かくれんぼ

これは、私がフレンズになって間もない頃のお話。




私がフレンズになり、初めて友達になってくれたのが

センザンコウというフレンズだった。


私と彼女は、特に同族というワケではなく、

偶々森の中で出会い、軽く話をしているうちに、仲良くなった。


親密になった私は、ある日こういう話をした。


「森の中でお屋敷を見つけたんだ。一緒に遊びに行かないかい?」


「うん...?まあ、いいけど...」



乗り気ではない様子だったが、私は構わず案内した。

辿り着いたのは古びた洋館であった。

その焦げた茶色のレンガがとても魅力的で、見つけた時から

入ってみたいと思っていたが、一人で入る勇気は全く無かった。


彼女と共にその中に入ると、いきなり彼女は両手を組み、

寒さをしのぐ様に、二の腕をさすった。


「どうした?」


「寒気がする...、ここ、長居しちゃいけない気がする...」


今思えば、彼女には"霊感"というものがあったのかもしれません。

ですが、そんな言葉を知らなかった私は、無神経にも...。


「気のせいだよ。それより、すごいじゃないか・・・!」


中は意外と綺麗に保たれており、私は色々なものを物色し始めました。

不安がる彼女の目の色など気にせず。


綺麗な壺、柔らかそうなソファー。

いかにも"誰か"が住んでいそうな雰囲気だった。


一通り見回したあと、ある面白いことを彼女に提案する。


「かくれんぼしないか?」


「えっ...?かくれんぼ?」


「この屋敷の中に隠れて見つけるだけだよ」


「・・・」


「私が隠れるから、センザンコウ、見つけてよ。10数えて」


「ちょっ...」



階段を上がり、2階に隠れることにした。

とある部屋の棚の影。


私はドキドキしながら、彼女が探しに来るのを待った。


数分・・・、数十分・・・。


しかし、彼女が私を見つけに来ることは無かった。

しびれを切らした私は再び下の玄関に戻った。


彼女は、彫刻の様にボーっと立ち尽くしていた。


「おい、センザンコウ。何をボーッとしてるんだい」


少し苛立った口調で彼女を問い詰めた。


「だ、だって・・・」


オドオドしている。私は腹が立った。

あの時私は、この気持ちを発散したかったのかもしれない。


飾ってある壺が目についた。

それを持って、彼女の前で割って見せた。


驚いた眼をしていたが、これは、何も怖いことは無いという

ことの証明であった。


「全然怖くないよ。じゃあセンザンコウが隠れてよ」


ポンポンと肩を叩いた。

だが、顔色が変わることは一切ない。


「いやだ・・・、もう帰ろうよ・・・」


少し泣くのを堪えるような声だった。


「頼むよ!私に付き合ってくれ...。

じゃあ、もう一回隠れるから、ちゃんと見つけておくれよ」


「ダメっ!!」


彼女がこれほどまでに大声を出したことがあっただろうか。

心臓が飛び跳ねた。


「ど、どうしたんだ、急にヒステリーになって...」


「もうダメっ・・・、ああっ・・・」


彼女は急にがっくりと膝を落とした。


「怒ってる...、ごめんなさい...」


何を言っているのかさっぱりわからない。

ただ、酷く狼狽し感情を崩壊させている。


「一体君は...」


その時だった。


「きゃあああっ!!」


「...!?」


一気にその場の雰囲気がガラリと豹変したのを、

私も感じた。悪意ある寒気。


「助けてっ!」


空気を切り裂く声で意識が舞い戻る。

彼女の足に黒い何かが巻き付いている。


紫色の靄が辺りに充満し、異世界への扉が開いたかのように...。


私はワケがわからなくなった。

恐怖に屈し、彼女の声を無視して、その場所から走り去った。


「待ってぇっ...!!」


悲痛な声が耳に届く。

けど、私の足は止まらなかった。


その後、館の方へ行く道がわからなくなって、

二度とあそこの館へは行くことは無かった。


まだ、彼女が生きているのか。


それさえもわからない。


もしかしたら、あの館のどこかで。

見つけてくれるのを待っているのかもしれない。







「アハハ...、先生にしては妙にリアリティのある話ですね」


「そうかい。キリン。君はこの話が創作だと思うんだね?」


「...、え?」


「私はね、彼女の事を悔やんでいるんだよ。

このギロギロのモデル...、誰だか知ってるかい?」


「古い友人...」


「彼女は実際にいた。

もしかしたら、今も何処かで...。いや」



今、私達を仲間にしようとしているかもしれない。

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