第6話 VS悪魔神ザルガンブル
上級悪魔神ザルガンブル。
太古の世界に於いて山を砕き、腐食のカルデラや毒湖を作ったとされている悪魔神。
その恐るべき力は心に暴力を根付かせ、破壊による快感を世に定着させた圧倒的影響力であると神学者は分析している。
神話世界の悪魔の神が降臨した。
その身体は幾万もの魔物と鉱物によって作られていた。
悪魔神官達はこのダンジョンにおいて無数の魔物を狩り、悪魔神達の偶像を作り続けていた。
いわゆる“はぐれ者”達だ。
魔族は“魔”に属する物達の総称である。変態はその頂点に君臨していた。
魔族の中に属性があり、悪魔神官は悪魔属科魔法使い目にあたる。
変態が全ての魔族に崇められている訳ではない。魔族にも人間を味方する者、独自の生態系を持つ者など様々いる。
特に悪魔属などはかつては魔王を何度も輩出してきた名門であり、現魔王によからぬ思惑を抱く者も少なくない。
悪魔神を崇拝している一種の宗教団体だ。
変態は『魔王』というのは係りの名前だと捉えていた。
『社長』や『校長』と同じく、誰かがやらねばならぬ“係り”なだけで偉い訳ではない。
『生き物係り』や『黒板消し係り』など、その職務職責を明らかにした担当なだけだ。
しかしこの悪魔神官達は違う。
選民意識の高さ故に“はぐれ”となり、このダンジョンで独自の文化を築いていたのだと推測出来る。
たった三人でだ。
辞めたとはいえ元魔王の変態はそう考えていた。
変態は自由だ。
自らを縛るものはない。
自分の意思で変態を極め、自分の意思で生きることが出来る。
この悪魔神官達も一緒だ。自分達の信仰を信じてやりたいように生きているのだ。
しかし、自分の時代の魔王制度の時にこのような物達をダンジョンに押し込めていたとしたら、それは大変申し訳ないことをしたと思った。
今変態は思う。
自由は素晴らしい。
それを自分は組織の力で押さえ付けていたのかも知れない。
それを知る為には、この者達との対話が必要だ。
それにはこの者達の信じる悪魔神を打ち砕く必要がある。
「コヤツがおぬしらが言う強者か?」
「…」
無視だ。
無視はダメだ。
世界が凝り固まっている。
『沈黙』と『無視』は違う。
例えば部下に問い掛けるとする。その時に言葉を発さずも目をクリクリ動かしたり、瞬きをしたり、「ぁ~…」と呟いたりする者は良し。何かしら考えている証拠だ。これは“沈黙”と捉える。
しかし、プイと横を向いたり、ただ石になってだんまりを決め込むのは
変態はこれらを感覚によって一瞬で判断を下した。
この悪魔神官達が造り上げた悪魔神を圧倒的変態で叩きのめすこと。
それこそが彼等に対する贖罪であると。
「「「アルカナ・フィールド!」」」
三神官は同時に詠唱を終えると、悪魔神ザルガンブルと変態の周りに半球型の結界を張った。他の偶像が壊れるのを防ぐ為だ。
「ちょうど良い!本気の変態を魅せてやる!!」
悪魔神ザルガンブルの口が開き、巨大な幾何学模様の魔方陣が目の前に現れた。
禁術の失われた魔法。
その威力は地上の造形を変えるほどだ。
「変態フィールド!」
変態はそう叫ぶと、肛門から内臓がモリモリ現れ、まるで開花前のラフレシアのように変態をすっぽりと包み込んだ。
そう、変態は内臓を裏返して自らをガードしたのだ。
ミュン
極細の黒い光線が変態を貫く。
ドゴバカアァンッ!
変態の足元の地盤が粉々に砕け去る。
「ガハッ!!」
変態、ガード出来ていない。
しおしおと力なく変態は肛門に内臓を戻し、ガクッと粉々になった床に膝をついた。
甘い。
悪魔神は神なのだ。
ガードなど水溜まりに落ちたティッシュのように無力なのだ。
「これは…変態的だな…」
口と肛門から血を流し、穴の空いた腹部を押さえながら変態は呟いた。
意味が分からない。
変態のブーメランパンツが真っ赤に染まっていく。
横並びに魔方陣が幾つも形成されていき、矢次早に変態へと黒い光線が発射される。
「ム…ッ!」
変態は学習する。
右へ左へ変態的なステップで光線をかわす。
悪魔神ザルガンブルは攻撃の手を緩めない。極細の光線では仕留めきれないと見るや、広範囲の光線攻撃を織り混ぜてきた。
広範囲光線の威力は少ない。とは言え、極細に圧縮された光線と比べてであって、その攻撃は徐々に変態を焼き、体力を奪っていった。
攻撃をせねばならない。
変態は頭では分かっていたが防戦一方だった。悪魔神に近付くこともままならない。
『先手必勝』
もはや悪魔神の勝ちは揺るがないように見えた。
変態が攻撃を仕掛けようにも広範囲攻撃によって後方へ押し戻されてしまう。
こうなると初手の悪手が悩ましい。
しかし変態は動じない。
だが、このジリ貧な状態では反撃もままならない。しかも通常の反撃ではあの巨体に毛ほどの傷も負わせられないだろう。
ならば…!
「変・態ッ!」
変態は叫んだ。
それと同時に肛門から内臓が瞬時に裏返る。
変態は常日頃考えていた。
どんな生物であろうと内臓は弱い。ならばこれ以上自分を強くするには内臓を鍛えるしかないと。
それから100年以上、変態は内臓を鍛え続けてきた。
内臓の鎧を纏った変態。
先程のラフレシアバージョンではなく、身体にぴったりとフィットしたその姿はピンク色のラバースーツに身を包んでいるようにも見えた。
内臓に痛感神経はほとんどない。鍛え続けてきた変態の内臓は恐るべき装甲を誇っていた。
更に消化器系はそのほとんどが筋肉で出来ている。太い血管が張り巡らされ、変態の筋力は250%アップと化した。
グン!
筋肉隆々のピンク色の変態は広範囲攻撃の間に悪魔神の口に目掛けて距離を一瞬で詰める。
目の前では巨大な魔方陣が近距離から変態を狙う。
「
刹那、変態が構えた掌から強力な消化液が津波のように発射された。
ジュンジョバアァァァーッ!!
悪魔神の口内は溶け出していき、閃光を纏った魔方陣はかき消された。
変態が長年培ってきた様々な消化液。
タンパク質を分解するトリプシン、プロテアーゼ。
糖質を分解するアミラーゼ。
脂肪を分解するリパーゼ、胆汁酸。
その他、今まで取り込んできた様々な毒素が分解する為に出来た強力な膵液がダンジョンモンスターの血肉と鉱物で出来た悪魔神を瞬く間に溶かしていく。
「ォォォォォォ…」
泥沼のように沈み行く悪魔神ザルガンブル。
その本体は遠く悪魔神界に在った。
『面白い魔族よ!いつか我と闘いに来たれ!』
泥沼となった悪魔神の身体から、直接頭に響く声が発せられた。
所詮は泥人形。
悪魔神の力を借りたとて、知能や知識は本物に及ぶはずもない。
しかしその力は間違いなくこの世界の外の力だ。
変態は真っ向から、世界外の力を屈服させた。
シュルシュルシュルシュル…パツン
これが悪魔神を凌駕する変態の力だ!
無言の圧力に悪魔神官達はそんな声が聞こえた気がした。
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