ゆめのつづき

朝、目が覚めた。

目を擦って、身体を起こす。

頭が真っ白。

ここはどこ。

見たことも無い世界。


隣に彼女の姿は無い。

腕の彼の姿も無い。

そんな光景に言葉出ない。

閉ざされた暗い部屋の中で。


ただ真っ青な海原の中。

ただ前を見据えて進む中。

僕は後ろの彼女の温もりを感じていた。


でも、全部ただの幻想。

全部ただの理想

全部ただの空想

全部ただの妄想

全部ただの想像


こんなゴミみたいな現実が、

僕の事を貶したんだ。


こんなアホみたいな自分自身が、

僕は大嫌いなんだ。


理想郷ユートピアなんてどこにもない。

楽園なんてどこにもない。

ただ一つあるのは、一本の道だけ。


僕は逃げていた?

嫌、僕は避けていた。


こんな不都合な現実を認めたくは無かったんだ。


鞄の中の思い出は、光の様に。

彼女との思い出は、泡の様に。

友達との思い出は、風の様に。


楽しい時間は過ぎたけれど、

大切な時間の流れは、僕の中で流れ続けている。

流れをダムで、せき止めて。

絶対誰にも渡さない。


独りぼっちの部屋に光を差し込ませようと。

遮っていたカーテンに、僕は手をかける。


だけど、僕は思いとどまるんだ。

この眩しい光に、焼かれてしまいそうな気がして。


僕は真っ新な天井を見上げ、

その景色を描くんだ。


明るい太陽、吹き抜ける風、アハハと笑う君の声。


全ては僕の夢。儚い儚い、夢の話。

僕は涙を流していた。


潤んだ瞳で、僕は見つけた。

笑顔を見せる彼女を見つけた。


僕は彼女に触れられない。

彼女も僕に触れられない。


君の声は届くけど、

僕の声は届かない。


僕らを隔てるその壁を、

僕が壊すことは出来ない。


君とお話ししたい。

君と笑い合いたい。

君の肌に触れたい。


僕は君が好きだから。

僕は君が好きなんだ。


僕は君が居ないと、何もできない。


人は弱い存在なんだ。



今すぐにでも飛び込みたい。

ギュッと抱きしめてもらいたい。

カラカラに乾いた心に、水を。

僕はそれだけで、それだけでいいのに。


何かが僕らを引き裂いた。

何かにビリッと引き裂かれた。


僕と君の物語は、まだ終わらない。

否、終わりたくない。終わらせない。

僕は、君の世界へ。

永遠に夢の世界へ。


こんなバカみたいな現実、僕がいたって仕方がないんだ。

こんなクソみたいな現実、僕がいる世界じゃないんだ。


君といたい。ただそれだけの、強い思いが、僕を導く。


暗い部屋の中で、一人水を飲む。

ノドはちっとも潤わない。

僕の体は枯れてしまった。


やっぱり、君が居ないと僕はダメだ。

僕が居ないと、君はダメでしょ?


虚構に向かい、独り言を呟く。


夢の世界への鍵。

僕は手に取る。


すぐに理解できる。

もう、僕の体はこの世界に染まりつつある。


この身体が侵される前に。

一色に染まる前に。

輝きを失う前に。


君と、もう一度あの言葉を交わす為に。


片手で夢の世界への鍵を持ち、片手で君の顔を見る。


今から、行くからね。

美味しい物、沢山食べよう。


自分の身体に、夢の世界への鍵を。

僕は嬉しかった。

もう一度、見れる。夢の続き。


今度は誰にも邪魔されず。

目覚めることも無い。


ずっと一緒にいられるね。

僕はすごく、幸せだよ。



こんなみんなが心を痛めるような現実は、要らないよ。

こんなみんなを悩ませるような現実は、要らないよ。

こんな頭が痛くなるような現実は、要らないよ。

こんなくだらない現実は、要らないよ。

こんな夢の無い現実は、要らないよ。



こんな現実を捨てて、僕は旅立つんだ。

自由な、理想郷ユートピア




ずっと幸せに暮らそうね。大好きだよ。


画面の向こうの君へ向けて。

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