第8話 VS“ギ”
「ほぅ…変態的だな」
一人の赤髪の男が変態を見付けてそう言った。
全裸で。
「ふむ…分かるか」
変態はスクッと立ち上がると真っ直ぐに赤髪の男に向き直す。
「貴様は強者か?」
「まぁまぁだな」
遂には息が掛かる程の距離でジッと見詰め合う二人。
赤髪の男はたまたま変態のいる場所から一番近くにいただけだった。それ故に一番早くに変態へ辿り着いたのだ。
シタタンシタタンシタタン
突如変態は変態的なステップを踏み出した。それに答えるように赤髪の男も変態的ステップを模倣する。
シタタンシタタンシタタン
一歩ステップを間違えただけでキスしてしまう程にお互いの距離は近い。しかしお互いに触れそうで触れないステップをただ繰り返している。
変態的挨拶。
変態的ステップを繰り広げながら赤髪の男が口を開いた。
「俺の名はチンコ。おまえは?」
「変態だ」
「いい名前だな」
「貴様もな」
お互いにストレート過ぎる名前を持つ二人。そこに第三の男が割り込んできた。
紫色の肌を持つリザードマン。
ガランガラン。
彼は手にした剣と盾を床に落とすと華麗なブレイクダンスを披露しながら二人に近付いていった。
シタタンシタタンシタタン
ギュウンギュウンギュウン
「…」
「…」
「…」
三人は無言のまま踊り続けている。
数時間後、変態は緩やかにステップを止めた。二人もそれに習い動きを止める。
「…コーラでも飲むか?」
無言で頷く二人。
変態はおもむろにパンツを下げると腰を突き出す。
プシャアアアア
肛門から滝のように、キンキンに冷えたコーラが吹き出してくる。
「どうした?早く飲め」
「…」
チンコは無言のままリザードマンの投げ捨てた剣を拾うと、有無を言わさず変態の肛門へ突き刺した。
パキン、ポキン、バキバキ…
変態はその剣を肛門で咀嚼し消化していく。
「変態だな」
「褒めるなチンコよ」
変態は頬を桜色に染めながらそう言った。
「ギーギー」
リザードマンがなにやら言葉を発するとチンコは「すまない」と謝った。リザードマンは違う違うというそぶりを見せながら、盾を変態の肛門へ押し付けた。
バキン、ペキン、ムシャムシャ…
リザードマンの盾も音を立てながら変態の肛門に咀嚼されていく。
「ギーギー」
「うむ。いいオヤツだ」
カオス。
なんだかリザードマンも嬉しそうだ。
「すまんな…」
変態は頬を染めながらそう言った。
思わぬ強者達との魂の交流に変態はほっこりした気分になった。
そこそこは怒られると思っていたのだ。
一応変態にもそこら辺の分別はあった。そして生き残った強者達がこの地に集まることも予想していた。
思わぬ僥幸。
しかし、変態は強者達と戦わなければならない。それが
「…お手合わせ願おう…」
「ギ…」
「分かった」
変態のただならぬ雰囲気を察した二人は静かに了承した。
お互いに強者。
戦いはバトルロイヤルであることは暗黙の了解だった。
バグン!
先制攻撃を放ったのはチンコだ。まずは変態の腹部に一発パンチを見舞う。
重い。
シタン!
紫色のリザードマンは距離を取る。
「ギャオオオオオオッ!」
突然耳をつんざく程の咆哮。
肺の息を吐ききったリザードマンの胸元はペシャンと潰れている。そのまま前のめりにクルンと丸まると背中からジャキンと
チンコはこのトリッキーな動きの意味を理解した。
即座に変態の脇腹に廻し蹴りを入れると、変態はリザードマンの元に吹っ飛んでいった。
「ぬわーッ!」
雑魚キャラのように吹っ飛ばされる変態の先にはリザードマンが待ち構える。
ギュインギュインギュイィィィンッ!!
途端、リザードマンの背鰭は猛回転を繰り出す。
ズシャズシャズシャズシャ!!
「ぬわーッ!」
変態の身体が切り刻まれる、はずだった。が、切り刻まれていたのはチンコの方だった。
変態は圧倒的変態力で廻し蹴りを受けたと見せ掛けて肛門から内臓を放出、チンコの体表面にまとわりつき変態の外見を形成、その反動を用い変態とチンコの居場所をすり替えてチンコを吹っ飛ばし、リザードマンに宛がったのだ。
しかし事無げにチンコは立ち上がる。続いてリザードマンも立ち上がる。
なんてことはない。三人ともただ「ぬわーッ!」と言いたかったりギュインギュインしたかっただけなのだ。それは先程のダンスの余韻に過ぎない。しかし、
「カッハ…ッ!!」
ボタボタボタ、と変態は口から血反吐を吐き出す。
先程チンコが放ったのは“一分殺し”。
内臓を破壊し、通常なら一分で対象を死にいたらめる体術だ。
そしてリザードマンの咆哮は聴覚を破壊するものではない。
微細な振動により直接身体を細かく激しく揺らし、毛細血管を破壊、主に脳にダメージを負わせ、再起不能にする。
バタン。
最初に倒れたのはチンコだった。
リザードマンからの目に見えない攻撃に屈した形となる。
先手必勝の世界。
いかに弱そうな攻撃に即死性を乗せるかが鍵となる。
ダンジョンでは毒耐性を持つモンスターは多いが“振動”に対する耐性を持つ者は少ない。よって声に特化したリザードマンに敵うものはいなかった。
ただ耳を塞げば良いというものではない。
大気の振動により、あらゆる方向からリザードマンの攻撃は浸透する。
「なるほど…変態的だな…」
口から血を流しながら変態は呟く。
「ギ…」
紫色のリザードマンは短く返事をした。
緊張は解かない。
リザードマンもまた強者の一角であった。
「名を聞こう…」
「ギ…」
「“ギ”か…いい名だな」
途端、リザードマンから滝のような涙が迸る。
そう、リザードマンの名は“ギ”であった。
しかし産まれながらに口の不自由なリザードマンの言葉を理解する者はいなかった。ただ目の前の変態を除いては。
グッと“ギ”は涙を堪える。
今日、命が途絶えても悔い無し。
この恩人に答える為には全力を尽くして相対することだ。
“ギ”はそう思うと低く姿勢を下げた。
四つ足の姿勢。
舐めるように変態の身体の隙を見回していく。
「お…おぉう…♥」
変態は視られる快感に身悶えした。
“ギ”は考えていた。
咆哮による変態のダメージは少ない。
あれは先制で相手を無力化させる為の攻撃だ。変態には通用しない。
“ギ”が持っていた剣と盾は相手を必要以上に傷付けない為だった。
本当の武器は爪と強靭な皮膚だ。
一見リザードマンに見える“ギ”は龍の系譜を持つ正統な竜だ。
産まれつきトカゲに似た外見を持つ“ギ”はこのダンジョンに捨てられた。
さる竜を飼う王国に捨てられたのだ。
“ギ”という名は師匠から承った。
最初で最後の愛情を師匠はくれた。師匠からしてみればリザードマンを飼うという酔狂だったのかも知れない。しかし“ギ”にとってはかけがえのない時間だった。
“ギ”の脳裏には走馬灯のようにこれまでの時間が繰り広げられる。
それは変態へ攻撃を考えると色濃く甦ってきた。
すなわちそれは死を意味する。“ギ”はそれを知っていた。だから攻撃は出来なかった。
数分か数時間か。
二人は見詰めあったまま動かない。
ジッと“ギ”から見詰められ、変態は徐々に高揚していく。
変態の頬が桜色に染まれば染まるほど、“ギ”は動きを無くしていた。
しかし“ギ”は焦らない。焦りは死に直結する。
しばらくすると“ギ”は完全に動きを止めた。
生体活動を最小限にまで抑え、いわゆる『さなぎ』状態になった。
この変態に勝つ為には…『変態』しかない!
魂でそれを感じた“ギ”は、この変態に勝つ為の進化を脳内に張り巡らし、静かに変態するのを待った。
変態は「おぅッ!」とか「あふん♥」とか言いながらビクン、ビクン、と勝手に悶えている。
セルフ快感。
環境を相手にした快感方法だ。
変態は“ギ”に視られる快感を楽しむ為に自らの妄想を加えたのだ。
ゆえに変態。
だからこその変態。
勝手にビクンビクン快感に酔う変態の目の前で真の変態が“ギ”から始まった。
ビキ…ビキビキビキビキ…
さなぎ化した“ギ”の背中が割れていく。
「ム…」
変態は目を見開く。
“ギ”の中から豆粒のような竜がふんわり飛び上がってきた。
「ギ…」
待たせたな…と言わんばかりに“ギ”は声を発した。
刹那、“ギ”の姿が消えた。
ドゴォンッ!
「くぉっぷッ!」
変態の身体がくの字に折れ曲がる。
バキャアンッ!
ドゴォッ!
押し潰されたように変態は地面に倒される。そこは衝撃によりクレーターのように地面が抉られた。
極小のボディに龍の力。
それが“ギ”の出した答えだった。
キュイン!
ドガン!
「ゲハァッ!」
キュイン!
ドガン!
「グハァッ!」
キュイン!
ドガン!
「ガハァッ!」
縦横無尽の“ギ”による攻撃に、変態は倒れることも許されずにサンドバッグと化す。
キュイン!
ドガン!
「ゲハァッ!」
キュイン!
ドガン!
「グハァッ!」
キュイン!
ドガン!
「ガハァッ!」
地味な攻撃の連続は確実に変態のダメージを蓄積していく。
変態はあらゆる属性攻撃に強い。
そう分析した“ギ”は時間は掛かるが確実に変態を死に至らめる方法を選択した。
純然なる圧倒的暴力。
一撃必殺には及ばないが少しずつ変態を追い込んでいく。
キュイン!
ドガン!
「ゲハァッ!」
キュイン!
ドガン!
「グハァッ!」
キュイン!
ドガン!
「ガハァッ!」
変態の身体は痣だらけに変わる。
変態は喜んでいた。
よもや自分の外姿をここまで傷付ける者がいようとは…!
ここでよく変態の声を聞いてみよう。
キュイン!
ドガン!
「ゲハァッ♥」
キュイン!
ドガン!
「グハァッ♥」
キュイン!
ドガン!
「ガハァッ♥」
♥!
そう、変態はただやられていたのではない。
喜び組。
金正日が作った喜ぶ為の組織。
それは真の“喜び”ではない。
そう、変態は
しかし変態もこの悦びを外だけに留めることが出来なかった。
変態へのあくなき追究。それはやはり内臓にある!
バグン!
突如肛門から現れた変態の直腸に“ギ”は捕食された。
「ギッ!」
しかし“ギ”は焦ることなく内臓に直接攻撃を繰り返していく。
ドガン!
「おぅふ♥」
ドガン!
「おぅふ♥」
ドガン!
「おぅふ♥」
しばらく攻撃を繰り返していた“ギ”だったが、突然あることに気付いた。
ここは…温かい。
記憶の源流に確かに在った母親からの胎動。
ここには確かにそれが存在した。
そして“ギ”は抗うのを止めた。
肛門からひょっこり“ギ”が顔を出す。
「ギ」
「うむ」
それから変態の腸内に“ギ”は住み着いた。
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