第6話 おれの五歩

「ふっ」

 おれは大仰に肩をすくめてみせた。これ見よがしに見得を切り、どさくさに紛れて一歩踏み出す。

「きさまが、犯罪組織パンデミックの幹部、グリムワードか」


「さっきからそう言っているだろ。いいから、動くな。刀を捨てろ」


「生憎だが、おれは悪には屈しない」

 顎を突き出し、どさくさ紛れにさらに一歩。


「この拳銃に装填された魔導弾は、きさまのSPスーツも貫くぞ」


「アンチボウカン・スーツだ」柔らかく訂正し、さらに一歩。太刀間合いまであと、二歩。


 おれはゆっくりとした動作で高級居合刀シンケン丸に血ぶるいをくれると、流れるような動作でするりと納刀する。

 向けられた拳銃の、撃ちだされる銃弾に対抗するには、神速の居合抜き以外になかったからだ。

 いまの納刀の動作で、さらに一歩。あと一歩だ。あと一歩で太刀間合いに入る。


「さっきから、なに、どさくさ紛れに近づいてきているんだ。気づいていないとでも、思ったのか?」

 グリムワードが呆れた声をだす。


「あ、バレてました?」

「バレるだろ、普通」

「ですよね」


 グリムワードは、容赦なく引き金を引いてきた。おれはシンケン丸を抜き放つ。


 カチリ!

 向けられた銃口を、シンケン丸の切っ先が、塞ぐように抑えていた。


 太刀間合いへは、あと一歩足らなかった。が、奴の身体に太刀が届かなくても、奴が構えた拳銃の銃口へは、なんとか届くのだ。そして、切っ先が銃口へ届けば、奴の銃撃は封じることができる。


 拳銃の引き金トリガーを引き切る時間はコンマ何秒という短いものだが、おれの居合はそれを凌駕する。


「ぐっ」呻く悪のメタル戦士。

 おれはマスクの中でにやりと笑った。

「オートマチック拳銃は、銃口を押されて、スライドがちょこっとでも下がると、引き金トリガーが引けない。観念しろ、おれの勝ちだ」


 が、次の瞬間、グリムワードの身体が閃いた。外から旋風のような回し蹴りが襲ってくる。

 メタル戦士の、蹴り、蹴り、突き、貫き手、肘撃、銃撃、さらに後ろ回し蹴り!


「くそっ。ジュークンドーかっ!」

 おれのガード、受け、躱し、化勁、カウンター、が外れ、着弾、腕に蹴りが入ってシンケン丸が飛ばされる。

「しまった」


「ホワタぁっ」蹴り足を上げた状態でグリムワードが憎々し気におれにクレーム。「ちげえよ、ガンカタだよっ、その特撮脳をどうにかしろっ!」


 言うや否や、蹴り足がマシンガンのようにおれの身体に突き刺さる。

「ガンカタ秘奥義、比斗ひと柔破斬じゅうはざん!」

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