4/3日(水)SKY・HYジュリアナ

 突然で恐縮だが、パルクールという競技をご存知だろうか? 


 都市に潜む忍者、フランス軍が編み出した最強のトレーニング……キャッチフレーズを聞けば表に出せない秘術のように聞こえるだろうが、実際はビルの屋上や、離れた場所の段差に飛び移るなどがメインのエクストリームスポーツだ。 


 しかし、スポーツと侮るなかれ。丹念に周到に、ともすれば偏執的に体を培わなければ、死ぬこともあり得る危険なものなのだ。


 それがどうしたかって? 良い質問だ。 現在の大友兄弟は、アニメの怪盗姉妹のようにビルの上から上を飛び回るハメになっている。 


「救命阿アアアアアアアッッッッッッッッッッッッッッ!!!! 高い!高すぎるのぉおおおおおおおお!」

「良いぞ!もっと高く飛べええええエエエ!!!!! 長年の実験が報われる! 今日、キャッツアイが誕生するのじゃあああああああああああ!!!」

「「もう止めてぇええええええエエエ!!!!!!!!」」


 腰に巻き付けられた変な装置がガスを勢いよく噴射して、体を宙へと浮かばせる。いや、放り投げるって言っていい。 


 足と手に付けられたリストバンドから出たコードを頭のヘルメットに接続すると、四肢が指示を待つでもなく勝手に動き出す。 上空に放りだされた斥力エネルギーを後押しするように、小ぶりな機械から信じられない勢いのジェットが噴射する。 その結果、俺と兄ちゃんは鳥よりも高く空を翔けているのだ。 



~回想だよ~

 タマナシに戻った俺を待っていたのはデカイ女だった。 隠しきれないバブル臭を撒き散らし、ゴツすぎる肩パットが入ったコンサバスーツとカールさせたトサカヘアーをゆっさゆっさしながらサリーと談笑していた。 いい加減変な奴に見慣れすぎたからソイツをデカイ・バブリーと心の中で名付け、ソファーにかけてパソコンを叩いている健の横に座って話しかける。


「よぉ健。 HP開設したから依頼殺到してんだろ? 報酬が高いもんから順々に教えてくれ」

「晃司さん、0件ですよ?」


 いやぁん。


「バカだなお前は。本当にバカだ……いいか?よく覚えとけ。俺たちクラスになるとな、現実なんて見たくないんだよ」

「いや見ないとダメだ。お前はそうやって現実から逃げてギャンブルに走る。その結果大負けして、現実逃避で仕事しているフリしてるだけだ」

「言うねぇ愚兄が。その通りかもしんないけど、現実見たら家賃払えなくて追い出されるまでカウントダウンが始まってんだからな」

「いやぁん!」


 オリジナリティの欠片もねぇ奴だ。真似すんじゃねぇよ。


「ちょっとあんたたち、仕事探してるの?」


 ずっとここにいてお前は何をしてるんだ愚兄が!、と言おうとしたときだ。デカイ・バブリーが馴れ馴れしく話しかけてきた。ドスが効いた低音を、無理やり裏声で可愛くした感じが不快だ。 黙れバケモノって言ってやろうと振り向いたら、デカイ・バブリーの顔が唇が触れあいそうになるほどの距離にあった。


「ひいいいいいい!!!!!もののけええええええ!!」

「ちょっと、誰が玉藻御前よぉ!」

「言ってねぇよ妖怪!」

「確かに妖艶だってよく言われるけどぉ、そんな傾国レベルじゃないわよ!お世辞も言いすぎるとバカにされてる気分になるわね」

「警告ぅ!これ以上二酸化炭素を吐いたら地球が汚れる!地球を守るために警告ぅ!」

「でも、気分が良いから許しちゃう……君、かわいい顔してるしね。やだ!子宮が目覚めたみたい」

「僕の気分を奪わないでぇええ!気分悪くさせないでぇええええ!」

「やだ……ごめんなさい。いつの間にか気持ちを奪ってたなんて」

「シンプルに気持ち悪い!」

「チンプルは……まだハ・ヤ・い・ぞ♡」


 一番嫌いなキャラだコイツ。どうすればいいんだ。殴り掛かったら負けるのは確実だし、日本語通じないし……あ、まさか愚兄。こういうことか? 


 俺と同じように健に仕事がないかと確認したら、こいつに迫られたから「シゴト ハイッタ シキュウ タマナシ」って送るのがやっとだったってわけ?


「兄ちゃん……」

「晃司……お前も汚れると良いよ」

「てめぇ!弟を売るって何なんだ!」

「うるせぇ!いっつもいっつも俺ばっかに汚れ役やらせやがって!お前も同じ目に遭ってみろ!」


 一体何をされたのか気になるが、尋ねたらいけない気がした。 それを聞いてしまったら俺も同じ目に遭いかねないし、兄の尊厳が砂に混じるガラスのように粉々になりそうな気がしたからだ。


「もう!この兄弟は!私のために喧嘩はやめて!」

「そうだね!お互いにやだけど、どちらか生贄にならないといけないからね! 擦り付け合いしてるから邪魔しないでくれる!?」

「いや、待て晃司。 すいません、先ほどお仕事があると……」

「あぁそうそう。ちょっとだけ頭が残念な発明家のジジイがね、実験体探してるのよ。一時間10万だって言うんだけどねぇ……」

「「喜んで行ってきます」」


~回想終わりだよ~


 重力と斥力の狭間で、体が引き裂かれそうになる。 知ってる?空の上って寒さで頬が切れるってこと。 ジジイに文句言ってやろうと思っても、充分に首が回らない。それでも視界の端っこに、口元の白いひげを揺らしながら喜びの舞を踊りだす博士が映った。


 そのままの意味で脳みそと発想が残念なジジイの喜ぶ姿なんてクソにも劣るが……ヘッドスピンとか出来るんすね。。。 


「男がここまで飛べるなら、男より軽い女に付けたらリアル天女になる!!!!! リアル・シータの誕生じゃあ!!」」

「「エブリバディ・ハイイイイイイイイイイイ!!!! ハイ!? ハイイイイイイイイイ!!!!!!!!」」

「そぉれ、フライハイモードスイッチオーーーー―ン!!!! ラピュタを見つけて来ぉい!」

「「バ、バルスゥウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!」」




 皆さん、大友兄弟から学んでほしい。 金に目が眩むと空を飛ぶハメになるということを。 札束に羽が生えたイラストを見たことあるだろ? あれは象形文字なんだぞ。 テストに出ることだけが真実じゃないんだ、覚えとけよ。

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