範囲の生物はほぼ壊滅状態である。
しかし尚、変態に勝るとも劣らない変態がこの地に存在していた!
「おーい!君ー!」
変態がダイダラボッチを支えながら更にスクワットをしていると、一人の騎士が現れた。
白銀の鎧を全身に着込み、いかにも暑そうな印象を与えてくる。
「ム…!」
この場に普通にいるだけで強者であることを変態は感じていた。
「…貴様…強者か…?」
「え?」
「…貴様は…強者か?」
「え?」
「強者か?貴様は…」
「え?」
このような会話をおよそ三時間程、変態と白銀の騎士は続けた。
「なるほど…変態的だな…」
「え?」
かれこれ無酸素熱帯地獄に8時間。
変態は体内酸素循環を可逆化し、二酸化炭素から酸素を作り出すことが出来る。
しかしこの騎士は一息で8日間の酸素供給が可能だった。
お互いに変態。
ダイダラボッチは機械生命体の為に与えられたプログラムに準じた行動しか出来ない。故に変態を片付けないことには次の行動に移れないのだ。
変態の興味は既に目の前の白銀の騎士にあった。
「ちょっと待っていろ…」
陽炎揺らめく灼熱地獄の中で変態はそういうと、支えた直腸からダイダラボッチのエネルギーを吸収し始めた。
ドクン、ドクンと太い血管が脈打ちながら、ヒヒイロカネで出来た巨人兵のエネルギーはみるみるうちに枯渇し、遂には膨らむ前の気球のようにシオシオになった。
変態はそれを丁寧に折り畳むと、「ほら」と白銀の騎士に差し出した。
「え?」
変態の額に脂汗が浮かぶ。
基本、変態は怒らない。変態にとって、全ての攻撃はご褒美なのだ。それが無視であっても。
放置プレイならいい。
しかし、白銀の騎士は絶妙のラインを攻めてくる。
無視はしない。
しかし聞こえない。
変態は基本、コミュニケーションが好きだ。
曖昧な態度でもいい。
しかし、この騎士は違う。
恐怖。
ほんの少しだけ産まれたその感情を、変態は速やかに受け入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます