2/15日(金)母性本能をくすぐればヒモになれますか? 僕じゃダメですか? 仕事もしないで、甘い物片手にダラダラと創作していたいんですって女友達に言ったらLINEをブロックされました。

 ~回想始まり~


「公募用の脚本を書かなくちゃ!」を言い訳にサボってました。タイトルは近況です。ストレスが溜まったので、大友屋に逃げてきました。


 ~回想終わり~




 * * *



 サリーが来た。「どうやって?」とか「なんで稲川さんを?」とか、聞きたいことはいっぱいある。でも、すべて場に合っていない気がする。


「キャハハハハハ!! ねぇ、ケンちゃん! ねぇ!ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!!!!!!!!!!! 向こうから来たよ! バカなオカマが!来たよ! ケンちゃん!!!! 殺しに行かなくて良くなったね!」

「あの……さゆりさん、ちょっと落ち着いて……」

「(西条健の胸元を捻りあげて)あ? お前、私よりこのオカマが好きとか言うんじゃねぇだろうな? あ?違うよな? 私の方が好きだよな? そうだよな? なんで落ち着けとか言うんだよ? 落ち着いてるよ。 殺す予定の奴が来てくれたから手間が省けたんだよ? これってラッキーじゃん? ねぇ、聞いてるの?」

「ゴハァ!」

「ねぇ、誰のクビ締めてるの? 膣も締められない腐れマ〇〇が」



 これはヤバイ。殺人現場を目の当たりにするかもしれん。兄ちゃんを見ると頷いている。さすが賢兄だ。



「あの、サリーさん、さゆりさん。良くないと思います」



 やり直せ愚兄。帰りますって帰るとこなんだよ、ここは!



「話せ合えば分かると思うんです。 さゆりさんも、健くんのことを思ってのことですし……あの、サリーさんだって一緒ですよね? だから……」

「そうね。 お役目ご苦労さま」



 そう言って、サリーはハンドバッグを俺に向かって放り投げた。ずっしりと重い。




「報酬よ。 道案内もしてくれたから、少し色を付けといたわ。あぁ、バッグだけ置いていって頂戴。 気に入っているの、それ」

「……道案内だと?」

「番号交換しといて良かったわ。 それ、GPS付いてるのね」

「ここが俺んちの場合もあるだろ?」

「あなた方の家は調査済みよ。 優しいお客さんが多くて助かったわ」



 つまり、最初から信用していなかったわけだ。ずっと、俺達を観察していたわけだ。葉っぱ落とせなくて兄ちゃんが謝り倒していたときも、マクドでガキのセットを羨ましがっていたときも……見てたのかよ。



「――サリー。依頼終了で良いんだな?」

「良いわよ。ご苦労さま」

「そう。 兄ちゃん行こう」



 そう言って促すも、兄ちゃんは唇を噛んで動かない。



「兄ちゃん?」

「……ゴメン、晃司。 先に帰ってて」

「何言ってんの? 他人様の揉め事にクビツッコんだらめんどくさいことになるよ。 帰ろう」

「サリーさんも良い人だし、さゆりさんも良い人だ。 二人共俺たちが困っているときにメシ食わせてくれたろ? 恩返ししないと」

「兄ちゃん、らしくないよ。 状況を見なよ」



 血まみれの部屋の中で、オカマと狂人が睨み合っていて、その横では顔面を蒼白にして血を吐いている痩躯の男。こんな非日常ってある? 残って恩返しって、どちらかの共犯に鳴るってことよ? 帰りましょう。パチ屋の整理券もらいに行きましょう。



「それでも! 俺は嫌だ!」

「わがまま言うな! 帰るぞ!」

「そうよ、友彦さん……帰って頂戴。 これ以上ひどくなっていくのを見られたくないの」

「サリーさん! あんた何をする気だ!」



 サリーはゆっくりと振り返った。 その目は、いつものように蠱惑的でもなく、イタズラを企んでいるようなものでもなく……



「この女を殺すのよ」



 ―――何もかもを捨てる覚悟を決めた目をした男がそこにいた。






 * * *





 本来の宮崎さゆりは気が小さい女だ。揉め事を嫌い、自分を殺し、群衆の中に混じって、目立たずに生きている女だ。しかし、西条健との出会いが彼女を変えた。



 目を離したら死んでしまいそうなくらい病弱で、それでいて自分の現状を変えたいと願う彼の切実さが、宮崎さゆりの母性を大きく動かした。自分がいないとダメだと思ったのだ。



 しかし、彼女は小心者だ。誰かと向き合って争うことに慣れていなかった。だから、彼女は違う人格を生み出した。何者にも屈せず、自分の意を通す屈強な男にも似た女を生み出した。その切替が、鼻から吸引するフリスクなのだ。



 そして、西条健に母性を刺激されたのは宮崎だけじゃない。長年、弟を守ってきていたカマイタチも同じだったってワケだ。



 大事な男を守るために、男になった女と、女になった男。まさに「LOVE IS OVER」。 行き過ぎた愛。全く……女ってやつは大事なものを守るために、時にはとんでもないものを産みやがる。





 そんなことを考えているときが僕にもありました。




 カマイタチはそう言って、鉄パイプを目にも止まらぬ速さで振り下ろした。その先には宮崎さゆりの頭がある。



 しかし、宮崎さゆりが素早く横に飛んで避ける。勢い余った鉄パイプが西条健に当たる勢いだったが、すんでのところで止まった。



「意外と素早いのね。 ゴキブリみたいだったわよ」

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさーーーーーーーーーーーーーーあああああああああああいいいいいいいいいいいいいい!!!!!! 死ぃいいいいいいねえええええええええええええええええ!!!!!」



 両手に包丁とハサミを持った宮崎さゆりが、カマイタチに襲いかかる。しかし、カマイタチはバックステップで避け際に、鉄パイプで宮崎さゆりの右手首を打つ。その動きは、剣道の強者のように鮮やかだった―――あいつ、カマイタチのくせに刃物は使わないんだな。



「カマン、ギター」



 カマイタチの指示を受けて、ギターマンがフラメンコのように速いテンポの曲を爪弾き始める。宮崎さゆりを見ると、右手首が曲がってはいけない方向に曲がっていた。彼女は床に転がる包丁を口に咥え、カマイタチに猛然と襲いかかる。



「人前で硬い棒を咥えるなんて――少し溜まり過ぎではなくて? 慎みなさいな」



 そう言い捨てた刹那、高く上がったカマイタチの右足が、宮崎さゆりの左側頭部を蹴り飛ばしていた。男の脚力と自らの勢いも合わさって吹っ飛ぶ形で壁に強く打ち付けられた。



 ―――そして動かなくなった。



 カマイタチが床に転がっていた包丁を取る。宮崎さゆりが咥えていたものだ。蹴り飛ばされたショックで離してしまったんだな。そして、カマイタチは悠然と宮崎さゆりの元へと歩を進める。そこに、西条健が立ちはだかった。



「どきなさい。 トドメをさしてあげないと可哀想でしょう?」

「兄さん! 止めてください!」

「あなたを誘拐して殺そうと思った女よ? しっかりと殺さないと」

「僕がお願いしたんです!」 



 西条健は、唾の代わりに血を飛び散らせながら、そう告げた。



「そう。 それが事実でも許せないわね。 こんなに弱った病人を拉致するなんて」

「お願い! 止めて!」

「止めないわよ。 さっさと終わらせて帰るわよ」

「……そういうところがイヤなんだ!」



 カマイタチが止まった。そして、真っ直ぐに西条健を見据える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る