第3話 おれの敵
「静かにしてね、斑目ジラフさん」茶髪の垂れ目が甘い声をあげる。垂れ目具合が、ちょっと俳優の志尊淳っぽい。「暴れなければ、痛いことはしないから」
ジラフちゃんは恐怖に見開いた目で、茶髪の男を見上げている。
男はにっこり笑うと、ジラフちゃんの口から手を外し、その手を上げて仲間に合図した。
黒服にソフト帽で顔を隠した男たちの一人が前に出て、紙手提げから取り出した箱から中身を出した。
可愛らしいケーキだ。イチゴショート。
男はそのケーキを地面に叩きつけた。赤いイチゴと白い生クリームが夜目にも眩しく地面に散らばる。
ジラフちゃんが、意味不明な恐怖に怯えて、足元で潰れたショートケーキを見下ろし、ついで問うように茶髪男の垂れ目を見上げる。
「ふっふっふっ」なんちゃって志尊が、悪魔的な笑い声をあげる。「実は、ある人に頼まれちゃってね。君の評判を落としてもらいたいんだってさ。このケーキは、いま女子に人気の『エーデル・シュヴァイン』のイチゴショートなんだけど、これを君が踏みつけている画像をインスタにアップすれば……、どうなると思う?」
ジラフちゃんが、目に涙をためて、否々と首を横に振っている。恐怖のあまり声を出せず、でもその唇は「たすけて」の形に歪められている。
おれははっとなった。
なにをしている。彼女を守ることが、おれの任務なんじゃないのか?
彼女に嫌われていようが関係ない。敵が十人いようが関係ない。今度視界に入ったら通報すると言われたが、だからといって彼女を助けずして、なんのSPか。
おれはパーカーのフードを目深にかぶると、ポケットから花粉症用のマスクを顔に掛けながら走り出した。
「やめろ! おまえら!」大声で叫びながら、走り出す。「その子から手を放すんだ!」
突然のおれの乱入に、黒服どもが反応し、ぱっと道を塞ぐように広がる。
ジラフちゃんを捕まえていた茶髪の垂れ目が、目を上げてこちらを睨んでくる。
「なんだい、おまえ。すっこんでろよ。関係ないだろ。このキモオタが」
「黙れ、垂れ目。トッキュウ一号みたいな顔しやがって。今すぐ彼女から、その汚い手を離さないと、叩きのめすぞ」
おれは、ズビシっと垂れ目を指さした。
奴は苦笑すると、片手で部下の黒服どもに合図する。それを受けて、おれを囲むように立った黒服どもが、顔を隠していたソフト帽をとった。
「なに?」
おれは目を向く。
帽子をとったそいつらには、顔がなかった。本来顔があるべき場所には、石をけずったような目の凹みと鼻のとんがりがあるのみ。丸顔のモアイのようだった。
人間ではない。こいつら、ゴーレムだ。
魔術によって作り出された一種の人造人間。なるほど、最近はネットでこの手の化物を作り出すことができる呪術道具が販売されており、だれでも簡単にゴーレムやらゾンビやらをそろえることが出来ると聞いた。まさに通販全盛期だ。
「さーて、叩きのめされるのは、一体どっちかな?」
インチキ志尊が嬉しそうに笑う。
おれは、ぱっと後ろに飛び退り、すかさずゴーレムどもと距離をとる。
「仕方がない。そっちがそう来るなら、こっちもそれなりの対応をさせてもらおう」
おれは懐からSPカードを取り出すと、真正面にかざす。
「なに?」
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