2/15日(金)一緒にスースーしようじゃねぇか

 ~前回までのあらすじ

昔のことを振り返ってもしょうがないよね。毎日がNEW DAYだから。昨日のことなんて忘れているし、そもそも設定なんてあってないみたいなもんだからね。これ。


 残り2話!そう言って一ヶ月経過!熟成させているわけでなく、ただ単に余裕がなかっただけである! さらに、2話で完結せず!! 終着地点はとうに見失っている!! この話は、作者の現実逃避でのみ描かれるストレス解消作品である(ドン!!)


 ~終わる~


 西城健はよろめきながら立ち上がる。しかし、体力が持たなかったのか、すぐに倒れてしまった。


 そこに宮崎さゆりが駆けつけて支える。



「ありがとう……さゆりさん」

「ううん。 大丈夫健ちゃん?」



 見つめ合う2人。足元は血の池。俺の感想は「こいつらイかれてる」だけ。



 宮崎さゆりとのワンチャンを実兄に台無しにされ、目の前で狂ったロマンスを見せられても俺のハートはクール。というかドン引きだ。



「―――帰っていいかな?」

「ちょっと晃司!空気読めよ!」

「お前がな!このダメ兄貴が!」

「ねぇなんで!? さっきからお前なんなの!?」

「ちょっとあんたたち!それは前にもやったでしょ! 字数稼いで長編にしようとしてんじゃないわよ!! 今度は健ちゃんの番でしょうがあああああ!」

「おい、宮崎イイイ!!! 健ちゃんってなんかの暗号か!?前もやったってなんだ!??? まさか……新技をtrialしてるのか!?」

「あのちょっといいですか?……ゴハァ!」



 はぁ……疲れる。ただただ疲れる。これ、健ちゃんのお話聞かないとダメなパターンだな。やだなぁ。どうせ下らねぇ理由の駆け落ちだろうが。



 それにしても、お隣さんそろそろウゼェな。



「分かった分かった。聞くから落ち着け。それと、こっそりと話そう……お隣さんをこれ以上刺激するのは……ねぇ?」

「分かればいいのよ。ちゃんと聞きなさい。健ちゃんの涙ぐましい話を。その間に、私は不動産屋さんを調べるから」

「なんでだよ?」

「ハード目なカテゴリの変態が隣人なのよ?これ以上住めるわけ無いでしょ」



 まぁそりゃそうか。今までいろいろと聞き耳たてたんだろうなお隣さん。今回の件があまりにもストレートに響いて本性がむき出しに……



「なんだ?やけに静かになったじゃねぇか宮崎。 あぁ、もう終わりなのか……情けねぇ男たちだな。おい宮崎!次は呼べよ!」



 うん。宮崎は引っ越したほうがいいと思うな。できれば今日中に。



 × × ×



「きっかけは兄さんのひと言だったんです。『大丈夫よ。あんた一人くらいどうとでも食べさせてあげられるから。病気をきちんと治しなさい』って……それが僕には耐えきれなかった」


 部屋中に散らばった血の池の中心で、西城健はそう言った。


「へーかまいたちいいやつじゃーん。なんでたえられなかったのー」

「ちょっと晃司、テンション」



 この状況でちゃんと聞ける兄ちゃんは逆にすげぇよ。



「……僕だって男です。自分の足できちんと立って、兄さんと並んで生きたいんです」

「へぇ~すぎょうい」

「だから決めたんです。 自立できるまで兄さんに会わないって。 それをさゆりさんに相談したら、涙ながらに応援してくれて……自分が危なくなるのを厭わずに、病院の皆にウソを言って退院させてくれたんです」

「ふーん。まぁ、この女はそんなやつじゃねぇと思うぞ」

「さゆりさんを悪く言わないでください!」

「どうなんだ? 宮崎さゆりよ」



 そう宮崎さゆりに話を振る。振り向くと、彼女はテーブルの上に白い粉を線上に広げ、その端の方に顔を近づけて鼻から吸い込んでいた。



「おおいいいい!!!! お前何エキセントリックなことしてんの!!!???」

「うっさいわね!! 眠気覚ましよ!!! 私夜勤明けなのよ!!!」

「どこの世界に眠気覚ましにキメるナースがいるんだよ!!!!」

「フリスクよ!スースーするでしょ!!!」

「嘘だね!! それ、ダメでダメになるお薬だね!」

「お?宮崎。ネクストステージか? 眠いから眠気覚ましにフリスク使って一発キメるのか? 行こうか?」

「さっきからうるせぇのよ稲川!!!!」



 話が進まない……。もういいや。帰ろう。



 この狂騒が一瞬静まり返ったときだ。歌が聞こえた。そんな気がした。



 決して大きくはない。むしろ、何気なく口ずさむくらいの音量だ。



 お世辞にも上手くはなく、むしろ下手と言っていい部類になるだろう。しかし、バリトンに近い歌声とリズムから紡がれるメロディーは、どこか物悲しさを孕んでおり、言い表せない恐ろしさと不気味さを宿していた。



 この歌声に全員が黙らせられたのかもしれない。



 そして、俺はこの歌を知っている。やるせない気分になったときに口ずさんでいた気がするんだ。



「これってLOVE IS OVER……?」



 兄ちゃんも聞こえてたのか。ありがとう。ビンゴだよ。



 何でも屋を始める前夜、パチンコ屋で5人の諭吉をシュレッダーにかけながら、俺が口ずさんでた歌だ。



 誰かが階段を昇ってくる。鉄製の階段に、何か金属が当たっているような音を立てながら。



「宮崎……そのひと言で心と迷いがスースーしたぜ。用意したら行くから待ってろ。一緒に欲求不満をスースーしようじゃねぇか」



 歌声が近づいてくる。お隣さんがやって来る。 帰りたい。

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