2/15日(金)やっぱお前か
~回想~
そろそろ書くかぁ。→登場人物の名前ってなんだっけ?→あー。晃司と友彦っていうんだ。そっかそっか。スッキリした!!あ、今日パチンコのイベント日だな。明日にするか→すげぇ出た!!今まで溜め込んでいた分吐き出しやがったな。 よし、奮発して高円寺のななこちゃんに会いに行くか。→(HPチェック)いるかな?お、いる上に今日イベント日なの!?スク水無料!?んじゃ行く行く!!→そのまま、2週間経過→今日になって「あ、忘れてた」→今にいたる。
カクとか、溜め込んだの出すとか、スッキリするとか、パチンコとか……これらの単語を卑猥と思ったら負けです。
~回想終わり~
ギターマンはニヤニヤしながら「LOVE IS OVER」を引き続けている。
マジで充分オーバーだ。ラブだけじゃなく今週に起きた全てがオーバーなんだよ。歌詞を引用するなら「終わりにしよう。キリがないから」だ。胸焼けするくらい重くて濃いシチュエーションはうんざりなんだよもう。
「……どういうつもりなんですか」
兄ちゃんがコミュニケーションを図っていやがる。やめろ。帰ろう。
「これはサリーさんの指示なんですか!?なんなんですか!?」
絶叫にも似た兄ちゃんの問いかけに、ギターマンは高らかな笑い声で返した。一言で言えば常軌を逸した状況だ。
「何笑ってんですか!?ちゃんと答えろよ!」
ギターマンは演奏を止めた。そして、兄ちゃんに背を向けて、胸元に挿していたバラを放り投げて一礼する。
誰に頭を下げているんだ?通路は台所の壁で遮られているから、ギターマンが礼を捧げる相手は見えない。
扉が閉まる音がした。兄ちゃんの顔を見ると、驚愕とも絶望とも言える表情を浮かべている。
コツ、コツ、コツ……誰かがこちらに歩いてくる。
壁にはめられた明り取りの窓に、誰かの黒髪と白と赤の服が映る。兄ちゃんは心底ビビり、腰を抜かしたまま後ずさりを始める。同時に、兄ちゃんの支えを失ったドアが閉まった。
ドアが完全に締り切る前に、ギターマンが持っていた鉄パイプを拾い上げる手が一瞬だけ見えた。女性が日焼け対策ではめているような白い手袋。
そして「あえて言うなら『私はアンタを忘れはしない』ってことかしらね」という感情を押し殺した女性の平坦な声が聞こえた。
それは、今から血なまぐさい暴力沙汰が始まることを合図していた。西条健と宮崎さゆりを残して、兄ちゃんと帰ったら殺人を見逃してしまったことに成りかねない。
だってそうだろ?
お隣さんの返り血を浴びて、手袋の大多数が真っ赤に染め上がっていたのだから。
「マジかよ……」と天を仰ぐも、行き止まりの天井しか無い。
「おい、西条健と宮崎さゆり。窓から逃げるぞ」
「分かった!健ちゃん!私におぶさって!」
宮崎さゆりが、いやがる西条健をおぶさろうとしたときだ。ドアが開いた。現れた人物に、全員が釘付けになって動けなくなる。
(まさかコイツが来るなんてな……)
痛くなるほど固く拳を握りしめて、姿を表した人物をにらみつける。
片目を隠すように整えられた黒髪のボブカット。狐皮のコートの下に白いドレス。コツコツコツという音は金属じゃない。赤いピンヒールの音だったんだ。
全身に「熊とか捌きました??そうですよね!そうだと言って!!」って言いたくなるような返り血を浴びて、両肩に鉄パイプを担ぐようにして室内に入って来る美女。
そいつが、俺たちを睥睨して見下すようにこう言った。
「HELLOW!!! LONG TIME NO SEE YOU!!!!!」
彼女の挨拶に、ふたりは声にならない絶叫で返した。
「おい。お前……何やってんだ!!!何んでだよ!!!!!何やってんだよ!!!!!」
なぜ怒鳴っているんだろう?
目の当たりにしている凶行への怒りなのか、それともこれから起こるだろう惨劇に自己防衛を張っているのか。
怒鳴り散らして、彼女が来た理由を求める。
「大きい声出さないでよ。周りから童貞と一晩過ごしたなんて誤解されるなんて嫌だわ。ただ、愛しい弟を迎えに来ただけよ」
クライアントで西条健の兄……中野のカマイタチことサリーは、担いでいた鉄パイプを俺に突きつけて不敵に笑う。
稲川さんの乾いた血がこびりついている鉄パイプが、細く差し込んだ朝日を反射して少しだけ光った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます